第25話 ベストスポット
「……ホントにこっちであってるのか?」
「……ふふっ」
いや、何か言えよ。
「安心したまえ、勇者の進む道に間違いなどあり得ないさ」
「何かハクヤさんの進む道って全部崖とかに繋がってそうなので嫌なんですけど……」
「確かに毒の沼とかに着きそうだよな」
「この森にそんな所無いですぅ……」
そんな会話の中、俺達が今進んでいる道はただの一本道。背の高い木が立ち並び、ゴツゴツとした岩がゴロゴロと転がるただの一本道だ。
まあ、何故俺達がこんな道を通っているのかは少し前に遡る………。
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要因はハクヤによる一言だった。
「お風呂に入りたいと悩む君達に僕からいい考えがある。聞く気はあるかい?」
「無いな。そこで静かにしてろ」
「無いですね。静かにしててください」
「はわああああ!!!だ、駄目ですよ!勇者様が悲しそうにしてます!!」
急にドヤ顔で提案しようとしたハクヤにイラッとした俺とエルスの容赦ない否定がハクヤに突き刺さる。
「す、少しでも聞く気は無いかい?」
おっと、諦めの悪い……。
しっかし…ハクヤが粘るとは珍しいな。普段ならいじけて数分間は喋らないのに。
余程伝えたいことなのだろうか?
それなら……
「……はあ…一応、聞くだけなら別に…」
アホみたいな話だったらスルーすればいいだけの話だ。損はしないだろう。
「ふふっ…やはりね。僕には分かるさ。実は内心気になっていたのだろう?いいさ、教えてあげよう!」
するとハクヤはアイテムボックスから何かを探し始める。
「「「……?」」」
「確かここに……お、これさ!」
ハクヤが取り出したのはフリフリな服を着た少女の絵が書かれた小さな袋。
この絵は……見たことない絵だな……。
その絵は壁画などとは違い、色もついていて……なにより、謎の可愛さがある。
「……なんだよそれ」
「ああ、これはバスボールと言って、お湯の中に入れるとシュワシュワと溶けて…それはもう良い香りがして最高のバスタイムに…」
幸せそうな顔で説明するハクヤは次々と似たようなばすぼーる?とやらを出してくる。
……クソッ!気になるじゃねえか!
「けど、お湯は作れたとしても浴槽が無いので結局水浴び程度しか出来ませんよ?」
エルスもその事に気付いたようでハクヤに伝えるが怒涛の提案は止まらない。
「その事なんだが、気絶から起きて近くを散歩しているときに偶然見つけたスポットがある。勇者である僕が案内してあげるさ」
「偶然見つけたスポット?」
「ああ!景色も素晴らしい僕にぴったりの場所さ」
そう言うとハクヤは立ち上がり俺達に向って手招きをする。
「……どうしますワタルさん?」
「……ま、まあ、損するわけでも無いし?別に少し付き合ってやってもいいぞ」
ハクヤも楽しみにしているようなので変な所へはいかないだろう。
「じゃあ決まりですね!入浴セット用意するので少し待ってて下さい!」
「おう。クラリスはどうする?」
「え、えぇ……っと…それじゃあ私も…」
「よし、ならイブは背負って連れてくか」
全員の準備が整うとハクヤは目を輝かせながら歩き始める。
気分はウッキウキなようで少し歩くのが早い。
そして現在に至る訳だ。
「大丈夫ですかワタルさん?そろそろイブちゃん背負うの代わりましょうか?」
「いや、最後まで俺が背負って行くさ。イブは軽いからな」
イブよりもよっぽど頭の王冠の方が重いまである。
「そうですか……。ワタルさんってやけにイブちゃんに優しいですよね……?小さい子が好きだったりします?」
「ふふっ…僕は好きだね」
お前には聞いてねえよ。
「いや、別に小さい子が好きって事は無いんだが俺には兄妹がいないからな。ちょっと憧れてたんだよ」
「僕には姉と妹がいるよ」
だからお前には聞いてねえよ。
「そうなんですね。私も姉しかいないのでイブちゃんを見てると構ってあげたくなっちゃいます!」
『姉』のときに嫌そうな顔をするのが見えた気がするがまあ、気のせいだろう。それよりエルスとは気が合いそうだ。
「いつかは泣かせてみたいですね。きっといい声で泣いてくれますよ!あと、欲を言えば怯えた顔も見てみたいです!」
なるほど、気が合わなそうだ。
エルスの発言に余程驚いたのかクラリスに関しては感情を失い口をパクパクとさせている。
仕方ないよなあ……。女神設定の奴が絶対にしちゃいけない顔してるもんな……。
こう…ヨダレが……。
「なあ……ホントに犯罪だけはするなよ?」
「もう!ワタルさんは心配性ですね……。別に大丈夫ですよ?私は自分からそんな事しません!ただ……見るのが好きなだけなんですからっ!!!」
「クソッ!こいつたちが悪いっ!!!」
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そしてイカれた会話を交わしながら我々一行はそこへ着いたのだった。
「ここさ。どうだろうか?僕の心を表すかのような綺麗な空、僕の器を示すかのような広大な森。素晴らしいね」
今俺たちが立つのは崖のすぐ上、夜空と森両方を視界に入れることのできる旅人にとってベストスポットと呼ばれる場所だ。
そして、目の前には……
「ひょっとしてそこが……」
「そうさ。この大きな石で囲まれた場所、ここへお湯を張って温泉にしてみないか?」
ハクヤが指差すのは大きな石が円のように並ぶ場所。ここなら確かにお湯が流れていってしまう事もモンスターが出る事も無い。
「……確かにいいな。よしっ、俺も手伝うから早くお湯を入れようぜ!」
まずは水属性魔法で水を出し、ハクヤの火属性魔法でお湯に変える。完璧なプランだ。
「じゃあ、出来たら呼んでくださいね!私たちはその辺お散歩してきます。」
エルスはそう言ってクラリスの手を引っ張りながら連れて行ってしまう。
「……ったく。まあ別にいいか。俺達男組は先に準備しておこうぜ?それ、ウォーターショット」
俺は水属性の初級魔法を駆使し、まずは水を溜めることから始める。
こんな時、魔法を覚えていて良かったとつくづく思うわけだ。
「……つまり、それを僕が温めればいいんだね。理解したよ。心の温かい僕にぴったりな役割だね」
「……ちょっと何言ってるか分からない」
「さあ、勇者である僕の入浴の為に温まるがいいさ!ヒートボム!」
……。
反応が無い。
「ヒートボム!」
……。
またしても反応は無い。
「あれ…もしかして……」
先程、結界を張り直したことでもうお気づきだろう。ハクヤもようやく気付いたらしくやれやれといった表情で首を下げる。
そして、俺達は互いに互いを指差し、息の揃った声で呟くのだった。
「火属性魔法無効化結界……」
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