第34話 そうだ、きっとそうだッ!
「精々……か、ならお望み通りやってやろうじゃねえか!」
そう言い放った俺はすぐに後退。ハクヤの背中に隠れるようにして指の先をフェレビアへと向ける。
「よし、クラリスがいる限り弱体化は終わらない!今のうちにボコボコにしてやれ!」
「「「………」」」
「お前らならいけるぞ!」
「「「………」」」
動けよ、おい。
「な、なあ?フェレビアの事見えてるよな?いつもだったら我先にと手柄を取りに行くのにどうしたんだ……?」
不思議な事に一番乗り気で戦いそうなハクヤが静かに腕を組んでいる。
ならばイブに任せようと振り向いても結果は悲惨。先程までは木の裏に隠れていたはずなのに今では木に登って息を潜めている。
これから野生に帰るのだろうか?
「……今はまだ動くべきではないね」
そんな時、ハクヤがボソッと口を開いた。
「……一応話は聞いてやる。ふざけた内容だったら許さねえからな」
まさかハクヤがこんな事を言うとは思わなかった。もしかしたら何らかの病気の可能性もありうる。
俺の対応はその確認でもあった。
……いや、コイツは元から病気だな。
「大丈夫、至極真っ当な意見さ。まず一つ、いわばこれは僕達勇者パーティーにおいての一章のボス戦。圧倒的な勝利ではつまらないだろう?」
……なるほど。
「よし、ぶっ飛ばしてやる。覚悟しやがれ」
「少し待ちたまえ!話はこの先からだ」
既にアウトなのにこの先を聞く必要があるのだろうか?更にふざけた発言を重ねるだけだと思うのだが。
「……てかそもそもお前最初はやる気満々だっただろ?お得意の魔法でなんとかしてくれよ」
「確かに勇者である僕のチートじみた魔法で無双することは好きだ」
「だろ?だったら――」
「だがそれではこれ以上強くはなれない。申し訳ないが僕が強すぎて誰も相手にならないからね」
そりゃそうだ。ミレイア曰くハクヤ達の戦闘力はSランク冒険者に引けを取らない。
そんじょそこらの相手に苦戦する事など無いのだ。……普通はね。
「でもそれならこれ以上強くなる必要は無い気がするんだが……」
「けどね、僕はまだ満足していないのさ。僕が望むはさらなるチート。ひとたび剣を振れば土砂崩れ、津波、噴火。そんな勇者に僕はなりたい」
災害勇者やめてくれ。
いかにも良いことを言ったと考えている様な不愉快なドヤ顔で再度腕を組むハクヤ。
……ふむ。やはり根本的にこいつとは合わないな。そんでもってタイミングも悪い。
何故このタイミングでそんな事言い出してしまうのか。
ハクヤは無駄に頑固である。今はどれだけ戦ってくれと言っても戦わないだろう。
「……分かったよ。ならせめてイブは――」
次の説得対象が自分になる事を予想していたのか既に木の上から飛び降りて逃げようとするイブ。
だが俺はそんなイブの手を捕まえる。
「イブはもちろん戦ってくれるよな?」
自分でも引くような笑顔で聞く。
「……ワタルさん、幼女に戦えって恥ずかしく無いんですか?」
エルスが痛いところを突いてくるが今は全員の安全が第一。俺なんかが戦うより圧倒的に勝率の高いイブに任せた方がいい。
よって無視決定ッ!!
「……きょ、今日は調子が悪いの」
だが返ってきたのはそんなお断りの言葉。
イブの様子がおかしい事は誰か見ても分かる。だが理由が分からない。
1つ思い当たるとすればフェレビアが現れてからイブは隠れるようになった。
もしかしてフェレビアに何か関係があるのだろうか?
そんな俺が頭をフル活用している時、突然フェレビアが叫ぶように言った。
「そのお姿はイブ様ッ!?」
は?
明らかに動揺するフェレビアとイブ。イブに至っては冷や汗をダラダラと流しながら吹けもしない口笛を吹いている。
「イブ様ッ!ボクですよ!以前魔王様の側近をやっていたフェレビアです!」
「し、知らないの……」
「やだなあ…忘れちゃったんですか?イブ様のお父上、つまり魔王様の横にいたの覚えてないですか?」
必死に目線を逸らし首を振るイブ。
つまりはどう言う事だ?フェレビアは魔王の側近?で、その魔王はイブのお父上?
んなバカなッ!!確かにイブは『パパは魔王って呼ばれてるの!』と言ってたがそんなピンポイントな話ある訳ない。
…いや、でもこれでこれまでのイブの不可思議な行動は説明がつく。
「どうしたものか……」
情報が多すぎて未だに処理出来ない。
「な、なんかの間違いじゃ無いのか?イブが魔王の娘だなんて事ある訳ない……よな?」
「あのさあ?ヒューマンには聞いてないんだけど。煩いからさっさと殺し――てあげようと思ったが状況が変わった。絶賛家出中のイブ様を見つけたから仕方無い。ボクは魔王に報告ついでにイブ様を連れて行く。何故君達の様な姑息且つ矮小なヒューマンがイブ様と共にいたのかは知らないが自分たちの運に感謝するといいよ」
家出……?完全に今のイブの境遇にぴったりだな……。話が噛み合いすぎてる。
これはもしかして本当に――。
そう疑い始めた時だった。
「ははっ!これはあれだね。敵の仲間を自分の味方に見せるようにして仲間割れを起こさせる……良く悪役が使う作戦さ」
その場の空気が―――変わった。
これを言ったのはもちろんハクヤ。少し前まで黙って腕を組んでいたが今となっては心底楽しそうにフェレビアへ指を指している。
「……そ、そうか!フェレビアは弱体化していて俺達を倒す事は不可能。だからこの作戦に掛けたって事かッ!」
そ、そうだよな!イブがそんな…ねえ?魔王の娘な訳ないよな?きっとハクヤの言うとおりフェレビアの目的は俺達の仲間割れ。
そうだ、きっとそうだッ!
「一瞬でも疑ってごめんなイブ?変な事言われて怖くなかったか?」
きっとイブの調子が悪かったり隠れたりしていたのもフェレビアが怖かったのだろう。
イブはまだ10歳。仕方のないことだ。
「……こ、怖かったの〜」
やっぱりそうだったかッ!!!野郎ッ!
何故か少し棒読みだったのは気になるが震えているに違いない。
「イブに怖い思いさせやがってッ!!ぶっ飛ばしてやる骨野郎ッ!!」
「おかしいだろおおおおおおッ!?一体何故そうなるッ!?ボクの話の方が明らかに真実味があるだろ?」
「うるせえぞッ!お前の作戦はもう分かってんだよ。諦めろッ!」
「イブ様も何か言ってやって下さいよッ!」
「……こ、怖いモンスターが話し掛けてくるの〜」
「ああああああああああああぁぁぁぁ!?」
少しわざとらしい気もしたが俺に抱きついてくるイブ。
ここまでされたならただで済ますわけにはいかない。俺達を嵌めようとした事、そしてイブを怖がらせた事、絶対に後悔させてやる。
「やるぞ、ハクヤ」
「そうだね。そろそろ終盤戦。僕の出番が来たようだ。捻り潰してあげるさ」
「よ、良く分かりませんが私も後ろで回復し続けますね!」
それはやめてください。
「あのぉ……わ、私そろそろ魔力が限界なので早めに決着を付けてくれると……」
作戦が始まってから完全に空気なクラリスだが確かにここまででかなり魔力は消費しているはず。
「あまり時間はねえって事か……」
俺は手に折りたたみ式ナイフを構えると未だ謎のショックを受けているフェレビアと向かい合う。
俺にだって弱体化したフェレビア相手だったらサポートぐらいはできるはず。
「覚悟しやがれ」
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