第3話 集まった冒険者達
現在、俺は突然現れた青髪幼女から目を離せないでいた。紳士の諸君は怒らないで欲しい。このタイミングで現れたんだぞ?違うとは分かっていてもビビる。
……とはいえ、どうして冒険者ギルドなんかに幼女が?
そんな疑問と一筋の不安感を胸に俺はその幼女に近付いた。
「お嬢ちゃんはどうしてここに?」
「護衛の依頼なの」
……なるほどね。
「やっちまったああああああッ!!!!」
いや、薄々分かってはいたけどっ!!けど普通幼女が護衛に来るなんて思わないじゃねえか!屈強な男でも、知的な魔法使いでもなく幼女だぞッ!?幼女!!!
「取り消しだ!取り消し!他の冒険者を用意してくれ!」
「もっと小さい子をご所望なのッ!?」
彼女の脳みそは思ったより小さいようだ。
「こんのクソ猫!嵌めやがったな!お前の耳なんてこうしてやる!」
「ちょっ!触るんじゃ無いわよ!貧弱ヒューマン如きが!」
クソッ!幼女引き連れてどうしろってんだよ!ピクニックじゃねえんだよ!まさかこれから来る奴ら全員変な奴じゃねえだろうな?
そんな俺達がギャーギャーと揉めている中、発端の幼女がゆっくりと近づいて来た。
「ん?何だよ。俺は今戦える護衛を――」
「いっぱい戦えるの!だから……捨てないで欲しいの!」
目の前の幼女が全身全霊の上目遣いを駆使して俺の心に語りかけてくる。
ぐぁ…ッ!?何か悪い事をした訳でも無いのにこの罪悪感。親に逃げられた身としてはこんな目されたら断れねえじゃねえかッ!
そしてその場で数秒地団駄を踏んだあと、
「ああああああっ畜生!お前、名前は?」
幼女の圧倒的特権に屈服した俺は渋々と名前を聞く事にした。
「イブなの」
「イブか……OK分かった。仕方ないし今回はよろしく頼むなイブ?」
するとイブは手を差し出す俺を見て何か不思議なものを見るかのような顔をする。
「おにーさんは断らないの?」
「本当はそうしたいところなんだがな。今回は完全にこのクソ猫のせいだしな。見たところお前は何か冒険者やらなきゃいけない理由があるんだろ?だったら別に次の町までだし断らねえよ」
するとその瞬間たちまちイブの顔が年相応な可愛らしい満面の笑みに変わる。
そして、少し恥ずかしそうに手を握ってきた。
「うん…。ありがとうなの!」
まったく……子供の笑顔はこれだからズルい。俺は落ち着きを取り戻し冷静に残りを確認する。
「よし、あとはどんな奴がくるんだ?ふざけた奴だったらぶちのめすからな?」
「私が呼んだのは普通の冒険者よ。貧弱な暴力的ヒューマンは静かにしてなさい」
どんなパワーワードだよ。貧弱な暴力的ヒューマンってなんか弱そうだな……。
「ならいい。イブ、座って待ってようぜ」
「ん!そうするの」
「最近のヒューマンは足腰も弱いのね。でも残念、もう来たわよ」
さり気なく毒を吐かれた気もするが、言われた通りギルドの出入り口へ目を向ける。
するとそこでは何かの演出のような不自然すぎる砂煙が上がり、更にどこからかファンファーレの様な音まで聞こえてくる。
「おいちょっと待て、何か……」
「僕の助けが必要なのは君かい?なら僕の力を貸してあげよう」
男の声?一体何処から……
「よく見なさい。砂煙に影があるでしょ」
「影?」
クソ猫の言うとおり、目を凝らして砂煙を見てみる。あれは……
「ははっ!バレてしまったようだね。そうだよ僕はここにいる」
そう言って砂煙から姿を現したのは黒い大剣を持った俺と同じくらいの歳の男。
ただ、黒髪黒目でこの国にいるヒューマンとしては珍しい……のは分かるがお願いだから普通に出て来てくれよ。面倒くせえな。
「君が依頼主かな?僕は
シドウハクヤ?貴族では無さそうだが……随分と長い名前だな。しかし持っている大剣を見る限りなかなかに腕は良さそうだ。
人柄は……まあ、安全の為ならば多少の性格は我慢して良いだろう。
「ああ、俺が依頼主のワタルだ。次の町までの護衛を頼みたい。報酬は20000ギルだ。受けてくれるか?」
「良いとも!僕が受けるからには依頼主には指一本振れさせないよ」
こりゃ頼もしい。クソ猫もやるときはやるもんだな。シドウハクヤが現れた辺りから目を逸らしているのは気になるが俺は腕が良ければ性格はあまり気にしないからな。
……まあ、一つ気になるとすれば今あいつの立っている場所に今にも天井が崩れてきそうな点ぐらいだな。
「僕に依頼するとは君は見る目があるね」
あ…おい、そんなふうに壁に手を掛けたら振動が伝わって……。
「安心してぼォッ!?」
そりゃ崩れてくるよな。もう遅いが。
「……大丈夫か?」
俺は恐る恐る手を伸ばす。
「あ…安心したまえ。全治2ヶ月だ」
これ駄目なやつです。
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
ハクヤが現れてから数分が経過。俺は次来る護衛の冒険者に胸を悪い方へドキドキさせながら溜息を漏らしていた。
まさかまた変な奴が来るんじゃ無いだろうな?いやだが、取り消しは出来ないらしいし……。
「けど、あと一人まてば――」
「に、荷物の整理で遅れましたあ〜」
改めて気持ちを入れ直した俺の言葉を遮り突然、そんな情けない声と共に自身の上半身に豊満な二つの果実を持った金髪のシスターがギルド内へ滑り込んできた。
「あー、特に時間は気にして無かったから別に大丈夫だぞ」
「そ、そうですか……?」
「ああ、そんなことよりお前…見た目で判断して悪いがヒーラーだよな?名前は?」
「えっと…確かに役割はヒーラーです。気軽にエルスって呼んでくれて構いません!」
僅かな安心感が胸を包み込む。クソ猫もやるときはやるみたいだな。
「いや〜良かったよエルス!これで剣士、魔法使いにヒーラーと役割が安定したパーティーが出来たな!」
「そ、そうですよね……普通は…」
普通は?なんか含みのある言い方だな。というかなんだ?何故安定したパーティーと言った瞬間皆後ろを向く。
……腑に落ちないが結局は次の町までの関係だ。俺が気にしても仕方ねえよな。
「よし!早速出発しよう」
「準備完了なの」
「僕の準備は完璧さ!」
「私も準備できてます!」
次々とやる気のある声が聞こえる。
「ってわけで世話になったなクソ猫」
「ゴブリン以下の物質にそんな覚えられ方されたくないんですけどー!でも、一応忠告はしておいてあげるわね。感謝しなさい」
とうとう俺は生命体ですら無くなったらしいな。そろそろ最後だし思いっ切り殴ってもいいだろうか?
……だがその前にまずは忠告とやらを聞いておくとしよう。
「まずその冒険者達は腕はかなり良いわ!冒険者で言ったらSランク相当よ」
……!そりゃ凄い。Sランクと言えば国に5人いるかいないかレベルじゃねえか!
俺もれっきとした男だ。強い冒険者に憧れるのは当たり前。昔は冒険譚に憧れもした。
「けど同時に同じくらい厄介な奴らよ。気を付けなさい。私に言えるのはそこまで、あとは個人情報だからね!」
厄介?個人情報なので仕方無いがもう少し情報がほしいところ。
……まぁ、別にそんな長い間一緒にいる訳でも無いしな。
「一応心配はしてくれるんだな。忠告ありがたく受け取っておくよ。じゃあな」
「ふんっ!早く行きなさい!」
言い方は強いがそこまでトゲはない。クソ猫なりに仕事はきちんと果たすのだろう。
「はいはい、行くぞお前ら!」
「あ、あと!」
「ん?」
「胸見ながら喋ってるの丸分かり……気持ち悪いわよ……」
「……うるせえ貧乳」
こうして情けない逆ギレと共に俺達は次の町へと向かって行くのだった。
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