第30話 むしゃくしゃしてやったの
カサカサと身を隠す様にして森の中を進行する5人…いや、4人と1大精霊。
ん?1大精霊?数え方間違ってるだろ。
……まあ、いいか。とにかく現在俺達は身を隠しながら森の中を魔王軍アジト目標に進行している。
流石にこうして気を付けながらいけばそうそうモンスターに遭遇する事は無いだろう。
「…ぜ、前方10メートル先の岩陰、ガイアオークです!」
「……ガイアオークって?」
「オークの変異体ですね。通常のオーク10体分の魔力、筋力があると言われてます」
「はああああああああああッ!?」
……そんな甘い訳なかったけどな。
これでモンスターに遭遇するのは俺達が結界を出てからなんと20回目。その度に遠回りをしているため、既に時刻は正午をまわっている。
だが今回は…
「まずいな……。確か腐敗した木がある場所まではあの橋を通るんだろ?」
「そ、そうです!一応橋を渡らなくても遠回りで向こうへ着く道はありますけどそのぉ…ガイアオークを討伐するより厳しい事になるかと……」
結局どっちも危険なのか……。なら少なくとも遠回りは無いな。
選択肢は2つ。
『ガイアオークを討伐』
もしくは
『ガイアオークを無視して橋を走り抜ける』
ってわけだ。
「……お前らはどっちが良いと思う?」
こんな時には信頼出来る素晴らしい仲間の意見を聞いてみる事にする。
「そうですね……。まあ、ガイアオークならボスモンスターでも無いですし楽勝だと思いますよ!」
はい、論外。
「イブが倒すの!切り刻んでくるの!バラバラなの!」
……幼女がそんな物騒な言葉使っちゃいけませんッ!
「ははっ!君達は脳が足りないね。こんな時は選択肢の間を取るのさ」
お、やっとまともな意見が出て来たな。
まさかハクヤがこんな真面目な意見を出して来るとは思わなかった。この世もまだ捨てたもんじゃねえな。
ここ最近一番の感動である。
間を取るとなると……ガイアオークをいなしながら橋を渡るって事か。まあ、危険な事に変わりは無いが倒すよりはよっぽど現実的だな。
「よし、それが一番だな」
「そうだろう?ワタルも言うようにやはり間を取って『橋を討伐』でいこう」
さっきまでの感動を返せバカ野郎。
「それじゃあ何の解決にもなってねえだろうがッ!」
「ジョークさ」
くたばれ。
どうやら俺の頭では到底ハクヤの考えている事は理解が出来ない。いや、根本的に俺がハクヤと合わないように出来ているのかもしれない。
「もう!言い合っていても時間は過ぎるだけですよ!結局どうするんですか!」
「どうするって言ったってな……。やっぱり何かを囮に使ってその間に全員で橋を渡るのが一番なんじゃないか?」
討伐するわけでもなくバレながら走り抜けるわけでもない。作戦としては一番安全だとは思うが……
「問題は囮。いや、囮じゃなくても何かガイアオークの気を引くものさえあれば――」
俺がそう言った瞬間その場の目の多数は僅か一点へと集中する。
「……僕を見るのは止めていただきたいね」
「なあハクヤ、勇者ってさ……人の前に立ち弱き者を守るんだよな?」
「残念だが僕が目指すのは追放されて復讐の為にスローライフをする途中ステータスが女神の力によりカンストになって美人なエルフの嫁と暮らしながら領地改革する勇者さ」
クソッ!わけがわからねえッ!
「と、とにかくお前なら無事に生き残れるだろ?任せるからな!」
実際のところ俺達が囮を担うより、いざとなった場合のステルススキルや総合能力においてハクヤが一番なのも確かだ。
「……まあ、いいさ。僕の圧倒的な力を見せ付ける良い機会だ」
渋々ながらもハクヤは囮を了承し偉そうに腕を組む。
「あ、あのぉ……が、頑張って下さいね!」
「当たり前さ。君達はゆっくりと橋を渡ってくれればいい」
偉そうなのが少し鼻につくが何だかんだ言ってここまで自信満々だと少し安心出来る。
……俺も負けちゃいられねえな。
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「……用意は良いか?」
最終確認をとる。
「行けます!平気です!」
「わ、私も大丈夫です…!」
「バッチリなの!」
「余裕だね」
各自、準備は完璧。後は合図さえあればすぐに走ることの出来る状況だ。
「目的は1つ。橋を渡る事だ。まずハクヤがガイアオークを引きつけ、その間に俺達が全員渡り切る。そしたら俺達は魔法でガイアオークを攻撃、怯んでいるうちにハクヤが渡る。たったそれだけだ」
「倒してしまうかもしれないね」
「それはそれでアリ!行くぞッ!」
まずはハクヤがガイアオークの前へ飛び出す。ガイアオークもそれに気付いたようで直ぐに襲いかかる。
「ボオアアアアァァァッ!!!」
「安直な攻撃だね」
それをハクヤは余裕で受け流し橋から少しずつ遠ざかる。
「よし…俺達も!」
橋まではそこまで距離は無い。4人固まり橋へと駆けていく。
「げッ!?下は川になってんのかよ」
いざ橋を渡ろうとすると下が予想以上に勢いの急な川になっていることに気が付く。
「気を付けろよ?落ちたら死ぬからな?」
この橋も見た目はとても古い。いつ壊れても不思議では無いのだ。
そっとイブの手を握り素早く渡る。
「よし!全員渡ったぞハクヤッ!」
渡りきった先で大声を上げ、ハクヤへと知らせる。するとすぐにその事に気が付いたらしくハクヤはガイアオークとの戦いを中断し橋へと走り出す。
「俺達はガイアオークの妨害だ!何でもいいからあいつに魔法を打ち込んでやれ!」
その時だった。
「ネオライト・フォトンプラズマ」
「へぁ?」
ハクヤから放たれた強烈な雷の塊が一瞬の光と共にガイアオークの身体を貫く。
次第にその雷の塊は見えなくなっていき最後に残ったのは穴の空いた肉片だけだった。
「……流石にやべえな」
舐めてた。と言ったらそれまでだろうが俺も一度間近で見た事はあった。
……まあ横をかすっただけだが。
これなら最初から倒しておけば良かったかもしれないな。
「見たかい?これが僕の力さ」
なんだろう……急にハクヤが格好良く――
「……早く走るの」
「「え?」」
ハクヤが格好良く見える…そう思いかけた時だった。イブの杖から炎の球が放たれ見事ハクヤが現在進行形で渡っている橋へと引火する。
「おいイブッ!?どうして!?」
肩を揺らしてもそっぽを向く。
「……むしゃくしゃしてやったの。反省はしないの」
この幼女、通り魔ってレベルじゃねえッ!
どうしてこいつらは最後まで良さげな雰囲気で終わらす事が出来無いんだッ!?
俺は炎に追いかけられ必死の表情で走るハクヤを見て改めて思うのだった。
ああ……本当に俺はこのパーティーでやっていけるのだろうか?
疑問は深まるばかりである。
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