第44話 厄介クレーマーッ!!!
「――――ちゃん!」
「……ん?」
聞こえるのは幼い少女の声。そして同時に柔らかく、小さな手が俺の体を揺らす。
「おにーちゃん!」
「……イブか?すまねえがもうちょっと寝かして――」
「朝ごはんなの」
ぴょんと俺に飛び乗ってくるイブ。幸い軽いので可愛いといった感想しか出てこない。
「ごめんな、昨日夜ふかししててまだ眠いんだよ。朝ごはんだったら先にエルスに――」
「行ったけどエルスおねーちゃんはお部屋にいなかったの」
「え……?な、ならハクヤに……」
「……分かったの」
無事解決。俺は二度寝でもしてるか。
「寝てる今がチャンスなの!」
「よし、朝ごはんでも食べようか!」
冒険者大会は確か午後。まあ、それまでに何か作戦を考えておくのも悪くない。
仕方なく体を起こしイブをベッドに座らせパジャマから着替える。イブが恥ずかしそうにチラチラ見ているがこの年齢差だ、特に問題は無いはず。
そして上を脱ぎズボンへ手を掛けた時――
ガチャッっと鍵ごと外れる無慈悲なドア。
「プライベート中に申し訳ありませんがここがワタルと言う冒険者の方のお部屋で間違い無いで―――」
あっという間に地獄が出来上がった。
ぴたりと止まった警察官と思われるお姉さんは、上半身裸そして更にズボンに手を掛けている俺と顔を赤くしながらその様子を見るイブを交互に見たあと、
「……ロリコンか。今ならまだ死刑で済むがどうする?」
ぶっ飛ばすぞ。
「いや、この子はパーティーメンバーで妹みたいな――ちょっ!やめて下さいって!」
「ロリコン冒険者は皆そう言う。地獄で好きなだけ話を聞いてもらうと良い。貴様と同じような仲間がうじゃうじゃしているぞ」
弁解の余地も無く拘束された俺は腕を引っ張られながら連れて行かれる。
だがドアの前には見知った顔。
「ふっ……朝から騒がしいね」
「ちょうど良い!ハクヤ、この変な誤解を解いてくれ!」
腐ってもハクヤはパーティーメンバー。俺がピンチのときはきっと助けてくれる。それにイブとの付き合いはハクヤの方が長いはずだ。頼むッ……!
「そうだね……悲劇!普段温厚が彼に一体何がッ!?って状況だね。僕に任せるといい」
「ほう……貴様もこのロリコンの仲間と見ていいのか?」
冷え切った目線で圧をかけるお姉さん。
「違うね。僕は年上好きだ。だがこれだけは言える。彼はやって無い」
「なるほど。理由になってないがその目に嘘は無さそうだ。ならば証明は出来るのか?」
「もちろんさ。ワタルは子供に優しいが決してロリコンでは無い。その証拠にワタルは普段その子と一緒にお風呂に入っているが間違いは起こってない」
おいちょっと待て。余計なエピソードを持ち出すんじゃねえ。
「ほう…余罪が増えたな。ではこの状況をどう説明する?」
来たかこの質問。普通の人から見たら俺がイブを襲おうと脱ぎ始めた様に見えるかもしれないがハクヤは固い絆で結ばれた仲間。
きっと理解してくれるだろう。
「……そうだね。この状況……」
「この状況?」
「………その…………はい……この様な事をする人だとは思っていませんでした」
はい、クビィィィィッ!!!!!!
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
誤解は長時間に渡り続いた挙げ句、イブの証言によりギリギリのラインで開放された俺は言われるがまま警察署まで連れて来られていた。今頃エルスは俺達がいないことに驚いているかもな……。
まあ、宿から警察署までは徒歩2分程で大した距離も無い。書き置きも用意したし心配して追いかけてくる事も無さそうだ。
問題は俺達。
「えっと、それで何故俺達が?」
ここ最近は特に何か犯罪をしでかした覚えは無い。少し引っかかる事と言えば昨日の夜の事ぐらい。
……入ってないしセーフだよな?
「その事なんだが。……ついてこい」
俺達3人はまとめて小さな個室へと案内され、椅子に座った。まとめて案内されたことから事情聴取では無いと想定出来るが……
「それで、その何か?」
「……そろそろだな。連れて来い」
お姉さんの一声で後ろのドアが開く。何か揉めている声がするが一体……。
「大人しく入れッ!」
「あ、あくまでシスターなのでもう少し丁寧に………ってあれ?」
あれ?じゃねえよ。
「……もしかして」
「ああ、もしかしなくても彼女は君達の仲間だろう?厳重注意で済んだことだしさっさと引き取ってくれ」
そう来たかぁ……。
「俺、お前は一番まともだと思ってたよ」
「ま、待って下さい!事情が!事情があるんです!」
冷たい目を向ける俺に慌てて言い訳を始めるエルス。だがまあ、俺も鬼じゃない。
「聞くだけ聞いてやる」
「は、はい!ワタルさんはどんなプレイでも出来る非合法な店って覚えてますか?」
はうぅッ!?
「…………お、覚えてないよ」
「もう…あれですよ!この町に着いたときに言ったじゃないですか!ワタルさんも気になるって!」
「し、知らねえっつってんだろ!ハ、ハクヤもこっち見るんじゃねえ!」
「なんですか!?逆ギレしないで下さいよ!とにかく話を聞いてください!」
ゔッ……。俺としたことが少し取り乱してしまったみたいだ。で、でも安心しろ俺。昨日は入らずに帰った。罰せられるような事は何もしていないはず。
「す、すまん。それで話の続きは?」
「はい…実はその店なんですが………実際に存在するんです!」
知ってます。むしろ昨日入りかけました。
「へ、へえ〜そうか…。凄いなぁ……」
「だ、だから私もちょっと好奇心で入ったと言いますか……」
もじもじと人差し指を擦り合わせながら恥じる様子を見せてくるエルス。
やはり昨日見たのはエルスで間違い無いようだ。
「別に大したプレイを希望した訳じゃ無いんですよ!?それなのに『そ、それはちょっと方向性がおかしいんじゃ……』って言って来たんですよ!」
そりゃおかしいもんな。
「だから私、ムカついて警察署に駆け込んだんです!それで非合法な店がありますよーって言ってやりました!」
ヒイィィッ!?厄介クレーマーッ!!!
「そ、それで?」
「捕まりました」
「だろうな」
非合法な店に入ってから警察署に行ったらそりゃ捕まるわな。厳重注意ですんで良かったな。
……だなやはり俺の仲間は皆、頭の一部が欠けているのではないだろうか?
「ったく……それでお前は一体どんなプレイを要望したんだ?どんなプレイでもって店の人に引かれるなんて相当だぞ?」
「乙女にそれ聞くって正気ですか?」
「流石、僕の見込んだ変態だね」
喋んな変態。
「変態さんなの!」
この場から逃げ出したい。
「ま、まぁいたって普通ですよ……顔の良い人を用意して欲しいって言っただけで……」
あからさまに嘘を付いて逃れようとするエルスだが残念なことに警察官のお姉さんは聞き逃さなかった。
「……おや、証言と食い違うようだが」
「!?」
「……エルス、全部話せ」
「はぅ……その……顔が良いショタを拷問器具で虐めて……その苦しむ顔を見たいなって要望しました……」
本当にこの場から逃げ出したいです。
「はぁ…あのなエルス?お前の性癖がどうとか趣味がどうとか言うつもりは無い」
「は、はい」
「でもあんま他の人に迷惑をかけんなよ?」
「気を付けます……」
「ならいいよ。この後、午後は冒険者大会だからな。早く帰ろうぜ?」
「………はい!」
嬉しそうな返事が聞こえる。
これで一件落着。エルスも無事戻ってきたし冒険者大会にむけて作戦でも――
「おっと、すまないが少し待ってくれ」
「へ?」
個室を出ようとしたところ思い出したかのように引き止められる。
そしてお姉さんが胸ポケットから一枚の写真を取り出して言った。そこに写るのは店の前で立ち止まる王冠を被った少年と勇者を自称していそうな少年。
「実は昨日、怪しい二人組の男もその店へ入ろうとしていたという目撃証言があるのだが知らな――
「「すみませんでした」」
それはそれは見事な土下座だった。
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