第36話 一種の賭け

 チャンスは一度きり。もし避けられでもしたら命は無い……って俺は何故こんな危険な事をしているんだ……?

 いつの間に俺はこんな仲間思いな奴に…。

 

――――――――――――――――――――


「あ、あと5分持ちません!」


 当然だ。普通の結界とは違い対象の相手のみに発動する結界。まして相手はフェレビアだ。魔力の消費は激しいに決まっている。


「やるしかねえか……」


 フェレビアの姿を確認する。


 随分と体力を消耗しているだろうが魔力が戻れば勝ち目は無い。

 そして少しでもタイミングがずれれば弱体化したフェレビアの攻撃でも……。


 そんな事を考えているうちに状況に動きがある。5メートルほど距離をとってフェレビアとハクヤが会話を始めた。

 耳を傾ける。


「くッ……!君と戦っていると決着に時間がかかるみたいだ。かなりの魔力を消費するが仕方ない。上級の魔法でひと思いに殺してあげよう。ふふ……それに戦力としては君が一番だろう?残った他のヒューマンは後に殺してあげるよ。残虐にねぇッ!!」


 ここまで魔力消費の多い上級魔法を使わずに戦ってきたのは温存してたからか……。

 そんなのこれまで全ての魔法を跳ね返してきたハクヤでも……!


 あまりの絶望感に俺は崩れ落ちる。


「……膝から崩れ落ちたの」


「しっ!見ちゃいけません!きっと自分とのレベルの違いに震えて漏らしそうになってるだけです!」


 おい、聞こえてんぞ。


 だがそんな中ハクヤは胸を張って言った。


「未だに僕が本気で戦っていると思っていたのかい?」


「なッ!?」


「君のような雑魚に本気で戦うなんて勇者である僕の役目じゃないね。あくまでも接戦の演出さ。それにわざわざ魔力を温存するなんて……実に滑稽だね」


 何だこいつうっざ。負けちまえ。


「……急に殺意の籠もった目線をハクヤに送り始めたの」


「しっ!見ちゃいけません!きっと自分の見せ場が無くなることを恐れてるんです!」


 エルスはあとでその乳絶対にもいでやる。

 こう……ぶどう狩りみたいに。


「……っと、そんな場合じゃねえな」


 変な事考えるのはやめよう。フェレビアが上級魔法を使うんってならこちらとしてはむしろ好都合。


「イブ、エルス!合図したら頼む!」


「了解なの!」


「お任せください!」


 チラッとクラリスの方にも合図を送る。


「よし……あとは…」


 フェレビアの魔法発動のタイミングに合わせるだけ!

 再度耳を傾ける。


「……今更ハッタリを言ったところで遅いに決まっているだろ?それに君は今までで上級魔法を使いすぎた。魔力は殆ど残ってはいないはずだ。土下座して許しを請うなら魔王軍に入れてあげてもいいが…どうする?」


 確かに……!ハクヤは上級魔法を惜しげもなく連発してた。残りの魔力なんて……


 またまた俺は崩れ落ちる。


「……また崩れ落ちたの」


「しっ!見ちゃいけません!明らかに自分より強いフェレビアの方にハクヤさんが寝返ってしまわないかビクビクしてるんです!」


 ほんとお前は許さない。


「おや……雑魚にハッタリを言う必要なんてあるのかい?嫌だなあ、自分と同等だとでも思っていたのならその弱い脳みそをもっと上手く活用したほうが良いさ。あ……骨だから脳みそは無かったねっ!」


 俺、今だけはフェレビアについてもいい。


 俺ですらハクヤの事をぶん殴りたいと考えているのにこんなのフェレビアからしたら想像を絶する――


「……煩い」


「この声量で煩いとは……耳まで骨になっているだけあるね」


「煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩いいいいいいいッ!!!ボクが君を打ち砕いて最強だと言う事を証明するッ!」


 逆上したフェレビアは自身の残り魔力の殆どを注ぎ込み禍々しい闇の魔力の塊を生成し狙いをハクヤに定める。

 

 遂に来た。この瞬間ッ!


「イブ、エルス今だッ!!」


 合図をした瞬間、二人は既に攻撃準備は完了。俺がフェレビアへ駆け出すのに合わせて殲滅を開始する。


「ノヴァ・バスターッ!」「ジェミニッ!」


 イブのオルタンシア・ネオから放たれた衝撃波、エルスの放った二本の光の矢は俺からフェレビアまでの距離約50メートル間を彷徨くゾンビを一匹残らず吹き飛ばし、浄化させる。

 目の前でゾンビが吹き飛ばされ、消えていく様子を見ながらも俺は走り抜ける。

 あとは最後の大勝負。


「早く砕け散りなよ雑魚ヒューマンッ!!!ネオダーク・カオスプロージョンッ!」


 フェレビアによる最高威力の闇属性上級魔法がハクヤを襲う。


 だがそんな事はお構いなしに俺はフェレビアへと突っ込む。これは一種の賭け。


「ハクヤァァァッ!打ち消せッ!」


 ハクヤは後ろから走ってくる俺に気が付いていた。ならばやる事は察しがついているはずだ。


「ふっ……ラストを奪われるのは癪だが今回は熱い展開に乗じて僕も手伝うとしよう」


 ハクヤの持つデュソルエレイザーに5色の光が集まり強い輝きを放つ。そして柄にもなく深く構えたと思えば――


「勇者の剣レベル1」


 横薙ぎによって放たれたその膨大なエネルギーが凝縮された一撃はフェレビアの上級魔法を簡単に打ち消しそのまま空を割る。

 真っ暗な空に光が差し、俺達を味方するかのように照らしてくる。

 

「なッ!?」


 呆気に取られるフェレビア。そんな隙晒して……見逃すわけねえだろッ!!

 フェレビアに突っ込んだ俺は目の前でスキルを発動。


「姑息なヒューマンめッ!いつの間――」


「遅えよ」


 拳を握りしめ歯を食いしばりながらフェレビアの胴体へ叩き込む。


「エレメンタルドライブッ!!」


 いくら相手が強くとも俺の魔力を全て叩き込めば無事でいられるわけが無い。

 俺の拳はフェレビアの胴体を貫き、周りの地面を衝撃波で抉る。


「どうだ……見たか……」


 同時に倒れ込む俺とフェレビア。


「や、やるじゃないか……だ、だがボクはまだ消滅していない。それに――時間切れだ」


 胴体に大きな穴が空いているも、まだ消滅には至らない。……少し甘く見ていたな。


「ボクの魔力は完全に戻った。これで――」


「でも、その傷じゃ避けられねえだろ?」


「は?」   


 モンスターでもヒューマンでも勝ったと確信した瞬間が一番隙を晒すものである。


「……森の敵、取らせて頂きます」


「守護精霊いいいいいいいいッ!!!!」


 いくら元のフェレビアが強いと言っても傷が回復するわけじゃ無い。俺に削られた時点でお前の負けは揺るぎないものになった。


「ざまぁみろ。骨野郎ッ!」


「ブルームインパクトッ!」


 クラリスの精霊魔法はフェレビアを包み込み、やがては全てを消し去る。地面には大きな亀裂が走り、砂や石が弾け飛ぶ。

 だが、砂煙が落ち着いたその跡にフェレビアの姿は無かった。

 

「……終わったな」


 気が抜け、腕の痛みが強くなる。


「忘れてたッ!痛えええええええッ!!」


「大丈夫ですか!?」


「お手柄さんなの!」

 

 わらわらと俺の仲間たちが集まる。心臓はバクバクしているのに何故だかとても安心するのは疲れのせいだろうか?


「最後のスキル。なかなか良かったね」


「びっくりしましたよ!あんな事が出来るなら最初に言ってください!」


「……そりゃどーも!」

 

 正直その前のハクヤの技の方がよっぽど強そうだったのは何故なのか……。


「ははっ……ちょっと疲れたわ」


 クラリスに回復魔法を掛けられながらも意識は今にも飛びそうになる。


「イブが膝枕するの!」


「……今回は特別ですね。そのくらいの犯罪なら見逃してあげます」


 犯罪じゃねえよ。


「今なら僕もしてあげても……」


「そんなおぞましい事二度と喋るな」


「今からボス戦なの斬るの」


「頭に回復魔法かけましょうか?」


「え、えっとぉ……ハクヤさんもありがとうございました!」


 

 こんな何気ない漫才会話。

 

 ああ……分かった。どうして俺がここまで本気で危険な事も出来たのか。

 もしかしたら俺は何だかんだ言ってこの不思議かつデメリットなパーティが気に入っているのかもしれない。


 ふと、そう思うのだった。

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