第38話 エリアの面影すら無い

「おっ!やっと出口だな」


「長かったですね……」


 とうとう俺達は怪人の森を抜け、広大な平原へと出た。

 クラリスと別れてからここまで約2時間と言ったところだろうか?既に時刻は昼頃となっていて太陽の光が俺の頭のてっぺんを焦がしている。


「ああ……大変だったなあ」


「あのようなイベントで疲れてしまうとは君もまだまだだね。あれはまだ物語でいう序盤のボス。勝って当然と言える」


「なるほど……良かったな。俺の元気があったらお前の顔の形が変わるまで殴っていたところだ」


「流れるような暴力声明なの!凄いの!」


 森でのテント生活の影響で疲労が抜けない俺達だが、そこから僅か数分歩くと目的地は見えてきた。

 コンクリートで囲まれ、日々ドワーフの鉄を叩く音が聞こえると言われている鍛冶職人の町。


「あれって……」


「ドワンウルゴですね!やっとです!」


 ほっと肩の力が抜けた気がする。もし着いたなら宿にはふかふかなベッドがある。そこで好きなだけ寝よう。そしたら町の中を観光して―――

 

「ワタルさんッ!」


 気を抜いてその場に腰を下ろした直後だった。突如、何者かから放たれた木の槍が俺目掛けて飛んでくる。


「おわッ!サンダーッ!」


 ギリギリのところで弾かれる木の槍。もしエルスの注意が一秒でも遅かったら俺は今頃この世にいないだろう。


「あっぶねえ……。今のはッ!?」


 人が気を緩めた途端に……許せねえッ!


「あれなの!」


 イブが指を指す。そこには……


「ゴブリン……?」


 背の高い草木に隠れこちらの様子を伺う鬼のような顔をした二本足のモンスター。

 数はそれほど多くないな。パッと見る感じ5匹ぐらいか?


「ふっ、あれはまさしくゴブリンだね。最弱のくせして勇者パーティに喧嘩を売るとはバカな奴らさ。後悔しながら逝くといいよ」


「はあ……あんま油断すんなよ?ゴブリンでも集まれば討伐適正難易度はDだ。お前らは確か冒険者ランクEだろ?」


「そのへんは大丈夫ですよワタルさん!私達は実績だけみたら実質Sランク冒険者みたいなものですから」


 普通、冒険者ランクはクエスト達成によって上がっていく。

 EランクならばEランククエスト3回達成でDランク――といった感じで冒険者ランクを上げることが出来るのだが……。


「……じゃあなんでEランクなんだよ」


「ギルドが無能……って事ですね」


 嘘を付くなッ嘘をッ!


「どうせ問題行動ばっかですぐ降格してたんだろ?」


「問題行動?勇者である僕が問題行動を起こすわけ無いじゃないか!本当にギルドが無能なのさ。控えめに言ってクソ雑魚アホギルドだね」


 ちゃんと控えめに言えよ。


 もしかしてエリーズのギルドがあんな事になっていたのはこいつら3人のせいなのではないだろうか?


「はあ、分かったよ。確かに実力はあるからな。取り敢えず手分けしてまずはゴブリンの殲滅からだ」


 ゴブリンは隠れながらもこちらの隙を伺っていてむこうから仕掛けてくる様子は無い。


「先手必勝って奴だな……」


 隙を見て素早く飛び出し、ハクヤとエルスは右、俺とイブは左から回り込むようにして攻める。


「サンダーッ!」


 俺達側にいたゴブリン一匹にサンダーが命中、そしてその隣にいたゴブリン二匹にもイブの斬撃が襲いかかる。

 計3匹討伐。


「こっちは終わったぞッ!そっちは!?」


 残りの二匹もハクヤとエルスが無事余裕で討伐完りょ………、?

  


「凄いッ!まだ生きてます!苦しみながらッ燃えてます!もっとッ!その顔を見せてください!」


「はっはっはッ!僕達に喧嘩を売った罰さ。地獄の炎に焼かれ、勇者である僕に許しを請うといいよッ!まあ、懺悔したところで許しはしないが」


 やっぱ問題行動の塊じゃねえか。


「お前らの方がよっぽどモンスターみたいなことしてるぞ……」


「「……?」」


 無自覚が一番怖いって本当なんだな。


「ま、まあこの辺で止めておきましょう!私に弱者をいたぶる趣味はないですからね」


 代わりに弱者がいたぶられるの見て興奮はするがな。


 そしてそのままハクヤが魔法でとどめを刺しゴブリンは全滅。無傷で討伐完了である。

 

「……なんかここ最近で一番まともに勝った気がするな」


「……気のせいじゃないですか?それよりワタルさん、魔法がサマになってきたじゃないですか!」


「そ、そうか?べ、別に俺はそんな―」


 確かにフェレビア戦を終え、初級魔法の扱いにもだいぶ慣れてきた気がする。


「そうだね。僕の500分の1程度にはサマになってきたと言えるね」


 無視します。

 

「そうだ……。一つ気になったんだが、エルスの適性魔法って何なんだ?ってか回復魔法以外使えるのか?」


 今まででエルスが使ってきた魔法は回復魔法のみ。あとはバフ効果の付いたデメリットスキルだけだ。


「ああ、私回復魔法も使えませんよ?」


「は?」


「あれって実はエリアヒールって言うスキルなんですよ。効果は範囲ニメートル以内の全員を回復です」


「ん?そんな効果だったっけか?」  


「そして追加効果が効果範囲を対象の味方と敵対するモンスター1体に狭める代わりに回復効果を大幅アップです!」


 唐突なゴミスキル爆誕。エリアヒールとは一体何だったのか?エリアの面影すら無い。


「……なるほどなあ。でも、それなら回復魔法使えばいいんじゃねえのか?」


「いやぁ……その、私回復魔法自体は使えなくって…」


 回復魔法を使えないシスターって何だよ。


「し、仕方ないじゃないですか!小さい頃から親に……ってそこは秘密です!」


「そもそも回復魔法使えないのによく、ギルドに入れたな?」


 俺の時は筆記テストだったがこいつらがギルドに入った頃は確か実力試験だったはず。

 

「……その時はエリアヒール使ったので」


 ああ……。それならモンスターもいないし回復効果も上がって好都合だわな。

 その回復力が原因で回復能力自体の実力はSランクって言われてたわけか。


「あれっ?そういや、ハクヤがヤバすぎて忘れてたがお前も随分スキル多いよな?」


「へッ!?い、今まで出会ったモンスターが全てスキル玉落としたので……」


 んな幸運あってたまるかよ。

 

「ん!エルスおねーちゃんが困ってるの」


 本当の事を聞き出そうとエルスに近付いた時だった。

 イブに通せんぼで止められる。


「う……すまん、そうだな。個人の事まで聞いて悪かった」


 エルスのビビり具合からして、何か大事な事を隠していることは間違い無いがまあ、別に今知らなければならないという訳でもない。

 そのうち話してくれる事を待つか……。


 と、そんなやり取りをしているうちに目の前に大きな壁が見えて来た。町の中からはカンカンと鉄を叩く音が響いてきて少しうるさいと感じるほど。


「ふっ、ドワンウルゴ到着だね」


 パーティを組んで以来、初めて無事に町へと着いた俺達だった。

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