第29話 俺は良い仲間を持ったな
ハクヤととまともに会話する事は出来いと悟った俺はすぐにクラリスの手を引きテントへ戻って来た。
「あれハクヤさん?お散歩だったんですね。寝ているうちにモンスターがやって来て連れ去られたのかと……」
「そう思ったのなら何故俺を探しに行かずにまったりしてるのか理由を聞こうか」
おい、こっち向けよ。
「おかえりなさいなの!」
ジリジリとエルスへ詰め寄っていた俺だがイブの可愛い顔を見ればそんな事すぐに忘れてしまう。
「ああ、おはようイブ」
「おっと僕も朝の挨拶を忘れていたよ。この世界にご機嫌よう」
……そう言えば確かにハクヤには起きてから挨拶してねえな。
「おやすみなさい」
「……ワタル?その短剣をしまいたまえ」
ふざけた挨拶への殺意からか思わず短剣を出してしまったがすぐに我に返る。
「……おっと、すまねえ。エルスとイブに話があるんだったな」
「それってクラリスさんの事ですか?」
エルスは確かめるかのようにクラリスへと視線を向ける。
クラリスは先程から落ち込んだ顔を見せまいと頑張っているみたいだが、誰だって今の様子をみれば何かあったことぐらい分かってしまうだろう。
「ああ、そうなんだが実は―――」
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
「なるほど…魔王軍ですか……」
随分と大事だと思うのだがエルスは特に慌てる様子もなく頷く。
「な、何か微妙な反応だな……。あの魔王軍だぞ?怖くないのか?」
「いや、怖くないと言えば嘘になるんですけど……すみません。語尾がワンのコボルトに気が取られました」
……ちょっと分かる。
「でも、その魔王軍も今はまだ計画の途中なんですよね?それなら早く潰しておくのが良くないですか?それに私達なら絶対負けませんよ!」
何処からその自信が湧くのか意味が分からなくて理解に苦しむんだが。
こいつら俺が旅人なのを忘れてはいないだろうか?
「い、イブはどうだ?嫌だよな!?よーし俺と一緒にトランプでもしような」
「早く殲滅に行くの」
あれまあ……やる気が最高だァッ!?
肝心のイブまでもがやる気に満ち溢れている。既に状況は1対3、これはやるしか無いらしい。
しかし、この三人ならまだしも俺みたいな雑魚がまともに戦っても魔王軍に勝てるわけ無いしな……。
「……はあ、仕方ないか……クラリス、魔王軍って大体どのぐらいいるか分かるか?」
「ふぇ……?や、やってくれるんですか?」
「まあな。元々は俺から聞いたことだし。それに言っただろ?俺に出来る事なら何でも言ってくれって」
その様子を見て感動したのかエルス達もどうやら拍手をしてくれている。俺は良い仲間を持ったな。
この調子なら王冠ぐらいどうってこと――
「いやぁ…さんざん諦めさせようとしておいて最後はカッコつけるんですね。流石ワタルさんです!」
「まさかここまで凄い手のひら返しを見るとは思わなかったね。流石ワタルだね」
「言ってる事が急に変わってびっくりしたの!流石おにーちゃんなの!」
早く王冠外れねえかな。
「……ふふっ!」
汚く罵り合う俺達に聞こえたのはクラリスの吹き出す声。
「ど、どうした?」
「え、えっとぉ……ふふっ!本当に皆さんは仲が良いんですね」
「「「「?」」」」
俺達は意味が分からず首を傾ける。
だがそんな俺達にも分かる事はある。抑えきれずに笑うクラリス。そんな微笑ましい彼女の顔にはもう大粒の涙など無かった。
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
「さて、肝心の作戦だが……まず、俺達がまともに突っ込んでも勝てる訳がない」
「勝てるさ」「勝てます」「勝てるの」
「分かったから少し黙っていてくれ」
俺はなんとか落ち着きを取り戻し、再度説明を続ける。ちなみに先程聞いたが魔王軍は話に出てきた二人以外見たことが無いようで恐らく秘密裏に行っている計画らしい。
「そこでだ。今回はハクヤのステルススキルを使おうと思う」
そう、ゾンビに襲われた時にハクヤが使ったあれだ。細かい事はよく分からないが自分が透明になる奴だったはず。
「あれをハクヤが使って魔王軍の大将を暗殺するのが今回の作戦だ」
「た、確かにハクヤさんなら火力は期待出来ますし良いかもしれません!けど……」
ん……?何だ、雲行きが怪しく――
「……まあ、僕レベルの勇者には些細な問題なんだか……実はあのスキルには条件があるのさ」
「条件?」
「そうさ、実はあのスキル……両目を瞑っていないと発動しないのさ」
何が些細だ、大問題だよ馬鹿野郎。
「それじゃあたどり着けねえじゃねえか!」
「残念だね……。良いところに目を付けてはいたんだが。……目だけに」
二度と口を開かないで頂きたい。
不幸な事に自信満々の作戦が初っ端から破綻してしまった。他に作戦なんて――
「わ、私が案内します!……いや、やらせてください!」
突然、そんな状況を打開しようと提案したのはクラリスだった。
「そうは言ってもな……出来るのか?」
「は、はい!そのぉ…今の私なら敵の居場所を感じ取れるはずです!」
守護精霊の力を思う存分使おうとするクラリスだが残念な事にそれでは問題は解決しない。
「問題は直接戦って勝てるか……か」
少なくとも俺から戦力になる事は無い。
「おにーちゃんは心配症なの。イブ達はいっぱい強いの。任せるの!」
「……強いのは知ってるけど」
「まあまあ、大丈夫ですよ。いざとなれば即死以外なら私が回復できますから」
敵もだけどな。
「勇者である僕が切り捨てるだけの話さ」
こいつらはいっちょ前に自信だけはあるのが怖い。……けど強いのは本当だしな……。
変にスキルを使わせなければいけるか?
「グゥ……ッ!分かったよッ!やればいいんだろッ!」
「あ、ありがとうございますぅ……」
こうなったら意地でも生き残ってやる!
こうしてあっさりと計画阻止の為の戦いが始まるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます