第49話 限界突破
Aブロック決勝戦開始早々、仕掛けに行ったのはリドルさん。
「ボルテクス・ランスッ!」
渦巻く水流を纏った槍を片手に回り込むようにしてハクヤへと距離を詰める。
魔法を主軸として戦うハクヤに対してはかなり有効な立ち回りだろう。
「速攻で終わらせるつもりか!?」
「ふふっ!まだまだ考え方が新米ですね!ワタルさんは!」
身を乗り出して試合を見る俺に対してエルスはからかう様に言う。
「な、なんだよ…。他に何が……」
「そんなの決まってるじゃないですか!回り込みながらツンツン槍で突いてハクヤさんの苦しむ顔を楽しむ気なんですよ!」
ちょっと静かにしてようか?
こんなキチガイ性癖上級者の話を聞いたのが間違いだった。
俺は指を咥えてニヤニヤしているエルスにハンカチを投げつけると再度ハクヤの試合へと目を向ける。
競技台の上では今まさに熱い攻防が繰り広げられている。
槍で距離を詰めようとするリドルさんに対して風属性の魔法で対抗するハクヤ。珍しく余裕の無さそうな表情で魔法を使っているところを見るによっぽどリドルさんの攻めは上手いのかもしれない。
そんな時だ。
「そろそろ諦めなよ。勇者である僕に近付く事など出来やしないさ。フェザーカッター」
ハクヤはデュソルエレイザーを構えると広範囲な横薙ぎから風属性中級魔法を繰り出し勝負を決めにかかる。
だが、
「それは……どうかな?」
リドルさんはくるっと槍を回すとその場へ突き刺しその槍を蹴って高く跳ぶ。
「なッ……」
フェザーカッターを無事避けると空中で体勢を立て直しボステクス・ランスを使用。
渦巻く水流を纏ったその槍を地上で驚きの表情をするハクヤへと振り下ろす。
対してハクヤも止まっている訳じゃない。
リドルさんが跳んだ瞬間には新しく魔法を構え驚きつつも迎え撃つ。
「ヒートボムッ!」
リドルさんの槍はそのままヒートボムに振り下ろされその場で爆発。水と火が合わさり出た煙が辺りを包み込んだ。
「ど、どうなった!?」
「ハクヤさんも先に魔法を撃っていたので致命傷にはなっていないはずです!」
「……むにゃ……うるさいの……」
音でイブを起こしてしまったらしいがそんな場合では無い。
次第に煙は薄くなっていき、二人の姿が確認出来るようになる。
そこには向かい合って立つハクヤとリドルさんの姿。どちらも倒れてはおらず2メートル程離れた位置で互いを見つめ合っている。
「……強いね。本当にEランクかい?」
「え、これが普通じゃないんですか?」
散々自分の事勇者だとか最強だとか言いまくった挙げ句その発言かよ。
「本当にそう思っているのかい?」
「……言いたかっただけさ」
そう言うとハクヤはそっとリドルさんから離れ、腕を組んで笑う。
「そろそろ僕の真の力を見せるべきだね。勇者の力、とくと感じるがいいよ」
「勇者の力……かい?」
「敵に第2形態があるのはお約束だろう?」
お願いだから敵なのか勇者なのか設定はっきりしてくれよ。
するとハクヤは腕を宙へ掲げ唱える。
「限界突破」
「!?」
ハクヤがその言葉を口にした瞬間、突然地面が揺れ会場が騒がしくなる。
「お、おい……これ…」
「凄い揺れてますね……ハクヤさんを中心として揺れてるみたいですが……」
「よ、酔ったの」
「やべえッ!イブが吐くッ!」
「ふ、袋、袋……ありました!」
「おおッ!ありがとな!イブ!もし吐きそうならこれに吐け」
エルスから何かを渡されそのままイブの口元へ運ぶ。
「うぷ……無理…なの…」
そのまま無事リバース。幸いエルスのおかげで大惨事には至っていない。
「危ねえ…」
「ほんとですよ!ワタルさんのリュックが無ければ大惨事でした!」
ちょっと待て、大惨事じゃねえか。
「はッ!?ちょ、俺のリュック……」
「ん……ごめんなさいなの…」
「もう……いいんですよ!これも全部ハクヤさんが悪いんですから」
「もっと悪いお前は今から俺が懲らしめてやる。覚悟しやがれ」
「や、やだなぁ……軽いおふざけですよ」
実害でてますがそれは。
「そ、その……私に触ったらセクハラで訴えますからね?ほ、本気ですよ?だからそんな血走った目で近付くのは……ひゃっ!?」
エルスを絞めつつも俺は当の震源偽勇者へと目を向ける。
限界突破と言ったからには強くなっているのが当然だろうが……
「ふっ……限界突破。もう言葉の響きが強そうだと思わないかい?」
「そ、そうだね…。凄い力を感じるよ」
会話しながらもゆっくりと後ろへ下がるリドルさん。近付くなと本能が告げているのだろうか?
「限界突破は勇者である僕だけが持つスキルであり、全ての力を開放した状態さ。歩けば道が割れ、飛べば乱気流が発生する」
公害じゃねえか。二度と限界突破するな。
「限界突破した僕に勝つ術は無いさ。さぁ諦めて負けるといいよッ!!!」
「くっ……!」
見て分かる力の差に動け無いリドルさん。
対して好機の逃すまいとハクヤは魔法を構えて走り出す。
「ウィンドア―――」
ゴッ……バリバリバリッ!!!
この時、ハクヤは自ら言ったこと忘れていた。ハクヤが走り出した瞬間、その力に耐えられなくなった競技台が崩れ、当然のように巻き込まれる。
「おいッ!バカ―――」
俺は身を乗り出してハクヤへ警告しようとするがもう遅い。
巻き込まれたハクヤをそのまま地面へと着地。ポカンと競技台の上のリドルさんを見つめる。
【……しょ、勝者リドル選手】
「えっえ?えっえっえっえっえ?え……」
何処の動物だよ。
未だ理解の追いつかないハクヤだがこの時点で勝負は決まった。
そう、俺達のパーティーは全滅である。
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