第47話 違うドキドキ感
「イブ……これからは常識の勉強しような」
「ワタルさんがイブちゃんの思考を学べば良いんですよ」
ふざけんな。
「ったく…それで?何でこんな犯行に至ったのか経緯を聞いてもいいか?」
現在、動けなくなったイブを膝に乗せつつ事情聴取である。
「……ハクヤが言ったの。イブの相手は一番強い人だから倒したら優勝だよって」
何となくは分かっていたがイブから告げられる黒幕の正体。
「あの野郎ッ…戻って来たらシバいてやる」
イブの単純な頭を利用したか……。こんな時だけ悪賢くなりやがって。
「イブ、また迷惑かけたの……」
しゅん…と自分の失態に気が付いたのか俺の膝の上で縮こまるイブ。
残念な事に男とは非常に弱い生き物であり幼女が落ち込んでいればそれがいかに重大なミスであったとしても叱る事が出来ない。
例外は知らない。
「いや……それは……まあ、大丈夫だ」
「大丈夫……なの?」
「ああ!大丈夫。次はあのハクヤだぞ?」
「終わりなの」
「……ごもっともです」
幼女を慰めようとして言い負かされたんだが?これ泣いてもいいよな。
「お、思い出してみろよ?あれでもハクヤはやるときはやるだろ?きっとイブの分まで頑張ってくれるさ」
苦し紛れにそう言ってイブの頭を撫でる。
「ん……なの」
するとイブは照れた表情を隠したいのか顔を俺の服へうずめてしまった。
「……ひとまずはセーフか」
イブのフォローは無事に成功。それにイブは次の試合で棄権となってしまうがハクヤがあのアホ頭を晒さず勝ち進めば解決だ。
「まあ、でもハクヤさんに期待するだけ無駄だと思いますけどね。多分気持ちが昂ぶって不正で終わりですよ」
そのセリフを俺がイブを慰めてる時に言わなかった事だけは褒めてやる。
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試合は着々と進み、遂にハクヤの初試合がやってきた。
意外にも熱中して試合を観戦していた俺は何故か先程までとは違うドキドキ感を感じているのに気付く。
「つ、次か……」
内心、エルスの言う通りになる気もするが希望を持っておいて損は無い。
「あ、一回戦のお相手はCランクの冒険者さんみたいですね」
エルスがトーナメント表を手に呟く。
Cランクと言えばもう初心者などとは呼ばれない一人前の冒険者だ。それに対していつから冒険者になったのかは分からないが未だにEランクのハクヤ。
普通の観客からしたら勝負の行方は知れているだろう。
「けど……!あいつならッ!」
【第12回戦ハクヤ選手VSトルム選手】
入場したハクヤは何処かそわそわしつつも片手でデュソルエレイザーを構え深呼吸。
準備は万端そうだ。
「ハクヤさんでも緊張するんですかね?」
「あいつが緊張?緊張とは無縁の存在だろ」
「そ、そうですけど…大丈夫でしょうか?」
エルスがいつもの様に少し小馬鹿にした聞き方ではなく珍しく本当に心配している。
何だかんだ言って仲間だからな。
「負けたら大会の賞品である杖が……」
そうですよね、絆なんてありませんよね。
「まあ……大丈夫だろ。それにお前だって知ってるだろ?ここにいた時みたいなやる気に満ちたハクヤは何かやらかすかも知れねえがあんな風に落ち着いたハクヤは―――強い」
【12回戦………開始ッ!】
俺の声と共に試合が開始される。
「フェザーカッターッ!」
先制攻撃はトルム選手の中級魔法。彼の杖から放たれた風の斬撃はハクヤへと真っ直ぐ飛んでいく。
だが、
「ふっ……ウィンドアロー」
ハクヤはデュソルエレイザーを片手で一振り。その瞬間、出現した初級魔法の風の矢がフェザーカッターを全て空中で相殺。そのまま残りの矢がトルム選手を捉える。
「なッ!?中級魔法が―――」
最後まで言い終わることも無くウィンドアローが命中。トルム選手の意識を刈り取る。
ここまで実に10秒。圧倒的な勝利。
「あれあれ?せめてもの情けで僕が撃ったのは初級魔法だったんだが………忖度かな?」
うっざ、くたばれ。
「いや〜先輩冒険者は流石ですね。あえて新米の初級魔法に当たって花を持たせてくれるとは……そろそろ起きても良いですよ」
そんな長めのオーバーキルで満足をしたのかハクヤは上機嫌で退場する。
勝利と引き換えに会場からの声援を失ったハクヤだが無事初戦突破である。
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書いててちょっと長くなりそうだったので分けます……。
彩りの招き猫
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