第28話 理不尽極まり無いワン!

「私、この森を守れなかったんです」


 その一言によって先程とはうって変わり辺りへ重い空気が立ち込める。

 が、周りを見ても背の高い木がずらっと立ち並んでいてクラリスの発言が少し引っかかってしまう。この様子を見る限りむしろ自然環境は良い方なんじゃ……。


「守れなかったって……どう見ても自然豊かだと思うんだが」


「ち、違うんです!そのぉ…ここは私の領域なので……」


「領域?そういや、気になってたんだがここは一体どこなんだ?エルスから聞いたんだがこの場所は地図に載ってないって…」


「……元々は載っていたんです」


 そう言うとクラリスは再び俺の右腕に回復魔法を掛け始める。

 

「元々は?」


「はい……少なくとも40年前のあの日までは――」


 40年前…?当たり前だが俺にそんな昔の事分かるはずもない。

 親から聞いた話も思い出しては見るものの

母さんの推しであるプリンスの好みがプラチナであることしか思い出せない。 


「その40年前に何があったのかって聞いてもいい――。……いや、悪い事を聞いた。忘れてくれ」


「そ、そんな!大丈夫……です…。むしろ聞いてもらったほうが楽なのかもしれません」


「そうか……。なら別に俺だったらどんな事でも聞くからな?一応助けてもらった事だし俺に出来ることだったら何でも言ってくれ」


 争い事は勘弁だが、悩み相談ぐらいなら俺にだって出来る。これでも小学生の時は仲裁神のワタル呼ばれていたほどだ。

 ……頭悪そうな名前してんな。


「そうですか?な、なら少し……」


 クラリスは俺の右手の治療が終わると静かに、そしてまるで長年一緒に付き添ってきた親友を思い出すかの様に語りかけてきた。


「……ワタルさんは40年前、この森が何て呼ばれていたか知っていますか?」


「いや、俺は旅人だからな。この森の存在すら最近知ったばっかで……」


「旅人?確か勇者様の荷物持ち――」


「そそそそそその前の話な!お、俺は旅の途中であいつらと会ったんだ!」


 あっぶねえ……。軽い発言には気をつけねえといけねえな。


「ふふっ、もう気付いてますよ。ワタルさん達が勇者様一行では無いことぐらい」


 いや、気を付けなくていいな。


「でも一体いつから……」


「いつから…って事でも無いと思います。少しの間ですけど一緒にいて多分違うんだろうなあ……って。あとは他にワタルさんの立場が勇者様達の保護者みたいで不思議に思ったので」


 あんな子供いらねえよ。……いや、イブはちょっと娘に欲しいかもしれない。


「そうだったのか。でも逃げないんだな?精霊はヒューマン苦手って聞いたんだが」


「わ、私も確かにヒューマンは苦手ですけどワタルさん達は何か他のヒューマンとは違う気がします……多分」


 そりゃそうだろうな。こんなにデメリットスキル持ってる奴ら俺達しかいないだろうからなッ!


 少し自暴自棄になってしまったが結果的に良い方向へ来ているので良しとする。

 確かに会ったばかりの時と比べクラリスが落ち着いて話している事は分かる。

 しっかり会話が出来てるもんな。


「あ、え、えっと……すみません!話が逸れちゃいました。えっとですね、実は40年前この森は『精霊の森』って呼ばれていたんです」

 

「精霊の森?怪人の森と随分違うな」


「……昔は精霊が沢山住んでいたんです。私も大精霊という立場ではありますけど精霊の子達ともよくお話ししていて……」


 古くから精霊には自然を豊かにする力が備わっていると言われている。この森に立ち並ぶ背の高い木も、もしかしたらその名残なのかもな。


「そんなある日の事でした――」



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


「ねえねえクラリス!最近森の端で嫌な魔力を感じるの!」


「……嫌な魔力…?」


「うん……なんか苦しくて…ギューって」


 この子は昔から魔力に敏感ですから何か感じ取ったのかも……。


「う〜ん、わ、分かりました!後で私が直接見に行ってきます!」


 強がってしまいました…。で、でも私だってこの森の守護精霊です!何かあってからでは遅いんです!

 早速足を運んで確かめなくては!


 こうして私は少しの不安と共に友達の言っていた森の端まで確かめに行きました。



「……な、何があって――」


 着いてみれば異変は明らかで周辺の木は全て腐敗し、これまでいた他の精霊の姿も見えない。

 そして、極めつけは……


「あれは……バーニングピッグにトライファング?」

 

 どちらもこの森には生息していないはずのモンスター。それに魔王城から遠いこの森にこんな強いモンスターが現れるわけ―――。


「だっ、誰ですか!」


 私は突如背後に現れた膨大な魔力に驚き思わず声を上げる。

 振り向くとそこには杖を持ち黒いローブを纏った骨のモンスター、そしてその仲間なのかコボルトまでもが立っている。


「……やっと気が付いたか。ハハッ!楽しんで頂けたかな?」


「あ、貴方達が……これを?」


「そうだよ?次期魔王様のため……まずはこの森を乗っ取るところから始めるとしようと言うわけさ」


「そ、そんな事させません……!」


「させません?笑わせるねえ!自分の森が大変な事になってるっていうのに下級精霊なんかとつるんでいた君が?さっさと諦めて僕のエ……エ…」


「エネルギー放出爆破計画だワン!」


「そうそうエネルギー放出爆破計画の犠牲になりなよ。……なんか名前ダサくない?」


「考えたのはお前だろワン!」


「……煩いなあ。出来る限り残虐な方法で殺しちゃうよ?」


「わ〜お……理不尽極まり無いワン!」


 今のうちにと私は精霊魔法で黒いローブを纏った方を攻撃する。


「ブルームインパクト!」


「おっと……流石のボクでも大精霊の攻撃をまともに喰らいたくはないからね。さっさと力だけ奪ってさよならとするよ」


 私の攻撃を軽く避けた黒ローブのモンスターは手に持つ杖を私に向け……


「吸え、ネクロゴンド」


 その瞬間、私は身体の力が全て抜ける感覚に陥る。身体の隅々から魔力が吸われ、あの杖の中へと入っていくのがわかる。


「あっ……あ…ぁ…ぁぁ……」


 そして、10秒と持たず立てなくなった私の顔を覗き込むようにしてそのモンスターは言った。


「50年だ。50年でボクの計画は完成する。それまで気長に待っていることだね」


「50年とかクソ長いワン!もっと早く終わる計画考えろワン!無能ワン!勇者に邪魔されて終わる未来が見えるワン!」


 そうしてそのまま黒ローブのモンスターはコンガリと焼けたコボルトを手に転移魔法で姿を消した。


「……50年……?」


 それまでに…計画を……勇者さ……ま…。



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


「……そしてそのまま深い眠りについた私は最近やっと魔力が回復したようで目を覚ましました」


 ……重いな。てっきりクラリスが何かミスって地形を変化させたのかとでも。


「ってことはあと10年ほどでその…エ…」


「エネルギー放出爆破計画です」


「そうそう、そのエネルギー放出爆破計画ってのが起きるのか……」


 いや、ほんとに名前ダセえな。


「……それからずっと聞こえるんです。腐敗した木の声が。苦しい…助けてって…」


 クラリスは何かを思い出してしまったのか大粒の涙を流し始める。


 悩みがあったら頼ってくれとも言ったし何かしてやりたいって気持ちは俺にもあるんだが……次期魔王?計画?何それ無理じゃん。

 そもそも俺みたいな雑魚が余計な首突っ込んでも無駄死にだよな。


「……クラリス。そ、その悩みは俺には―」


「勇者である僕の出番だね」


 クソッ!何処から湧いてきやがったッ!?


「おいバカ、何言ってんだ!世の中には触れちゃいけない事もあるんだぞ!」


「まったく……こんな分かりやすいイベントやるに決まっているだろう?」


「祭りでもねえよ!?」


「大体僕がやらずに誰がこのイベントをやるって言うんだい?」


「そ、そりゃ勇者とか……と、とにかく俺達はそんな危ない事せずにせめて計画を調べる程度で……」


 どうやらハクヤに意見を変えるという選択肢は無いらしい。腕に自信あり過ぎるようで倒しに行くと言って止まらない。


「いいか!?お前が行くのは構わねえ!けど王冠がある限り俺達も付いていかなきゃならねえんだよ!」


 1キロとは以外と近いものでハクヤが計画を止めに行くならば俺達も敵地へ入らなくてはならない。


「なるほど……」


「やっと分かってくれたか……」


「君が倒したいと言う訳だね?」


 コイツ話が通じねえッ!!!

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