第45話 無名の雑魚だね
「いや〜厳重注意で済んで一安心ですね」
「ま、まぁ逮捕者が出なくて本当に良かったが……気を付けろよ?」
事情聴取は長引き時刻は正午。現在、宿に戻ってきた俺達は昼休憩中をしている。
「次はイブも連れて行って欲しいの……」
安心する俺達3人を見て一人だけ無関係なイブは昨日貰った卵を転がしながらどこか不満げに言った。
「………連れて行けたら連れて行ってやるから。な?だから元気出せって…」
「それ連れて行かないやつじゃないですか」
「1ミリも信用出来ない言葉だね」
お前らは人の気持ちを理解する事が出来ない鬼かよ。
「……いいの!イブは赤ちゃんを大事にするの!」
ますます膨れ上がって卵を抱え込むイブ。
割とマジで無精卵だった場合の事を考えておかなければいけないかもしれないな。
だが、そんな俺の考えは誰ひとりとして察することも無く会話は進む。
「えっとそれで…確かこの後って……」
「ん?ああ……大会のエントリーがそろそろだからひとまずギルド運営の闘技場まで移動だな」
「遂に僕の神にも勝る力を見せつける時がやって来たようだね」
「死なない程度に蹴散らすの!」
ふむ。殺る気がありそうだ。
「いいか?あくまでも試合だからな?うっかり殺っちゃったじゃ済まないからな?」
「安心したまえ。峰打ちの極意すらも僕は会得している。隙は無いよ」
「……ならいいが」
思えばこいつらが自信満々の時、ろくな目にあった試しが無い。更に言えば、途中まで順調でもぶち壊される事もあるわけだ。
『何が起こるかわからない』そんな意識を持ちつつ俺は闘技場へと向かった。
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「じゃあ、行ってくるよ」
着いた俺達は早速席を取り、エントリーへ向かう。
「エルス、ここ頼むな?」
今回エルスは出場しない。もちろん理由は使える攻撃魔法がゾンビ相手にしか通用しない神聖魔法しかないからだ。
当の本人は刺し違えてでも一人、出場冒険者を再起不能にします!と意気込んでいたがそんな危険人物を出場させるわけにもいかないのでこの町で一番人気なお土産ストラップ『初代勇者の盾』で手を打ってもらった。
「頑張って下さいね!死んでさえなければいくらでも回復出来るので暴れてきちゃって下さい!」
「暴れるの!」
いや、駄目だよ?
「暴れるとしよう」
本当に駄目だよ?
「まあ……どうなるかは分かんねえけど出来る事は全部やってくるよ」
「ふふっ!待ってます!」
そんなエルスの笑顔に見送られエントリーへと向かった俺達はシートへ名前を記入し、待機場所へ案内された。
待機場所での冒険者は様々で、ウォーミングアップをする者に寝る者、俺達のように固まって作戦会議をする者などがいる。
そして数十分後にはトーナメント表が発表され、貼り出されることとなった。
ブロックはAからCまで。各ブロック25人で合計75人の冒険者が今大会に出場しているようだ。
「俺は……Aブロックか」
「奇遇だなぁ!僕もだよ」
「イブも一緒なの!」
こぞって大爆死じゃねえか。
「ここまで一緒だとは……まるで運命だね」
「おにーちゃんと仲良しなの!」
「どうしてお前らはそんな楽観的でいられるんだッ!?潰し合うことになるかもしれねえんだぞ!」
「落ち着きたまえ。僕達はブロックが同じでも距離は遠い。ワタルが初戦でイブが6戦目そして真打ちの僕が12戦目だ。もし当たるとしても準決勝ぐらいにはなるんじゃないのかい?」
「そ、そうだな……。それで?」
「もし当たったら手加減はしないよ。僕の全力をもって相手をしてあげるさ」
どう転んでも大爆死じゃねえか。
「い、痛くはしないの……」
ほら、傷付けられる側じゃん。
と言うかもし、イブとハクヤが当たったらどうなるのだろうか?これまで二人がモンスターと戦っているところは何度も見てきたが二人が本気でやりあってるのは見たことがない。
少し気になりはするがまあ、今は自分の心配をするべきだろう。
「ええっと、初戦の相手選手の名前はリドルさんか。二人は知ってるか?」
「無名の雑魚だね」
「知らないの」
聞くんじゃなかった。
無知二人に聞いた事を後悔し、改めてなんとかそのリドルさんを探して挨拶をしようとしていた時、アナウンスが入った。
【Aグループ一回戦、二回戦、三回戦に出場される選手は本部へお越しください】
「あ、悪い。俺、行ってくるわ」
「精々頑張りたまえ」
「応援してるの!」
イブのハグを受け、本部へと足を運ぶ。
そこで何を聞かされたかと言えば簡単に説明するとただのルールの確認だ。
・魔法は中級まで
・武器は持参
どちらかが戦闘不能もしくは降参で終了するらしい。
武器が持参なことから多少、有利不利は存在すると思うがまぁ、その点は仕方ないだろう。あくまでも腕試しで出場した冒険者が大半だろうからな。
そんな事を考えているうちに一回戦開始のアナウンスが鳴る。
【一回戦を開始します】
ギルド職員に手を引かれ闘技場の中心へ連れてこられた俺はそこで初めて初戦の対戦相手を知ることとなった。
観客席には様々な人が座っており、もし良い結果を残すことが出来れば領主様に雇われる事もあるらしい。
そんな観客席の雰囲気に気圧されながらもまずは挨拶から入る。
「あの、えっと……ワタルです。冒険者ランクEの新米ですけど一応、魔王軍の偉そうな奴を倒した事あります」
おっと、勘違いするなよ?強がった訳じゃないからな?あくまで舐められないようにする為だ。もしこれで棄権してくれるようならラッキーだが……!
「はははっ!面白い冗談を言うんですね。始めまして!僕はリドルと言います。よろしくおねがいします」
ま、まぁ……分かってはいたがそう簡単には信じてくれないよな。
だが、見た感じあまり強そうじゃないな。
見た目好青年のリドルさんの持っている武器は鉄の槍。ごく普通の鉄の槍だし、特に何か圧を感じるわけでもない。
「………いけるぞこれ」
まず初めに槍の届かない位置まで距離を取ってサンダーを連打。魔力は普通の人より多いらしいし、もし近づかれても折りたたみナイフでなんとか切り替えして……
「あ、あの……始めても?」
「あ、すみません。どうぞ」
準備は万端。リドルさんには申し訳ないが俺の戦闘経験値になって貰うぜ……!
そしてアナウンスが告げる。
【それでは一回戦………開始!】
しゃあ!まず距離を取っ―――
「先に言っておきますが実は僕Sランク冒険者なんです。そう簡単にはいきませんよ!」
「参りました」
冒険者大会の歴史上、これ以上無い早さで無事一回戦敗退である。
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