第15話 ハクヤ、壊れる

 ミレイアがギルドを出た後、しばらくして俺はギルドの裏にある訓練場で魔法を教わる事になった。


「なあ、ステータスに魔力の数値が205って書いてあるんだが……これってどんなもんなんだ?」


 せっかくツインマジシャンだと言う事が判明したのだから魔法は使ってみたい。しかし魔法は魔力が低ければいくら適正があっても使えないと聞いた事がある。


 俺の205という数値は一体どのぐらいなのだろうか?


「そうですね……一般的な冒険者の魔力が大体100から150に収まると言われているので割と高い方ではあると思いますよ?」


 エルスがどこか気まずそうに言う。


「へえ……なら俺は意外と優秀なのか…」


「流石なの!」


 イブも褒めてくれているようだし悪い気はしねえな。その分自衛も楽になりそうだし。


「ちなみにお前らの魔力は一体どんなもんなんだ?」


「1051ですね」「984なの」「12796だね」


 

 俺、冒険者辞めようかな。


「ち、違うんですよ!205でもかなり高い方なんですよ!それよりちょっとだけ私達が高いだけで……」


「そうなの!おにーちゃんは凄いの!」


 慌ててフォローしてくるエルスとイブだがそれですら俺の心には突き刺さる。圧倒的な格上に凄い!って言われてもより惨めになるだけなのだ。


「い、いや……イブとエルスの約1000ある魔力はかろうじて理解出来るんだが……」


 俺の視線の先には一桁間違ったと思われる自称勇者。

 

 おい、そのウインクやめろ。


「勇者である僕に相応しい魔力だね。ワタルもこれから頑張れば僕の100分の1ぐらいまでは伸びるんじゃないかな?」


「減ってんじゃねえか。それよりそんな魔力あるならスキル使わなくたって魔法だけで戦えるだろうが」

 

 いくらスキルが強力でもデメリットがあるなら魔法を使ってもらった方がこちらとしては安全だ。


 例えばハクヤの『エンドレスレイン』は雨を降らす魔法『レイン』にボスモンスターを呼ぶ効果と使用者が止めるまで永続的に雨雲を発生させるという効果が付いただけのものである。


「ふっ…分かってないね……モンスターを倒すならやはり必殺技だろう?」


 やれやれといった素振りを見せ、ピンポイントで俺を刺激してくる。


「じゃあ、その必殺技に巻き込まれる俺達はどうするんだ?」


 この質問にはイブとエルスも賛同したらしく、3人でハクヤを取り囲む。

 初めは何かと考えていたハクヤだったがごまかすことは出来ないと悟ったのか真剣な顔で口を開いた。


「ふむ……名誉の負――!?」


「迷惑はかけちゃ駄目なの!めっ!」


 知ってた。ハクヤが言い終わる前にイブの杖が牙を向く。


 けれど正直、何故かイブが迷惑をかけるなと注意しているがイブのスキルも同じくらい厄介だよなあ……。


「ま、それは今度考えるとして……。そろそろ魔法を教えてくれないか?」


 頭を壁にめり込ませてプランプランしているハクヤに語りかけてみる。

『あたまかくしてしりかくさず』ってこんなときに使うのかもしれないな。初代勇者は変な言葉を残したもんだ。


「そうだね……では今日は、初級魔法を教えることとするよ」


 壁から頭を引っこ抜いたハクヤが大剣を持ち、俺に向き直る。


 さあ、魔法のお時間だ!


✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


 俺達は現在、腕試しで受けた採集クエストの途中、ゴキブリ型モンスターに絡まれ交戦中である。


「あっ!?こいつ殺虫剤効かねえ!?誰だよこの辺りは虫モンスターが出るからこれ買っていこうって言った奴は!?」


「……おにーちゃんなの」


 俺かよ。


「ハクヤッ!後は頼むっ!」

 

 俺の期待に応えようと思ったのかハクヤがニヤリと薄く笑みを浮かべながら俺の前に立ち宣言する。


「……ふっ、虫なんて弱小生物が勇者である僕に勝てるとでも?ははっ!ありえないね!せいぜい燃え尽きて土の栄養にでもなるんだね。フォーエバーフレイム!」


 ハクヤがスキルを使用した瞬間、激しい音と共に体長およそ三メートル程あるだろうマザーゴキブリが断末魔を上げ、燃え上がる。


「済まないね。僕の力を見せつけてしまったようで」


「おいっバカッ!目を離すやつがあるかよ!ゴキブリの生命力舐めんなっ!」


 と言ったのも束の間、マザーゴキブリは最後の足掻きとでも言うかのように自分の腹を腹が裂き、大量のゴキを野へ放つ。

 もちろんその直前近くにいた自称勇者は被害にあったとして……


「イブ、エルス!木に登れっ!」


 俺は直ぐに支持を出し高い木から安全に見守る。うわあ……グロい。



 木の上で身震いする俺だが大量のゴキは次第にばらけていき、辺りからは見えなくなったところで一度自称勇者の状態を確認しに降りてみる。


「……おーい、ハクヤ?生きてるか?」


「あPPPP……PPPPPPPPPPPPZZZZ…ZZ」


 え、壊れてんじゃん。どうすんだよこれ。


「お、おい。しっかりしろよ。弱小生物なんだろ?」


「KKKKけKKKKみKKKBBB……」


「うわ…おいっ!?ハクヤが本格的に壊れたあああああああ!!!エルスッ!回復してくれっ!」


 マザーゴキブリも死んだしそろそろ回復スキル使っても大丈夫だろう。


「……もうこのまま置いていきませんか?」


「そうなの。要らない子なの」


 ハクヤの扱いに涙が出てくる。


「そんな訳にもいかねえだろ?それにこれあるし」


 頭の上の王冠を指差す。すると、エルスは怪訝な顔をしながらも手をハクヤにかざしスキルを発動させた。


『エリアヒール』

 

 次第にハクヤの顔色は良くなり直ぐに目を開く。


「ここは…………ッ!?……ふむ、状況は察したよ。落ち着いて聞いてほしい事がある」


「……なんだよ、起きていきなり?」


「いや…君達の後ろにいる燃え上がった虫に生前、少し見覚えが……」


「「「は?」」」


 恐る恐る振り返る。いや、そんなはずは…いくらなんでもそんな生命力は―――



「あ、逃げろ」




 触覚が見えた途端、我先にと逃げ始めた残念な俺達は責任の押し付け合いへと発展する。


「お前のスキルは何でいつもモンスターも一緒に回復するんだッ!?」


「知りませんよ!神様が決めたんじゃないんですかっ!?というか、そもそも回復しろって言ったのワタルさんじゃないですか!」


「だってあんな生命力あるなんて知らねえじゃん!?」


 燃えてんのにワシャワシャッ!って……


「喧嘩なんて愚か者のすることさ」


「その原因がなんか言ってるの」


「またまた、冗談はよしたまえ」


 その余裕の笑みが何か癪に触ったのかイブが足を伸ばしハクヤが転倒、そのまま捕食されたのだが俺達は足を止めない。


「クソッ、どうするっ!?」


「魔法があるの!」


「よし来た!ここで試してやる」


 俺は急停止をし、ハクヤを捕食するマザーゴキブリへ狙いを定める。


 落ち着け……せっかくハクヤに教えてもらったんだ。ここで決めて見せる!


「サンダー!」


 『サンダー』は雷属性の初級魔法。軌道がズレやすいため素早い敵に当てるのは極めて難しい。だが、


 ハクヤが捕食されている今ならいける!


「いっけええええええええ!!!」


 俺の決死の掛け声と共にサンダーは一直線にマザーゴキブリの脳天目掛けて突き抜け、見事直撃する。


「よし!」


 思わず気分が昂ぶりガッツポーズがでる。


 ……そして後はハクヤを助ける予定ではあったのだが。


「……なあ、あれって効いてると思うか?」


「あんな大きなゴキブリに初級魔法が効くと思ってます?」

 

 やっぱそうですよね。初級魔法如きでイキってごめんなさい。


 残念な事に件のゴキブリはまだニッコニコでハクヤを齧っている。幸い、ハクヤがギャーギャーと抵抗しているおかげでこちらにヘイトが向く気配はない。


 ……だが俺の魔法も万策尽きた。ハクヤは敵の手へ渡っている。エルスはそもそも戦闘向きではない。

 ふむ、このような状況になれば手段は限られてくるというものだ。


 残りの選択肢といえば……


「……なあ、イブ?お前ムーンスラッシュ以外で倒せるか?」


 俺が打ち出したのは1つの賭けだった。

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