第35話 知識を使え

「覚悟しやがれ」


 ……とは言ったもののどうしたものか。残念な事に俺のやるべき事が見つからない。

 サポートは出来る。だがその肝心のサポートの仕方が分からない。


「……ああ、もういいよ。さっさと君達を葬り去って魔王城へイブ様を連れて帰ることにする」


 遂には弱体化しながらも魔力を殺意と共に最大限まで上げてくるフェレビア。

 

「最後は主人公……つまり勇者でる僕が活躍する。今のうちから好きな断末魔を選んでおく事だね。僕はボスらしく長めの断末魔をオススメするよ」


 しかしこちらの仲間も多少変な発言をしているもののやる気は戻っている。

 ひとまず俺は適当に遠くからサンダーでも撃ってるか。

 嫌がらせぐらいにはなるだろ。


「さて……」


 依然、俺達は睨み合ったまま。だが辺りには異様な緊張感がはしっている。

 誰か一人でも動き出せばすぐに戦いは始まるだろう。

 さあ…来るか……。


 …………………。


「いや、早く始め――」



「ダークバレット」

「アクアランス」


 突如俺の声に合わせるかのように魔法を發動するフェレビアとハクヤ。

 互いの魔法がぶつかり合う。そしてその爆発音は最終戦の開始を告げるのだった。





 流石に威力はハクヤの魔法の方が高かったらしく爆風はフェレビアを包み込む。

 

「……これなら意外とら―――」


 油断したのも束の間、そんな爆風の中から闇魔法が飛んでくる。

 

「ちょッ!?サンダー!」


 慌てて打ち消そうとするがその闇魔法の矢はとまらない。俺の放ったサンダーをいとも簡単に打ち消しそのまま俺の頭へ直撃――


「……ッ!?」


 することは無かった。


 いや、しなかったというよりただ守られただけ。当たる寸前、イブが杖で弾いてくれたのだ。


「……イブ!」


「危ないの!イブの後ろにいるの!安全地帯なの!」

 

 なんだろう。幼女の背中に隠れるって……何だかとても悲しい。何か大事なモノを失ったかのような喪失感が……。

 エルスとクラリスの「こいつダッサ」と言いたげな表情が心を更にえぐる。


 てか、おかしいよな?さっき魔法が飛んできたときはハクヤのデュ…デュ…デュソルエレイザーで余裕綽々と打ち消していたのに。


「元々の性能が段違いってことか……」


 考察を進めるが多分そういう事だろう。初級魔法とあの大剣には差がありすぎる。

 弱体化したフェレビアの魔法にすら勝てない俺の魔法って……。


「大丈夫なの!イブが守ってあげるの」


 あれ?もしかして俺、戦力として見られてない?


「ま、まあ…そうだな。そこはイブに任せるとするよ」


 見ればハクヤは普通にフェレビアと渡り合っている。ハクヤがデカイ魔法を撃っては相殺され、フェレビアが魔法を打ち込もうしてもそれ以上の威力を持った魔法で打ち消している。

 ……どっちかと言うと弱体化してなおハクヤと渡り合っているフェレビアの方がよっぽどイかれてるが。

 

 そろそろ太陽も沈んで夜になるからな。早いとこ決着をつけてもらいたいものだ。


「ん?夜?」


 何故か『夜』という言葉がやけに頭に引っかかる。つい最近何か……


 ま、まあ…実害が無ければただの杞憂だ。

 

 内心ドキドキしながらもハクヤとフェレビアの死闘にサンダーで少しちょっかいをかけ る。

 すると、だんだん嫌がらせが楽しくなってきたところで突如足に違和感を感じる。


「おいおいおいおいッ!マジかよ………」


 慌ててその場を離れるも、地面が盛り上がり、そいつは現れた。


「またゾンビかよッ!!!!」


 思い返してみればここはもうの結界内では無い。しかも状況が最悪だ。ここには……


「どうにかしてクラリスを守らねえと」


 今クラリスの邪魔をされる訳にはいかない。今クラリスの弱体化結界が消えてしまえば全力フルパワーフェレビアが降臨。

 そんな事になればあっという間に俺達は皆殺し。全ての苦労が水の泡だ。

 そのことはエルスもイブも分かっているらしく俺よりも先にクラリスを囲むようにして構える。


「こっちも休みは無いって事か……ッ!」


「どうします?撤退しますか?」


「いや、せっかくのチャンスだ。フェレビアを逃すわけにはいかねえ。意地でもクラリスを守ってやる」   


 それに――


「ムーンスラッシュッ!」


 俺の言葉を遮るようにして辺りで動き始めたゾンビが一瞬にして光の粒子と化す。


「夜なら頼もしい存在もいるからなッ!」


 


✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


 正直に言おう。デメリットの無いイブは強かった。それも引くレベルで。


「ムーンスラッシュッ!」


 イブがスキルを一度発動させると何十体ものゾンビが宙を舞い、消し飛ぶ。

 どうやら昼間はゾンビを作り出すが夜中であれば神聖属性攻撃になるらしい。


「サンダーッ!」


 俺はそれでも抜けてきたゾンビがクラリスへ近付かないよう魔法で妨害する。そして、


「ジェミニッ!」


 エルスが神聖魔法で浄化させる。


 案外俺達は今、良いチームワークで戦えているのかもしれない。

 こんな安定感久し振りだな。


 もしかしたらこのまま楽に……


「……そ、そろそろ限界が」


 なーんて事はありませんよね。


 流石にクラリスの結界もそろそろ限界が訪れると言う。だが未だにハクヤはなかなかにダメージを与えていはいるものの倒すまでに至ってはいない。

 予想以上にフェレビアが粘っている。

 

「……時間は無いか」


 どうにか強引にでもクラリスの魔力が尽きる前にフェレビアを倒さなければ時間切れでアウト。なら……!


 俺はクラリスに提案をする。


「そ、それって大丈夫なんですか?」


「……多分な?」


 俺に出来ることは作戦を立てること。戦闘なんて冗談じゃない。そもそも俺は昔から運動が得意ではない。

 だから知識を使え。敵の想定をはるかに超えていけ。俺達にしか出来ない戦い方でその弱っちい戦闘力を底上げしろ。


「……わ、分かりました!お任せください。しゅ、守護精霊として絶対にやり遂げてみせます!」


「おう、頼むな?」


 仕込みは十分。あとはこのゾンビをどうにかしてフェレビアの元まで辿り着かなければならない。


「イブ、エルス?一瞬でいい。ここからフェレビアの元まで道を切り開くことは出来るか?」


「一瞬ですか?それなら別に難しくはないかと思います。むしろ余裕ですね」

 

「簡単なの!イブも地形ぐらいなら変えることは出来るの!」

 

 多少意図しない意味に取られはしたがまあ非常に頼りがいのある仲間である。


 これで必要な条件は揃った。他必要なものがあるとすればそれは、


 俺の「覚悟」だけだ。

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