第46話 止まらねえよ

 冷え切った会場、訳も分からず目をパチクリとさせるリドルさんを後にして俺は待合室へ戻る。

 アナウンスで【両者に拍手を!】と流れた際に誰ひとりとして拍手をしなかった事に苦言を申したい気持ちはあるが、今はいいだろう。

 そんな事より、


「俺って運悪いのかなぁ……」


 ここ最近、やけに運が悪くなってきた気がしなくも無い。それもこれも全部あいつらと出会ってから……


「って……言い訳だよな」


 確かにハクヤ達と出会ってからよく不運に見舞われている気はするが今回は俺の実力不足が大きい。あいつらのせいばっかりにしてちゃいけないよな。


「……いや、でもこれは流石に無理……」


 と、そんなぶれぶれな心の不満をぶち撒けながらエルスの待つ観客席へと向かう。

 待合室にハクヤとイブがいなかったと言う事は試合まで時間のある選手はもしかしたら観客席へ戻っているのかもしれない。

 

 あれでも仲間だ。少しぐらいは気を使ったり慰めてくれるだろう。 




✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


「いや〜あれはダサすぎて流石の私もそっと目を閉じましたよ」


「圧倒的敗北者になった瞬間だね」

 

「い、イブはおにーちゃんがヘタレの雑魚でもずっと味方なの!」

 

 知ってたよ、ちくしょうッ!!!

 

 誰ひとりとして気を使うことも無く素直にで浴びせられた言葉が突き刺さる。


「お、お前らな……少しぐらい慰めと言うか労りの言葉をかけてくれても良いんじゃないのか?」


「魔法を駆使して相手を追い詰める姿に感動しました!」


「ナイフを突き立てて『いいかよく聞け?次俺の領域で動いたらただじゃおかねぇ』と強者の威厳を見せつけたシーンには涙が止まらなかったよ」 


 おう、そうだな。俺も今、お前らの捏造の酷さに涙が止まらねえよ。


「仇はイブが取るの!死ぬより酷い目に合わせて命乞いさせるの!」


 今度は震えが止まらねえよ。


【第6回戦までの出場選手は本部へお越しください】


 気持ちが昂りぴょんぴょんしていたイブを正座させルールをみっちりと説明する途中、アナウンスが響いた。


「お、割と早かったな。頑張ってこい!」


「峰打ちで済ませるんですよ?もしお相手さんの息の根を止めてしまったら怒られちゃいますからね!」

 

 逮捕だよ。


「イブが頑張って杖を手に入れるから見てて欲しいの……!」


「おう、ちゃんと見てるからな!イブには超期待してるぞ!」


「ん!直ぐに終わらせるの」


 俺達の期待を受けて照れたのかイブは小さな手で顔を隠し、トコトコと本部へ歩いて行った。


「………死人出ないよな」


「イブちゃんは少なくともハクヤさんよりは賢いので大怪我ってところですかね」


「今、僕の事を大バカの無能勇者と罵ったのは誰だい?」


 本当に誰だよ。


「そういえばワタルさん、あのスキル使えば少しぐらいは善戦できたかも知れないのにどうして使わなかったんですか?」


「ん?ああ…あんな一度使うたびに腕が使用不可になるようなスキル、使いたくないに決まってるだろ?それに殺傷力ありそうだし」


 一応この大会でスキルの使用に大きな制限は無いが上級魔法以上の威力を持つスキルは使用不可と冒険者の中では暗黙のルールになっているらしい。


 まあ、そもそもそんな強いスキルSランク冒険者が持ってるかもってレベルだしな。   

 精々持ってても中級魔法より少し威力が出るくらい。他はバフなどだろう。


「そうですか……。でもイブちゃんはちゃんと抑えられますかね?私には始まった瞬間にムーンスラッシュでお相手がゾンビ化する未来が見えるんですけど」


 容易に想像できるのが本当に悲しい。


「そ、そう言われると余計不安になって来たじゃねえか!」  


「もしかしたらまだ知らないスキル使う可能性もあるんじゃないか?」


「………それもあるな」


 仲間の所有しているスキルを把握できていないパーティーなんてうちだけじゃないだろうか?


 が、そんな不安が頭を巡るも時間はやってくる。


【第6回戦!イブ選手VSイガルド選手】


 アナウンスが流れた途端、会場が一斉に騒がしくなる。年齢なだけあり、イブは注目されているらしい。


【では6回戦………開始!】


「よう嬢ちゃん。ちびっこい割にこの大会に出るとはなかなか勇気があるじゃねえか。でもな?そんなんじゃ届かない世界があるって事を教えて―――へ?」


 開始から10秒も立っていないだろう。

 イブに隙を見せたイガルド選手が数十メートル吹き飛んだ。


「ちょ、見えたか今の!?」


「瞬間移動……ですかね?」


「あれは確か瞬間的に身体能力を爆増させるスキルだったはずさ。一度見たことがある」


「なるほど……直ぐに終わらせるって言ってたのもこのスキルがあるからか」


 観客席は騒然。盛り上がっているところもあれば理解できずポカンとしている集団もある。


「良いぞー!イブ!」


 圧倒的な戦闘センスに数々のスキル。そしてあの杖。下手したらこのまま今のを繰り返すだけで勝ち進んでいけるかもしれないな。


「ちなみに確かイブのあのスキルは使うと筋肉痛で一日は動けなくなるはずだよ」


 不戦敗確定ありがとうございました。

 

「ちょっと待てッ!なんでそんなスキルを使ったんだッ!?」


「いや、イブちゃんがトーナメント制について理解してる訳無いじゃないですか」


「きっと今頃優勝したと思っているよ」


「は?え?」


 んなバカな事は……と心の中で否定しながらも様子を見てみる。だが現実は非情。闘技場の中心ではイブが足を抱えてピクピクしながらもまるで優勝したかの様な嬉しそうな笑顔をこちらに向けてピースをしている。


 ま、まぁイブはまだ10歳だしそんな頭の弱い所も可愛いのでよしとすることに――


 出来ねえな。


「残りって……」


「安心したまえ。全て僕の計画通りさ。あとは僕が蹂躪していくだけの簡単な大会だ」


 ここまで大層な自信。だが正直いけなくもない気がする所がハクヤだ。

 

「た、確かにイブが次の試合に出られない以上お前が最後の砦だが……」

 

「だがなんだい?」


「……いや、何でも無い」


 ここまで来れば分かってる。やる気と見せ場この条件が揃ったとき、この後の展開は容易に想像が出来る。

 今更口に出すのは無粋だろう。


「……はぁ」


 なんとなく察した未来にため息を付きながら俺は筋肉痛で動けなくなったイブを迎えに行くのだった。

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