第22話 後ろの方は……

 火属性耐性を持ったゾンビ達がぞろぞろと集まり距離を詰めてくる。

 鎧を装備していたり剣を持っているところを見るに恐らくこの森で力尽きてしまった冒険者だったりするのだろうか?


「ハクヤ、こいつら火属性の魔法が効かないっぽいぞ……どうする?」


「ふむ、これは結界だね」


「結界?」


「この辺りに火属性の魔法を無効化する結界がかけられてると見るよ。よく異能持ちの敵キャラが使う奴だね」


 知るかよ。


 しかしこの状況……火属性耐性を持っているとなればかなりまずい気が……。


「俺の適性は水と雷……ゾンビは神聖魔法か火属性魔法でしか倒せないからな。ハクヤは神聖魔法使えたりしないか?」


 神聖魔法に関しては適性が無ければ使うことすら出来無い火、水、風、雷、土とは違い教会で学べば誰でも使う事が出来る。

 ちなみに光、闇の魔法も同様に教わる事によって誰にでも使う事が出来る。


「僕は才能に目覚めてからずっと攻撃魔法しか鍛えてこなかったから回復魔法なんて覚えたことは無いさ。そもそも僕に回復魔法を使わなければならない場面なんてこないしね」


 大口を叩いているが実のところ遠回しに使えないと自白しているだけである。


「……期待なんてして無かったからな?」


 クソッ!こうなったら強引にでも……


 しかし俺がリュックを盾に強引に突破しようとする中、ハクヤは何故か余裕そうに腕を組んでいる。


「おい、何でそんな余裕そうにしてんだよ」


「もしかして知らないのかい?」


「だから何を――」


 ハクヤは見ておくといいよと自身の胸を叩くと迫りくるゾンビの間を何事も無かったかのように通り過ぎる。


「ちょっ!?おま、どうなって!?」


 ゾンビがハクヤに反応していない?まさかそんな筈は……。


「ゾンビは生命力を追ってくるのは知っているね?」


「そ、そりゃあ……」


 ゾンビから距離を取りつつもハクヤの問に答える。

 

「ならば分かるはずさ」


 そう言ってハクヤは再度腕を組むと早く来なと言わんばかりに木の根本に座り手招きをしてくる。


 いや、問題形式にすんじゃねえよ。仲間の一大事だろうが。



「グッ……生命力って言われてもな……」


 まさかゾンビに生きていると思わせなければいいと言う事だろうか?  


「い、息を止める……みたいな?」


「……フッ、安直な考えだね」


 こいつ早くゾンビに噛まれねえかな。


「ああああッ!?ヤバい!逃げ場が!?」


 そんな事している内にゾンビに包囲されてしまったようで逃げ道が無くなる。


「ハ、ハクヤァァァァァァァッ!?ヘルプ!カモン!ヘルプゥゥゥゥゥッ!!ほらっ!来てるからああああ!!!!迫って来てるからあああああ!!」


「……まったく僕がいないと危なっかしくて見ていられないよ?」


 ハクヤは勝ち誇ったような顔で大剣を地面に突き刺すと唱える。


「バリアブレイクッ!―――そしてブレイズアロー」


 ハクヤの飛ばした炎の矢はゾンビの頭を貫き数百メートル吹き飛ばした後近くの大樹を業火で包み込む。

 

「……相変わらずヤベえな」


 流石に今のスキルは俺でも知っている。結界破壊スキルであるバリアブレイクに火属性の中級魔法のブレイクアロー。

 ……だが威力がおかしい。


「これで解決だね。早くモモを持ち帰るとしようか」


「……そうだな。でも一つ聞いていいか?」


「何だい?」


「結局さっきは何故狙われなかったんだ?」


 まずは一安心だが生命力がどうとか言っていた正解を聞いていない。

 

「ああ…それはステルススキルを使っていたからだね」


 生命力のくだりいらねえじゃねえか。



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


 消火とモモの採取を終えクラリスの家まで帰ってきた俺達は扉を叩く。


「おーい、開けてくれ」


 すると数秒間ドタバタとした音が聞こえ扉の鍵が開く音がする。


「ずいぶんと遅かっ――」 バタンッ。


 ……閉めるんじゃねえよ。


「おい?何で閉めたんだ?この通りせっかくモモを……」


「ワタルさん……生きてます?」


 は?


 扉ごしにエルスの声が聞こえる。

 

「何言ってんだよ。確かに途中ゾンビには出会ったがこうやって無事に帰ってきただろ」


「お、お友達になったとか……」


「ある訳ねえだろ」


 さっきからエルスはどうしたのだろうか?やけにビクビクしながら話しているような気がする。


「じゃ、じゃあ…そこの後ろの方は……」


「後ろって別に何も――」


「まったく……いるわけが無いね」


 目が合った。ハクヤ……とは違う。人間では無くその目には光が灯ってなく……まるでさっき見たゾンビの様な……。


 いや、ゾンビじゃん。


「「ぎゃああああああああッ!!!!?」」


 それが何かと気がついた途端俺とハクヤは猛烈な勢いで扉を叩く。


「いるッ!いるからッ!おい!?早く開けろよ!?」


「ゾンビがいるのに開けるわけ無いじゃ無いですかッ!?」


 正論である。


 というかハクヤもビビってる辺り、ハクヤはやはり咄嗟の事に弱いらしい。

  

 しかしそうしている間にゾンビはぞろぞろと集まって来る。


「と、扉ブレイクッ!」


「なんてことしてくれてるんですかああああああああああ!!!!?」


 突然の事に焦ったハクヤは扉を大剣で粉砕する。


「バカハクヤァァァァァァァァッ!!!!」


 今更罵っても遅い。扉は粉々になり風通しがとても良くなっている。


「い、今大きい音が……お二人がお帰りになられ――ブクブクブクブク………」


 様子を見に来たクラリスが目の前の大惨事を見て泡を吹いて倒れる。


「あああああああ!!!?収まりがつかねえええええええッ!!!?」


 倒れたクラリスをイブが回収してさがる。

 続くように俺達はゾンビを払いのけ安全な位置まで距離を取る。


「……そもそも何でゾンビがこんなとこに…この周辺はクラリスさんが魔物避けの結界を張っているって!」


「……それさっきハクヤがまとめてぶち壊したな」


 エルスの顔が青ざめていくのが分かる。


「で、でもエルスは神聖魔法使えるんだろ?この状況ぐらい神聖魔法でどうにか出来るんじゃないか!」


「そ、そうですよね!私、神聖魔法使えるんでした!」


 聖職者が忘れんなよ!と言いたいところだが現在ハクヤがビビリ散らかして家の中へ逃げた以上期待出来るのはエルスしかいない。


 するとエルスは右手掲げ……


「降臨せよ。聖なる矢!貫いてくださいジェミニ!」


 その掛け声と共にエルスから放たれた2本の光の矢はゾンビを片っ端から消していく。


 ……危ねえ、さんざんビビらせやがって。



 さあ、反撃の開始だ。

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