第51話 初めておつかいする子
「ドワンウルゴを出ようと思う」
冒険者大会の翌日、俺は朝食後にハクヤ達を集めて言った。
「まぁ、確かにこの町でやることはもう特にありませんしね。いい頃かと」
エルスは持っていたコップをそっと置くと右手を俺の方へ箸を伸ばす。狙いはトカゲの丸焼きだろう。
俺がエルスの右手を捻り上げる中、ハクヤが突如険しい顔をして言った。
「……まだ領主イベントが来てないのだが」
「は?領主イベント……?」
「ああ、普通町では必ず良くない事が起きていてその黒幕が領主であるはずなんだ」
こんな決めつけ領主泣くだろ。
「おいおい……今まで何かこの町で厄介事に巻き込まれたりしたか?」
「冒険者大会」
引きずりすぎだろ。
「はぁ…、あのな?厄介事ってのは無い方がいいんだ。今こうして呑気に朝飯食ってるのが一番だろ?」
「だが――」
「この話は終わりな。朝飯終わったら荷物整えとけよ」
俺はハクヤにそう告げると捻り上げていたエルスの右手を離し自室へ戻る。
魔力盾が増えたことで多少荷物は多くなっているがまぁ装備品だしそこまで気にはならないだろう。
強いて言うなら……
「そろそろ金も少なくなって来たな……」
手元のお金は残り15万ギル程度。この中から宿代、食事代を引けば大した日にち持たないのは明らかだ。
「ここ最近使いすぎだったしなぁ……」
なんだかんだで払っていたパーティ四人分の宿代、食事代。クエストの賞金は俺が全て預かっていたがそれでもマイナスが大きかった。それにこの魔力盾もだ。そろそろクエストも真面目に受けなければ餓死の未来へまっしぐらである。
クエストについても考えながら俺は荷物を持って下へ戻るとそこでは何やらイブがハクヤに怒っている。
近くに寄ってみるとハクヤのやけに楽しそうな顔が見えて来た。
「イブも一人でおつかいぐらいできるの!」
「本当かい?君みたいなアホだと買い物する前に財布を落とすのが目に見えるね」
すかさずハクヤに斬りかかるイブ。
「……何があったんだ?」
「あ、ワタルさん。実はですねさっきハクヤさんが地元自慢をしてまして……」
目を血走らせながら逃げ回るハクヤ、獲物を狙うような鋭い目つきでハクヤを追うイブを注意しつつもエルスに原因聞く。
「ハクヤさんの地元では初めておつかいする子の様子をその国の人皆で観察するテレビ?なるものがあるらしくて……」
狂気の世界ッ!!!
「それで、イブちゃんにはおつかいなんて出来ないだろうって」
「……ああ、いつものやつな。そのうち収まるだろほっとけ」
「そういう訳にもいきませんよ!冒険者っていう職業は一蓮托生なんです!対立したままなんて危ないと思いませんか?」
俺達に一蓮托生って一番合わねえよな。
「そ、それはそうだが……」
「そこでです!」
ぐいぐいと人差し指を俺へと押し付けてくるエルス。
「せっかくなのでイブちゃんにおつかいをさせて上げてみては?」
「おつかい?無理だろ。そもそもする必要が無い。それに俺達1キロ離れたら死ぬんだからな?」
どう考えてもデメリットの方が大きい。
「その点は大丈夫です!すぐ近くの店で防虫スプレーを買ってきてもらう事にします!」
「ああ、確かに森の中の虫はな……。でも今買いに行く必要性はあるか?」
「まあまあ、パーティー内の仲を深める為だと思って下さいよ!」
素直に納得出来ない理由だが防虫スプレーはあっても悪い気はしないでしょと詰め寄られた俺は渋々折れ、イブのおつかい計画を立てることにした。
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「じゃあここの角を曲がって……この通りに出たらここ!この店なら防虫スプレーを売ってるはずだから宜しくな」
この町全体の地図を広げイブにこれから行く店を指し示す俺。
対してイブは楽しそうにワクワクしている様な笑顔で話を聞いている。
「――――――って訳だ。いいか?」
「覚えたの!」
「よし!変に遠くまでいくなよ?あと知らない人にはついて行っちゃ駄目だぞ?」
「の!」
「気を付けてなー」
気合は十分。まずは宿を出ておつかい一歩目を踏み出し満足げなイブ。
そして、考えている事は同じだったのか角を曲がり完全に見えなくなったタイミングで俺達は口を開く。
「「尾行しよう」」「尾行しましょう」
カサカサと不審に宿を出た俺達はすぐさま角を曲がってイブをロックオン。暖かい目で見守る。
「大丈夫ですかね」
「……イブも10歳だろ。普通の家の子だと余裕でおつかいぐらいこなしてるはず…」
「イブちゃんですよ?」
その言い方だと無理そうじゃん。
「あっ!誰かに話しかけられました!」
僅か25メートル先でイブが謎の男性に話しかけられる。
「内容は……聞こえないな」
「で、でも何か断ってますよ!イブちゃんが首を振ってます!」
会話などは聞こえないが首を振るイブ。対して男は何故か笑顔を絶やさずイブから離れる様子は無い。
「……何か怪しく無いか?」
「もう!顔だけで判断は失礼ですって!ほら別に何もせ……あ、もう一人やってきて……ハンカチで眠らせましたね………それで待機させていた馬車に乗っけて……………何処かへ行きました」
何か起きたのか理解できず顔を見合わせる俺達。そして頭の中で考え方が纏ったのは数秒後だった。
「誘拐だあああああああああッ!!!」
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