鍛冶の町、ドワンウルゴ
第39話 お断りします
「クソォォォォォォォッ!!」
野太い声を上げ、小太りで年老いた男が近くのメイドに向かって本を投げつける。
「グゥ……ッ!こっちは40年も我慢してきたと言うのに今更計画失敗とは何だッ!?儂の金はッ!?領地はどうなるッ!?」
絶望的な状況に苛立ちを抑えきれない男だがこれでも鍛冶職人の町ドワンウルゴの領主である。
いや、領主と言っても親の領地を引き継ぎ経済は若くして執事長まで上り詰めたボイドに任せるだけのなんちゃって領主だ。
「……どうか落ち着いて下さいませ。コーレンス様。その姿を消した喋るコボルトですが昨夜、こんな手紙が……」
「貸せぇッ!!」
ボイドから手紙強引に奪い取ったコーレンスは袋をぐしゃぐしゃに破り、中身を確認する。
「これは……ん?………ふっ!あぁッはっはっはっはっはっは!!来たぞ来たぞッ!」
にやにやと下卑た笑みを浮かべ唾を周りへ撒き散らす。しかし、メイドやボイドが引いていることにも気付かずコーレンスは興奮しながら手紙を開封する。
中には要件を伝える手紙。そして……
「なるほど……。聞けボイドッ!まだチャンスがあるぞッ!!直ちにこの娘を見つけ出し捕らえれよ!!」
青髪幼女の写真だった。
――――――――――――――――――――
「……ただ今よりこれからの行動を決めようと思う。意見があるなら言ってくれ」
「魔王を倒しに行こうじゃないか」
お前の発言権は没収だよ。
「実はこの町……どんなプレイでも出来る非合法な店があるらしいですよ!」
「それはちょっと気にな―――行くなよ?」
「……分かりました」
なら首を横に振るのはやめてくれ。
はあ……。何故こんな事になっているかには理由がある。まず、俺達はこのドワンウルゴに到着したのち宿を探してここまで来た。
だがそこからが問題だ。俺は元々旅人としていろいろな町を巡っていたわけで、今までで通りにガイドブックを手に入れ観光をと息巻いていた。
しかし他の3人はれっきとした冒険者。もちろんこれからの行動で揉めるわけで……
「イブは早くモンスター倒しに行くの!」
と、このように意見が割れる。
「なら、無難にまずはギルドでこの町の情報収集とかどうでしょうか?」
こんな時に全てを纏めてくれるのがエルスの良いところである。ひとまずギルドまでは意見が割れることは無い。
「まあそれが一番だよな……」
こんな時に呪いの王冠のせいで別行動が出来ないのが悔やまれる。
だが言ってみればこの町も隣の国へ行くための中間地点。これも全部隣の国へ着けば終わる。俺は隣の国までの距離を確認しながらギルドへと足を運ぶのだった。
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「ここだな……」
宿からギルドまではそう遠くなく徒歩5分程だった。意外と良い位置に宿を借りれたのではないだろうか?
「なかなか趣がある看板だね」
どのギルドも同じだけどな。
するとハクヤが妙に上機嫌に口笛を吹き出した。まるで世の中を舐めたような顔。なかなかに不愉快極まりない。
「……えらく上機嫌だな。何か良い事でも思いついたのか?」
「ああっ!これから待ち望んでいた先輩冒険者イベントが始まると思うと心が躍るね」
あら、嫌な予感。
「はあ……変に絡まれてもあんま余計な事はすんなよ?」
とはいえ、先輩冒険者の新人イビリに関しては問題はないだろう。幸運にもハクヤ達の装備は一級品。堂々としていれば新米には見えないはず……。
ハクヤの行動には注意を払いながらもギルドの扉に手をかける。木で出来ているため、力は入れずとも扉はゆっくりと開いた。
「お、お邪魔しま――」
「おん、見ねえ顔だな。新米か?」
駄目じゃねえかよ。
早速一人の金髪男が酒を片手に俺達へと近付いてくる。周りではその男を囃し立てるように仲間と思わしき男達がピーピーと口笛を鳴らす。
ギルドの受付さんが必死に止めようとしてくれてはいるが荒くれ者の集団を止めることなどそう簡単に出来はしない。
「へッ!ケツの青いガキのくせになかなか可愛い顔してるじゃねえか。気に入ったぜ。俺達のパーティにいれてやるよ」
「僕は可愛いと言うより格好いいタイプだと思うのだが……すまないがお断りするよ」
「テメェじゃねえよッ!舐めてんのかッ!」
「……てことは俺か?お断りします」
「横だよ横ォッ!!」
俺の左には自分が誘われたのかと頬を染めてもじもじするイブ。非常に可愛い。
「え……ロリコン?」
「んなガキ、こっちからお断りじゃッ!」
「あれ?と、言う事は消去法からして美少女シスターである私ですね。お断りします」
「だからテメェじゃ――テメェだよォッ!」
情緒不安定かよこいつ。
はぁはぁ…と息を荒げながらエルスを指差す金髪男。それに加えて周りの冒険者からはもっとやれだとか、青髪ロリは俺のもんだとヤジが飛ぶ。
前者はともかく、後者は一人の夜道には気を付けろよ?
「ワタルさんワタルさんっ!ナンパですよ!初めてナンパされました!」
「お、おぉ…良かったな」
まあエルスが嬉しいなら別にいいか。
ニヤニヤと顔を歪め、体をクネクネさせるエルスはとても幸せそうだ。
……本来シスターがナンパされて喜ぶなんてことはあってはならないが。
「おいテメェら、話はまだ――」
俺達だけで話していたのが納得いかないのか金髪男が俺の肩を掴む。
だが一瞬の出来事だった。金髪男が俺の肩に触れた瞬間、強風が俺達を襲い、そのまま金髪男の身体は吹き飛び壁へと突き刺さる。
「……イブ?」
身震いする様な恐ろしい殺意を感じ左を向くと、横には冷え切ったような冷たい表情で杖を抜刀……いや、抜杖した青髪幼女。
「イブも……イブも…ナンパ……されるの」
そう言い残して俺へと抱きつき離れなくなってしまう。
……ははーん。なるほど。ナンパされたと思っていたのに勘違いだったことがイブの小さな乙女心を傷付けたらしい。
確かにナンパされるという事は自分の容姿が認められた事の証明。イブも女の子だ。気にしていたのだろう。
落ち込むのは当然と言っちゃ当然か。
が、そのおかげでギルド内の冒険者は皆顔を真っ青にして静まり、誰一人として目が合わなくなる。
おいハクヤ、無理矢理にらめっこを仕掛けるのはやめてやれ。
「……この状況、そりゃランクEから上がれるわけねえよな」
この最悪な状況を前にして俺にはそう呟くことしか出来なかった。
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