第24話 絶望の3コンボ

 クラリスが地面に魔法陣を描き一つ一つの魔法式を組み立てていく。その姿は流石、守護精霊はと言った様子で魔法に詳しくない俺でも高度な技術を使用している事が分かる。


「どうだ?いけそうか?」


「むぅん……え、えっとぉ…結界が残らずバラバラに……普通はバリアブレイクでも少しは結界の形が残るはずなんですけど…」


 クソッ!あのバカ余計な力持ちやがって!


「これじゃあ時間が……ってあれ?」


「どうした?」


 クラリスが青ざめた顔で首を横に振る。既に嫌な予感はしていたが……やはり……。


「ど、どうしましょぉぉぉぉぉ!!!変な魔力が邪魔して結界が張れません!」


 ……知ってた。あいつのスキルにまともなのねえもんな。ただ結界を壊すだけで収まるはずがない。


「…おーいハクヤー!一つ聞いていいか?」


「何だーい?僕は今、勇者として仲間を守る為にこう――」


「さっきのバリアブレイクって結界を破壊する他に何かあるよな?」


 聞いた瞬間ハクヤの目が輝き、ゾンビを燃やしながらも何処かウキウキとした表情が見て取れる。


「お、良く気付いたね。そうさ僕のバリアブレイクには追加効果としてその周辺では24時間結界が張れない様になるのさ。やたら魔法結界を張ってくるボスに強いね」


 やたら魔法結界を張ってくるボスなど意味分からないことを言っているがこの際は無視するとして……


 いや、どうすんだよこれ。


「……ゾンビになったらどんな生活なんだろうな」


 現在頭の中ではゾンビの生活についての疑問が止まらない。

 毎日土の中で寝て夜になったら起きる……生者がいたら襲う……やだなあ。


「だ、駄目ですよ!諦めちゃ!これでも私は守護精霊なんですよ!結界……ぐら…い……私…が……」


 更に魔力の質は高まりクラリスの力がバリアブレイクの追加効果へと干渉したのか辺りにバチバチと電撃がはしる。


「おおッ!?いけるぞ!頑張れクラリス!」


「頑張りますうぅぅぅぅぅぅぅ!」


「凄いじゃないか……!僕の力に干渉するとは……褒めてあげるよ」


 お前はどっちの味方だよ。


「だが、僕は超えられないさ。なんたって勇者だからね。圧倒的な力で迎え撃ってあげよう!」


「張り合うんじゃねえよッ!!大人しくしてろバカッ!」


「し、しかしここで結界を張られると僕の今まで築き上げた威厳が台無しに……」


「ずっとゼロだけどな」


「………なるほど」



 俺は木の裏で泣き出したハクヤを放っておくと決めるとすかさずクラリスのフォローを再開する。既に大部分の魔法式は完成しているようで安定させに入っているようだ。


「凄えな……守護精霊って…」


 いくら守護精霊はと言えとあのハクヤのスキルのデメリットに干渉するとは……。


「そ、そんな事無いですよぉぉぉぉ……ただこの森では他の精霊さんよりちょっと自然に干渉しやすいだけで……そ、それより出来ましたよ!」


 クラリスは手のひらを星一つない綺麗な夜空へ掲げると……


「いきます!サンクチュアリ」


 魔法式から飛び出した数々の光は瞬く間に夜空へと飛んでいき巨大なオーロラを作り出す。

 

「……何だこれ」


 その瞬間、ゾンビの群れは何かを悟ったのか地面へと潜ろうとするがもう遅い。オーロラの神聖な光はゾンビへと降り注ぎ瞬く間に光の粒へと変えていく。

 ギリギリ結界外にいたゾンビは無事なもののそれ以上中へは入る事が出来なくなっているようだ。


「ワタルさん!中のゾンビは全部消えたみたいです!」


「もういないの!」


 ふたりは一仕事を終え疲れたのかその場へ座り込む。防衛戦を始めて大体1時間は戦い続けていただろうか?その間魔力をぶっ通しで使い続けたエルスと魔法無しでゾンビを凌いだイブ、そして未だにメソメソしてるそこの自称勇者はやはり規格外だと改めて思い知らされる。

 

「そうだな。これでようやく休め――」


 一旦、家の中で座ろうと振り向いた俺の動きが停止する。


「私もジェミニ使い過ぎて肩が……もう疲れましたよ。今日は早く休み――」


 続いてエルスが目から光を失う。


「はわわわわわわ!!!どうしたんですか!女神様も早くお部屋でゆっく――」


 そして最後にクラリスから表情が消えた。


 俺達が絶望の3コンボを決める中、気楽な幼女が1名。


「……?家が無くなっちゃったの」


 その無垢で疑問に満ちた顔を見た瞬間、俺達は足元から崩れ落ちたのだった。




✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


「……ん、美味いなこれ」


 現在俺達は大量の炭と化した元クラリス宅の前に寝袋、そしてハクヤがアイテムボックスから取り出したてんと?などと言うものを並べ野宿の用意して夕食タイムだ。


「そうですよね!えへぇ……この森栄養が沢山あるのでこんなに甘くなるんですよ?」


 クラリスが誇らしげに胸を張る。ついさっきまで見せていた無の顔は笑顔へと変わり実に楽しそうだ。


「ふむ、やるじゃないか。日本にもこんなに甘いモモは無かったね。外でなければ満点をあげてもよかったさ」


 少し上から目線なのは気になるがハクヤも元気を取り戻しモモにかじりついている。

 

 ……てか外なのはお前のせいだろ。


「はあ……ワタルさん?言いたい事もあるでしょうけど今日は早く寝ましょう?イブちゃんはもう寝ちゃいましたよ」


「……まあ、そうだよな。明日の朝にはここを出発したいし」


 俺はエルスの膝の上ですやすやと眠るイブを眺めながら応える。


「でも、クラリスは平気なのか?そこの駄目勇者のせいで家が……」


「へ、平気ですよ!私近くに木さえあれば休めちゃうので……まあ、最近目覚めたばかりなので特に寝る必要はありませんが……」


 そこは精霊様々だな。


「ならいいけど……。……よし、じゃあ俺はイブをテントへ……」


「あ、待って下さい!」


 俺がイブを抱きかかえた直後エルスが真剣な顔で制止してくる。

 

「その……少し言いづらいんですけどやっぱり寝る前にはお風呂に……ゾンビとも戦った事ですし……」 


「……それは確かにそうだな。でもお前冒険者だろ?こんな事しょっちゅうあるんじゃないのか?」


 確かに全員ゾンビとの戦闘でそれなりに汚れてはいる。しかし、俺も旅人としてお風呂に入れない日はあったし、冒険者なら尚更そのような事はあったはずである。


「そ、そんな事はあるわけ無いじゃないですかッ!?これでも私、聖職――あ、女神ですよ!?お風呂は精神をリラックスさせてくれますし身体は常に綺麗に……」


 一瞬設定を忘れたエルスが熱弁する。


「それにイブちゃんはだって女の子ですよ?綺麗でいたいはずです!」


 滅茶苦茶気持ち良さそうに寝てるけどな。


「まあ、でもその気持ちは分かるが……」


 『浴槽が無い』そう告げようとした時だった。ニヤニヤとするハクヤと目が合う。


 ああ……嫌な予感がするなあ。

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