第48話 俺は戦ってないけど

「よし、何か言いたい事はあるか?」


 清々しい程のドヤ顔で観客席へと戻って来たハクヤに対してイブを抱き抱えながら威圧する。


「勝つ為の努力をしたまでさ」


「それ遺言にしましょう!格言っぽくて綺麗に成仏出来そうな気がします!」 


「罪が重すぎやしないかい?」


「イブちゃんを騙した罪は重いんですよ?」


「ふっ………本当はこんな事したく無かったと言ったら?」


 どっちにしろ説教だよ。


「それで?とにかくそれならお前は何故イブに嘘を?」


 これだけ自信があり、しかもハクヤ自身もイブに引けを取らない能力を所有している。

 別にこんな事しなくても良かったんじゃ?


「ならばワタル、君に問おう。例えば腐ったバナナと普通のバナナがあるとする」


「お、おう…」


「ワタルはどちらを食べる?」


「そりゃ普通のバナナ……」


「それと同じ事だよ」


 驚くほど違えよ。


「つまりは少しでも楽に勝ち進めるようにしたかった?もしくは面倒な対戦を避けたって事ですね」


 ……もしかして俺の理解力が無いのか?


 若干自分の脳を心配するが慌てて我に返りため息を漏らす。

 ずっと思ってはいたがこいつら超音波みたいなので会話してるんじゃねえだろうな。


 そんな中、当の騙された本人はエルスが預かっていた例の卵を受け取りご機嫌な様子。


「……なんかもういいや。とにかく勝ち残ってくれよ?」


「無論、そのつもりさ。ランクEが歴史ある冒険者大会を制覇。まるでラノベの主人公みたいなじゃないか!」


 興奮してデュソルエレイザーを掲げ、くるくると上空で回すハクヤ。

 他の観客が怯えているのでやめましょう。


「ラノベ?ってのは知らねえがとにかく大会を勝ちたいってのが本当なら頑張ってくれ」


「ふっ……存分に暴れてくるとしよう……」


 そう言って次の試合へ向かうハクヤだがそんなハクヤの姿はどうしても俺には無事に優勝出来るようには思えなかった。




✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


 無事に終わらない。そんな考えも杞憂だったのだろうか?

 現在ハクヤは二試合目、三試合目共に中級魔法を駆使し圧勝。ハクヤはAブロック準決勝へとコマを進めていた。


「い、意外にいけるのか?」

 

「そんな雰囲気ですが……」


 俺とエルスは顔を見合わせる。と、そんな事をしている間にも試合は終わってしまう。


 ドゴォォォッ!!!


 地面が砕かれるような音が会場に響き、闘技場の中心では大きな砂煙が上がる。そして中からは一人の笑い声。


「ははははははっ!弱いっ!弱いなぁ!ランクAともあろう冒険者がランクEに打ちのめされてしまった気分はどうだい?僕だったら恥ずかしくて耐えられないね」


 とてもご機嫌な様子で煽り散らかすハクヤに冷え切った観客席。


「あれ勝ち残ってんのバグだろ」


「事故ですよ事故」


「ん………にゃ……」


 眠くなってしまったのかウトウトするイブから卵を回収しながら現実から目を逸らす。


【ハクヤ選手、Aブロック決勝進出です】


 無理でした。


「えっと……向こうの選手は……リドルさんですね。ランクSなので準決勝はシードだったみたいです」


 ここに来てリドルさんか……こりゃあ強敵だな。俺は戦ってないけど。


 だが、これまでの試合を見た限りでは攻撃範囲の広い槍で相手の攻撃をいなしつつ一撃でもっていく戦法を取っていた。

 それに対してハクヤは最初から魔法で追い詰めるタイプ。決して悪い相性では無い。


「……頼むぞ」


【Aブロック決勝戦!リドル選手VSハクヤ選手】


 共に反対側のゲートから登場する。


【なお、決勝戦ではルール変更により特製の競技台が追加されます。こちらの競技台から落ちても負けとなりますのでご注意下さい】


「まるで天下一武ど―――――」


 ハクヤが何か言おうとしたが寸前で思いとどまる。いや、急に口が開かなくなったが正しいだろうか?


 まあ、そんなことはどうでもいい。


 競技台があると言う事は突き落とせば勝ち。これは猿でも分かること。


「落とすか……」


「そうですね……。ハクヤさんの風魔法とかなら強引に競技台から落とす事は出来そうじゃないですか?」


「リドルさんがそんなんで落ちるか?」 


「いや、リドルさんに関して詳しくも無いのに分かる訳ないじゃないですか。ワタルさんは親友かなんかなんですか?」


 そんな責めなくたっていいじゃん……。


「あっ!始まります!」


 エルスの声につられ闘技場の中心へと目を向ける。もちろんそこには競技台。

 そして、


「Sランクだとかイケメンだとか日頃から孤児院に寄付をしているだとかイケメンだとか知らないが僕にしてみれば本戦へ進むためのただのモブさ。覚悟するといいよ」


 イケメン被ってますよ。


「き、君が何処でそんな情報を入手したかは知らないけどこっちにも事情があってね。今回の大会は勝たせてもらうよ……!」


 白熱……とは言えないが意外と盛り上がる会場。

 そして、遂に決勝戦が始まる。


【Aブロック決勝戦………開始ッ!】 

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