第18話 マッチポンプみたいなもんだろ

「ああああああ!!!!俺達一生あの町行けねえじゃねえかああああ!!!」


「もう…いつまで言ってるんですか?もうすぐ『怪人の森』の入口に着きますよ!そんなこと忘れましょうよ!」


 エルスは励ましてくれているのだろうが今の俺にはちっとも響かない。ほんと……最近は不幸の連続だ。


「大丈夫なの!イブがいるの!」


「ありがとな……。ほんとイブだけが癒やしだよ」


「僕もいるよ」


「そうだよな……。お前だけがストレスの原因だよ」  


 そうしてハクヤが拗ねる中、俺達は念願の『怪人の森』へとたどり着いたのだった。




「おうっ!そこの王冠のあんちゃんらもしかしてこの森通ろうってのかい?」


 おっと、着いていきなり強面のおじさんに話し掛けられてしまった。パッと見る感じ普通の衛兵っぽいが……。


「……まあ、そうですけど」


「やっぱりか!はっ!やめとけ!やめとけ!この森に出るモンスターはエルンブルグの駆け出し冒険者にゃ倒せねえよ!」


 えっと、これは一応心配してくれてるって解釈でいいのか?だとしてもここを通らない訳にもいかないが。 


「俺達急ぎの用があって……」


「あ!?なるほど急ぎか……。ならあんちゃんら、力のステータス数値どのぐらいある?この森のモンスターは最低でも200は無いと攻撃が通らねえぞ」


 強面のおじさんの割に面倒見はいいらしく具体的な数値を出してくれる。

 しかし200か……。


 ちらっとギルドカード見てみても俺の力の数値は106。これでは話にならない。


「お前らはどんなもんだ?」


「257423なの」「2578です」「5466だね」


 だからおかしいだろうが。剣士のイブは仕方無いとして、何で僧侶のエルスより俺の方が低いんだよ。

 というか全員ケタ間違ってるだろ。


「……でもまあ、今は一旦おいといて―――

別にこれならこの森通ってもいいよな?」

 

「あ、ああ…急いでる中、引き止めて悪かったな。そんなに強い冒険者だとは知らなかった。その数値だと勇者級だからな。Sランク冒険者だろ?あんたら」


 やっべ。冒険者ランクによっては通れなかったりしたらまずいな。

 けど強面のおじさんが目を輝かせている以上言わない訳にもいかないよなあ……。


「も、もちろん(火力は)Sランクだな」


 あっさりと嘘をつく。


「おおお!やっぱりか!へへっおりゃあ昔は何でもお見通しの『覗き魔へビル』って呼ばれてたんだぜ?」


 覗きの達人ってだけじゃねえか。


「俺の目もまだまだ捨てたもんじゃねえな」


 多分その目節穴ですよ。


「と、とにかく急ぎますので!行くぞ!」


 これ以上話していると余計なボロが出てしまうかもしれない。俺はそのまま通り過ぎようとするが――。


「おう!Sランク冒険者に言うのも失礼かもしれねえが気を付けてな!あ…あと改めて引き止めて悪かったな。最近妙な事でエリーズから新米冒険者が沢山流れて来ちまったから

注意しててよ」 

 

 突然、強面のおじさんが何か言って――


 妙な事?ちょっと気になるじゃねえか。


 通り過ぎようとした俺は即座に引き返し再びおじさんの前までやってくる。


「あの……新米冒険者が沢山流れてきた事について教えて貰っても……」


「あ?別におりゃあいいが急いでるんじゃねえのかよ?」


「あ、いや…急がないと死ぬ訳じゃないんで別に」


 慌てて嘘を重ねる俺。だがそれを見過ごせなかったのかエルスが小声で聞いてくる。


「ちょっと!どうしたんですか?森は目の前なんですよ!」


「別にいいだろ!そもそも新米冒険者がエリーズにいなかったからこんな事になってる訳だしな!」


「そ、それは……まあ、確かに……」


 どうやらぐうの音も出ないらしい。


 華麗にエルスを論破した俺は早速おじさんに話を聞くことにする。


「えっと、それで妙な事って?」


「ああ…、それなら…あんちゃんらエリーズの周辺にはどんなモンスターが湧くか知ってるか?」


 モンスター?確か105匹オオカミ君と遭遇したのはこの町の周辺だから……。


「いや、俺は見てないですね」


「そうか……。実はエリーズの周辺ってのは少し前まではゴブリンやスライムみてえな弱っちいモンスターしか湧かなかった。だから昔はエリーズが冒険者の町って言われていたぐらい新米冒険者がにぎわってたんだ」


 おじさんは懐かしむように語る。もしかしたらおじさんも昔はエリーズで冒険者をやっていたのかもしれない。


「けど最近……」


「けど最近?」


「エリーズ周辺で頻繁におかしな事が起こるようになってな?例えば昼間なのにアンデットが彷徨ってるとか……」

 

 あ……。


「急に草原が焼け野原になったり……」


 おい……。


「モンスターを倒している時にとんでもない笑顔で観戦してくる背が高くシュッとしているのに巨乳で美人な僧侶とか……」


 盛りすぎだろ。


「……怖いですね」

 

「……何故僕達の事を見るんだい?」


 全く自分の事だと自覚していないハクヤには呆れを通り越してむしろ恐怖する。


「イブは関係ないの」


 残念ながら当事者なの。


「背が高くシュッとしているのに巨乳で美人な僧侶以外は嘘ですね。騙されてはいけませんよ?」


 おいこれマッチポンプみたいなもんだろ。


「……なんだかよく分からねえが続きを話してもいいか?」


 おじさんを放置していた事に気付く。なんだか本当にすみません……。


「お、お願いします……」


「ああ、それからなんだがな。アンデット討伐や焼け野原の消化などでギルドから大量の

金が消えたらしい。そして何故か同時にモンスターの数まで減少ときた。それによってモンスターが民衆でも倒せるようになっちまったらしい。となると?」


「冒険者が他の町に移っていく……」


「そうだ」


 ようやく合点がいった。あの時新米の冒険者すらいなかったのは冒険者自体が少ないからじゃなく既にエリーズからエルンブルグへ移動しちまってたってことか……。

 それにエルンブルグの冒険者ギルドで低難易度クエストが休止になった際怒った奴がたくさんいたのも新米冒険者が多かったからってこともあるのだろうか?




 話を済ませた俺達は少し休憩した後、いざ『怪人の森』へと足を踏み入れる。


 その時の森はまるで俺達を拒むかのようにように大きく吹き荒れていた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る