第17話 結局こうなる
「さて、少し聞きたいことができた。座ってくれ」
「どうしたんですか?こんな朝早くから?」
昨日、夜通しでメモをまとめ疲れ切っている俺だがその勢いのまま三人の部屋の扉を鬼のように叩いて起こし、まずは三人を座らせることにする。
不機嫌そうな気配もなく、言われた通りに座ってくれる様子を見るに、どうやら三人とも朝は強いと思われる。
「いいか?俺達は今日、この町を出る」
「と、言う事は『怪人の森』を通るって事で良いのかい?」
「ああ、そうだ。ハクヤの言うとおり『怪人の森』を通ろうと思う」
昨日の夜、遠回りして行くことも考えてはみたがそれでは最低でも3か月は遅れてしまうことが分かった。
それだけ遅れるなら『怪人の森』を突っ切ってドワンウルゴへ行ったほうが危険はあれどトラブルは少ないだろう。
『怪人の森』より仲間が起こすトラブルの方が危険な事は言うまでもない。
「……それでだ。そのために必要なもの……分かるよな?」
「もちろんさ!僕の力だね」
もちろんさ!……じゃねえよ。二度と使うなその言葉。
「みんなの事いっぱい知ることなの」
「偉い!流石イブ!可愛いだけある!」
予想していなかったイブの回答に俺はひたすらに褒めちぎる。
そのまま膝にのせて頭を撫でると気持ち良さそうに揺れるので精神回復にも持ってこいである。
「……あの…最近イブちゃんにだけ物凄い甘くないですか?」
「気のせいだろ」
イブだけが唯一の癒やしだからに決まっている。
「……まあ、いいですけど。知るってつまり情報が欲しいってことですか?」
「そうだな…。欲を言えばスキルの詳細を話して欲しい。お前に関しては素性も」
「あっ、素性……」
急にエルスの余裕な笑みが消えた。
目線はいったりきたりで動揺しているのがよく分かる。
「……黙秘権を行使します」
だからなんでだよ。
「なんでそんな顔するんですか!?べ、別にいいじゃないですか!?隠し事なんて誰にだってあります!」
「お前は多すぎるんだろうがッ!素性の一つや二つ話せよッ!」
「素性は二つもありません!」
「……ッ!このッ……!クソッ!後回しだ!ハクヤ!お前の大剣の説明から頼む!」
するとハクヤは待ってましたと言わんばかりに背中の大剣を机に置く。
「いいさ、話せば長くなるが――」
「10文字でまとめろ」
「……女神様に貰った」
ここでも勇者設定かあ……。
「あ、ああ…よ、良かったな……。で、女神様に貰ったのならさぞ強いんだろうな?」
「そんなの当たり前さ。この魔剣『デュソルエレイザー』には絶対切断と学習強化のスキルがついているからね」
宝の持ち腐れってどころじゃねえな。
予想以上の性能に少し心躍るが、結局は使い手によるわけだ。今のハクヤが持っていたところでただの大剣である。
「なあ……今からでも剣士にならないか?」
「それは無理だね。剣士だと王道が過ぎるし
魔法使いの方がかっこいいじゃないか?」
「王道だとか何だかよく分からねえけどならせめて武器は杖にしようぜ?そうすれば杖の能力で魔法の威力も上がるだろ?」
「それだと普通過ぎるのさ。逆張りは大事だからね。それに格好いいじゃないか?世界を救った勇者は最強の魔法使いであったが彼の使っていた武器は大剣……まさか力を抑えていたのか……?みたいな」
何それもう何言っても駄目じゃん。あんなに自信満々に紹介されてた『デュソルエレイザー』がただの大剣の形をした杖もどきじゃん。
「そしていずれ僕に憧れた有望な冒険者達が大剣魔法使いを目指し始め……」
「てたまるかそんな世界」
結局、見事にハクヤには敗北。その後聞いた複合魔法はハクヤの固有能力だという事しか分からなかった。
まあ、代わりにフラッシュという光属性の初級魔法を教えてもらったのだが。
「で、ちなみにイブ?イブの杖は軽いやつを選んだってことでいいんだよな?」
確かイブは剣は重くて持てないから杖にしたと言っていた。いくら高そうな杖とは言っても剣の代わりなのにそんな強いスキルが付いているなんて事は流石に無いだろう。
「いっぱいある中から一番軽いのを選んで持ってきたの」
「そうかそうか!だよな!」
「魔法範囲増加と攻撃魔法威力50倍って書いてあるやつだったの」
「いや〜、良かっ――」
ん?ちょっと待て、俺は聞き逃さなかったぞ。今とんでもない事言っていたような……
「……いや、あのさ?別に違かったらいいんだが……イブ、その杖ったもしかして名前があったりするのか?」
「ん……。オルタンシア・ネオって書いてあったの」
はたして名前がどんな事を意味しているのかは分からないが名前があるという事はさぞ有名な杖なのだろう。しかし何故イブが…。
「……さっき選んだって言ってたけど何処から選んだかは覚えてたりするか?」
「パパからのお誕生日プレゼントなの」
いや、パパァァァァァァァァァッ!!!?
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「結局、ノープランみたいなもんか……」
さて……情報を集めるはずだったのに更に謎が深まってしまった……。ちなみに今俺達はスキルについての質問と巧妙な返しを繰り返しながらギルドへやってきたところだ。
「も、もう!別にいいじゃないですか!ゆっくりと知っていけば!」
「死んだあとに知っても意味ないんだが…」
何か起きてからでは手遅れである。
「大丈夫。僕がいる限りけが人は出ないさ」
鳥頭だけあってもうこの町へ着いたときのことを覚えていないらしい。
「……はあ、もういいよ。取り敢えず向こう着くまでに終わりそうなクエスト受けて早くこの町を出ようぜ?」
ため息混じりに早く一人旅を再開したいという気持ちが溢れてくる。なのに俺の仲間たちときたら楽しそうにクエストを選んでいるわけだ。やりれねえな……。
そんな中、選び終わったのかクエストを見せに子供のように走って来る仲間達。
「あ!こんなクエストどうですか!?平原に現れた虫の顔をしたひまわりの調査!」
それ俺らのせいじゃん。ごめんなさい。
「いや、やはり討伐クエストだね。この即死魔法の達人アンデットウィッチ討伐にしようじゃないか!」
だから何故茨の道へ行こうとする!?肩書が物騒なので却下で。
「これがいいの。『ゴキブリ大量発生!低難易度クエスト一旦休止!犯人は最近町へ来た四人組のパーティーの仕業か!?』」
いや、なんで特定されてんだよ。てかクエストですらないじゃねえか。
俺がその紙の撤回を求めに受付へ向かおうとしたその時だった。
「おい…あれって……」
「そうよね……」
「ゴキブリを解き放ったって言う……」
「迷惑だな……だがそれにしてもあの男の子可愛いな……俺の好みだ」
「実はあの変な花にも関わってるらしいよ」
近くのカウンターなどからヒソヒソと他の冒険者の声が聞こえてくる。そしてそれはたちまち広がっていって……
「あの女の子二人脅されてるって噂よ…」
「魔王軍の偵察部隊って噂も……」
大勢の注目が俺達へ向く。
しかし、何だか妙な方向に話が進んでいるような気がしてならない。というかさっき俺狙われてなかった?
余計なことは考えずさっさと採集クエストを受けて立ち去ろうとしたその時だった。
金髪のチャラそうな男が立ち上がりギルド内へ響き渡るような大声で言った。
「俺、見たんだ!あいつらが奇妙な花を生み出すのを!きっと魔王軍の偵察部隊だ!」
おい、急に何を言い出すんだお前は。
しかしこんなときにヒューマンとは流されやすい生き物である。
「なに!なら俺達はあいつらのせいでクエストが受けられなくなったってことか?」
「何だかそんな気がしてたわ!」
「お、俺もそんな気がしてきた!」
集団心理とは怖いもので、あっという間に話を聞いていた冒険者に囲まれてしまう。
もし本当はこれが誤解だったのなら良かったかもしれない。しかしだ、今回は誤解でもなく単純に俺達が悪者である。
ならばどうするか?決まっている。
「……どうか見逃し…フラッシュ!」
俺の手からでた閃光が冒険者達の目を直撃する。
「しゃあああ!!!逃げろおおおお!!」
俺は近くにあった椅子を蹴り倒しイブを抱えて走り出す。
このパーティーを組んでから一体何度目だろうか?全力ダッシュのお時間だ。
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