第16話 破壊不能オブジェクト?

 賭けと言っても特別難しい事ではない。ただイブのスキルにデメリットが無いことを祈るだけである。


「急いでハクヤを助けてくれ!」


「お任せなの!」


 即座に反応したイブは杖を片手にゴキブリへ目にも止まらぬ速さで距離を詰める。

 そこでやっとゴキブリもイブに気付いたのか鋭く尖った足で迎え撃とうとするも、残念ながらその時既にイブはゴキブリの頭上。

 迫りくる足を華麗に流すともうゴキブリの頭を守るものは無い。


「ゲノムディストーション」


 イブが禍々しいオーラを放った杖を振り下ろすとゴキブリは一切の奇声を上げる暇もなく、引き裂かれる。

 いや、引き裂かれると言うより杖に触れた部分から光の粒子として消えていっているが正しいのかもしれない。


「……凄え」


 あまりの威力に無意識に声が出る。


「ふん!余裕なの!」


「凄え!凄えよイブ!今のスキルだろ?どうなってんだ?」


「杖に触れたら消えちゃうの!」


 ざっくりだがこれでも伝わってしまうのが悔しい。とは言え、一つ気掛かりな事もあるわけで……。


「ちなみに……何か追加効果とかって…?」


「?」


「いや、無いなら良いんだ!!それなら安心

出来るし……。別に良いからな?変に気を使わなくても!!」


「ん……。お花が咲くの」


 あら可愛らしい。


「そ、そっか!それなら……」


 安堵はした。しかし妙だ。花が咲くだけだと言われたはずなのに何故か鼓動の早まりが収まらない。


「き、君もやるじゃないか?ひとまずお礼は言っておくとするよ。まあ……けど本当は僕がこれから妖精と契約し、真の力に目覚めてこの星を救うシナリオだったんだけどね?」


 いや、飛躍しすぎだろ。

 

「なんだか良く分からねえが助けてもらったんだから普通に言えよ」


 その時だった。何故?みたいな顔をしているハクヤの後ろへ空から光が差し込む。そしてそれを何と勘違いしたのかハクヤが手を掲げ高らかに叫んだ。


「やれやれ…やっと僕の力が目覚めたみたいだね……」


 まあ、そんな戯言は無視して直ちにイブに確認を取る。


「イブ?花が咲くってモンスターとかじゃないよな?」


「違うの」


「食虫植物だったりとか?」


「動かないの」


 安心……なのか?


 そんな間にも光は強まり……


 突如芽が顔を出した。


「……?」


 そして、光を浴びぐんぐんと育っていく。

 蕾ができ、花が咲いて、花がどんどん虫の顔になっていき……


「おい、ちょっと待て」


 慌てて静止したが無駄だった。俺たちの目の前には顔が先程倒したゴキブリ。茎、その他もろもろはひまわりの化け物が出来上がる。


「き、きいいいいっっもおおおお!!!?」


「お花が咲いたの!」


「目が腐りそうです……」


「ちょっと……僕には無理だね」


 イブだけは嬉しそうに跳ねるが到底俺には理解できない。


「ハクヤ!!!燃やせっ!!!」


「カオスフレイム・ホーリーライト!」


 よっぽど不快だったのかスキルも使わず速攻で魔法を放つハクヤ。またたく間に気持ちの悪い虫面ひまわりが炎に包まれるが……


「……燃えねえな」


「馬鹿な……!僕の複合魔法が……」


 ハクヤが悔しそうに大剣をプルプルとさせる。そしてそれを煽るかのようにイブが言った。


「あの花は燃えないし、切れないの」


「「「え?」」」


「どういう事だ?あれはずっとあのままになるって事なのか?」


「そうなの」


「雨の日も風の日も?」


「ん!」


「動かずに?」


「ん!」


 ……なんて迷惑な。ここに来た冒険者が可哀想だろ。いきなりあんなの現れて……。


「ほほう…。つまり相手の魂を花に植え付けて破壊不能オブジェクトを生み出すという訳か……。やるじゃないか」


 何それ怖いッ!!!


 ふむ……しかしつまりは花が咲いた時点でどうしようも無いわけか。


 ん?どうしようも無い……?


「なあ……」


「はい?」「何だい?」「の?」


「町に戻ろうぜ」


 

 虫面ひまわりについては忘れる事にした。


✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦

 

 今回は運が悪かった。そう思って割り切るしかない。だが一応、クエスト分の薬草は採集したのでギルドへ持っていくことにした。


「はい!エルミダ草ですね?しばらくお待ちください!」


 報酬の確認の為か、受付のお姉さんが奥へと入っていく。


 そしてその待ち時間にすることと言えば…


「……今回何が悪かったと思う?」


 そう、反省である。


「ふっ……僕以外のすべて……かな?」


「いっぱい悪いの」


「あ、あそこで新人っぽい男の子が虐められてますね。少し、覗きに……」


 おや残念。うちのパーティーは反省すら出来ないらしい。

 諦めた俺はすぐに別の話題を切り出す。


「はあ……、もういいか。それより次に行く町決めとこうぜ。明日にはこの町出たいし」


 俺の気ままな旅を取り戻すためにも早く王冠の呪いを解く必要がある。そのためには早く次の町へ行かなければならない。


「実際、俺は次この町に行こうと思ってる」


  俺は地図を広げて指で示す。


「ドワンウルゴですか?確かに隣の国へ行くなら近いですけど……」


 エルスが心配するかのように呟く。


「近いけどどうしたんだ?」


「えっと……この町からドワンウルゴに行くには『怪人の森』を抜ける必要があってですね……」


「怪人の森?」 

 

「はい、木の背丈が高く怪人のように見える事が由来らしいです。それにあそこ一帯はモンスターも強いと聞きますし……」


 それは少し、危険かもな……。計画を再度練る必要があるかもしれない。


「ははっ!何を言ってるんだい?僕がいるのに危険な事なんてある訳ないじゃないか?いくらモンスターが強くてもイチコロだよ」


 なあ……実はお前、ニワトリとヒューマンのハーフだろ?何故さっきの事を踏まえてそんな言葉が出て来るのか……。




 結局、ボケとツッコミだけでなんの進展も無かった俺達は報酬を受け取って宿に帰ることになった。



「どうやったらハクヤ達を……」


 ようやく一人になることが出来た俺は自室のベットの上で呟く。今までの戦闘ほ傾向を見ても、どうすれば良いのかが分からない。

 あの三人は普通とはかけ離れている。百歩譲ってエルスはまだマシなのかもしれない。

 問題はイブとハクヤだ。スキルを打てばデメリットを引き起こし、ハクヤに至っては会話するだけで精神が削れる。


 一体、どうしたものか……。


 そんな俺の目に入ったのは一冊のメモ帳。


「そうだ……」


 思いついたのは初歩的な一歩。


 その夜、イブをお風呂に入れたあと俺は三人について分かっていることをまとめ上げるのだった。



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


○シドウハクヤ  16歳  年上好き


スキル↓


・フォーエバーフレイム→自然には消えない炎の玉を放つ。消化は可能。


・エンドレスレイン→雨を降らせボスモンスターを呼ぶ。二度と使わせねえ。


・デッドチャンス→二分の一の確率で即死か能力大幅上昇。連射はどうなのか?


・オールマジシャン


・多分、焦ったり早く倒したい時には普通の魔法を使う。鳥の時とか虫面ひまわりの時とかそうだったし……。


・自称勇者


・複合魔法がどうとか……


・あの黒い大剣は……


○イブ  10歳  ロリ  可愛い


スキル↓


・ムーンスラッシュ→月が出てると火力アップ(らしい)。昼間にモンスターを倒すとそのモンスターはアンデット化。夜に使わせる。


・ゲノムディストーション→触れると消滅。

消滅すると魂が花に埋め込まれて開花。破壊不能オブジェクトだとかなんとか……。


・何か隠してる。あれは夢?


・お風呂で暴れる。顔に水がかかると唸る。


・家出中。早くどうにかしないと俺達誘拐犯になるよな……?



○エルス  


・そう言えばこいつは自己紹介してねえ。

 上手くはぐらかされた気もする……。


スキル↓


・エリアヒール→敵味方関係なく回復。てか普通にヒールでいいだろ。何故使わないのかは謎。


・ハイリスクアップ→スピードアップ。切れたら動けなくなる(らしい)


・パワーマネジメント→筋力増加。デメリットはあるのか……?体感、頭が悪くなったような……。


・やけに品がある。宿での歩き方とか…。


・人が苦しんでる顔を見るのが大好き。



○全員腕だけはSランク冒険者並み。

○恐らく脳みそはFランク。イブは許す。

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