第23話 規格外って良いよね
「えいっ!やあっ!」
エルスが放つ光の矢がゾンビの頭を貫き物凄い速さで処理していく中、応援しかできないのが歯痒い。
「よしよし!いけるぞエルス!」
する事が無いので声は上げてみる。
「だいぶ数は倒したと思いますが……そう簡単にはいかないみたいですよ……」
そう言ってエルスが何やら気難しい顔をして遠くの地面を見つめる。
「見てください。このゾンビ…どんどん増えていってます……!」
指差す方向からはゾンビが地面から次々と這い出て来ていて身体の大きいゾンビから小さいゾンビまでもが我先にとこちら目掛けて進行してくる。
「ふむ、無限湧きって奴だね」
「うわッ!?」
突然耳元で喋りだしたハクヤに驚いて一歩下がる。
……いつの間に復活したんだよ。
「ゾンビなど恐るるに足りないからね。僕がぱぱっと燃やして経験値の足しにしてあげるさ」
けいけんちって何だよ。
「はあ…、てかさっきビビって家の中へ一目散に逃げていったのは誰だよ……」
「………。」
無視すんじゃねえよ。
「……状況はよろしく無いようだね。ここからは僕が相手をしてあげようッ!!」
「あっ!?ちょ、おい!!」
ハクヤは手のひらに炎の玉を作ると都合が悪いのかすぐさまゾンビの集団に突撃しに行ってしまった。
「……い、生きて帰ろよー」
声が届いているかは分からないが一応ハクヤの応援もしておくことにする。
しかしあれだな……俺、滅茶苦茶役立たずだな……。あんなハクヤ達に文句言っといて俺だけ何もして無いってのは……。
すると突然、何か柔らかいものが俺の左手をつんつんと―――。
「イブも戦うの!」
そこには満面の笑みを浮かべているイブ。
「あ、ああ…イブか。ん……クラリスは?」
「そこに居るの」
イブの言うとおり家の壁へもたれかかるようにしてクラリスが気絶している。
一緒にお花が添えられているのはきっとイブが気を利かせたのだろう。
……いや、亡骸かよ。
「イブ、次からはもう少し考えような?」
「?」
1ミリの悪気もないキョトンとした顔でイブか首を傾げるので理解はしていないだろうがまあ……今回は別にいいか……。
「……てかイブは戦いたいのか?」
「なのなの!」
「火属性の魔法使えるか?」
「使えないの!」
「却下で」
「の!?」
いや、の!?じゃないでしょ。
「いいかイブ?ゾンビには火属性魔法か神聖魔法しか効かないんだぞ?いくらイブが強くても効かなかったら――」
「消し飛ばせば解決なの!」
この子は一体何を言っているのだろうか?さっきから消し飛ばすには火属性魔法か神聖魔法だって言っているのに……。
「出来るもんならやって――」
ドゴオォォォォォォォッ!!!
凄まじい重低音が響き『みろ』と言う言葉が出る前に口が動かなくなる。
「……?」
「こうすれば魔法は要らないの!」
満足げにイブは胸を張り、褒めてほしいのか人差し指を引っ張ってくる。
いや……状況が理解できない。重低音が響いた瞬間背中に土埃がダイレクトアタックしてきたことは確かだが……。
恐る恐る振り向く。しかしそこはすでに…
「……もう、何かいいや。イブバンザーイ」
俺の僅か15メートル後ろでは地面が抉れ大きなクレーターが出来上がっている。そしてその上には数秒前までゾンビだったものが積み重なって……。
何これ、魔法要らないじゃん。
取り敢えず頭を差し出してくるイブを撫でながら考える。
これならイブも戦えるな……。いや、でもそしたら本当に俺はただの役立たず……。何か俺に出来る事は――。
その時だった。絶賛気絶中のクラリスが視界に入ってくる。
……あれ?もしかしたらこの状況をクラリスなら何か知っているかもしれないよな?という事は誰かが起こさなきゃ……これだ!
「よし!イブ!好きなように戦ってきて良いぞ!俺はクラリスがこの状況について何か知らないか聞いてみる!頼んだからな?規格外のお前なら出来る!」
「お任せなの!」
「……何か今、規格外という言葉が聞こえたのだが……それを僕にも言って貰えないだろうか?」
いや、何でお前のとこまで聞こえんだよ。
『規格外』という言葉に反応したのか突然ハクヤが自分にも言えと言ってくる。
「あ、ああ……お前も規格外だぞ……」
「ふふっ……そうさ!僕は規格外!まさに勇者として素晴らしい才能に恵まれている……その僕が負けるはず無いね」
どうやらやる気が増したのか先程とは比べ物にならないスピードで魔法を打ち込んでいく。
「おいおい、そんな火力じゃ家にまで火が飛んで――」
残念な事にその予感は的中した。
ハクヤの飛ばしたブレイズアローが一本家に向かって飛んでくる。
そして……
「ああああああああツ!!!!!!!?」
見事屋根に突き刺さり家が燃え始める。
「ウォーター!ウォーター!クソ、消えねえええええええッ!!!!?」
「……まあ、僕の魔力で造った炎を初級魔法如きで消せる訳がないよね」
自然には消えないフォーエバーフレイムも厄介だがそれそれでタチ悪いな……。
「って、そんな場合じゃねぇ!荷物!」
急いで家の中へ入りリュックの回収へ向かう。
「ワタルさーん!私のもお願いしまーす!」
「ふっ…僕にはアイテムボックスがあ――」
「お兄ちゃんお願い!なの……」
注文が多いな。クソッ!!
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「……はあ、疲れた……もう無理……」
全員分の荷物を救出し、クラリスを担いで家から離れた俺は自分の不運さを嘆く。
「そうだ…取り敢えずクラリスを……」
試しに一度肩を叩く。
「起きそうに無いな……」
続いてほっぺを引っ張る。
「ちょ、痛い痛い痛いですうううう!!!」
余程びっくりしたのかその場で飛び起きるクラリス。
……今更だけど精霊も気絶するんだな。
「ふぇ…ここは……」
「大変なんだよ!ゾンビが次からへと!」
「ええ!?え?何で?どうして!?いつの間にこんな事にッ!?って家がああああ!!」
「説明してる時間は無いんだ!どうにかしてあのゾンビを追い払う方法は無いのか!?」
起きたばっかりで、あまり状況を理解してはいなさそうなのでこの際仕方ない。ざっくりと経緯を説明する。
「つ、つまり結界を………壊したと……」
「まあ……そう言うことだ。どうにかして直したりする事って……」
この周辺一帯に結界を貼り直して貰えばゾンビは全て消えるかもしれない。
「や、やってみますけどし、失敗しても怒らないでくださいよ……?そ、それにその間無防備になるので守って頂けると……その…」
「分かってるさ。その間は俺がきっちり守ってやるから!頼んだぞ!」
「は、はいぃぃぃ……」
元気の無い返事だが今はクラリスを守る事だけを考えるしか無い。俺は近くの木の枝を広い構える。
大体のゾンビはハクヤ達が引きつけているがこちらに来ないとも限らない。
「倒せはしないが近付けさせない事ぐらいはやってやる……!」
耐久戦が始まろうとしていた。
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