第2話 ご注文は護衛ですか?
「う…この町は暑いな。はぁ、早く護衛を雇って次の町へ行くべきか」
俺は大量の日差しが照りつける中、声を絞り出す。それもそうだ、今俺がいるのはトライデン王国の首都、エリーズ。この町の平均気温は35℃を軽く超えている。
そのため、いくら様々な国を旅してきた俺でも流石に気が参ってしまっているのだ。
「まずは冒険者ギルドで護衛だよな……」
到着したばっかりで悪いが、こんな暑い所にいつまでもいられるはずが無い。さっさと護衛を雇ってこんな暑い所とはおさらばだ!
幸いにも今の俺には金だけはある。金さえ払えば腕の良い冒険者が釣れるだろう。
俺はそんな楽観的考えで冒険者ギルドへ足を運ぶのだった。
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「……この町のギルドは倒産したのか?」
俺は目の前の光景に絶句する。
現在俺の前に立っているのは倒壊間近にしか見えないオンボロの建物。中からは受付と思われる猫耳のお姉さんが入るなら早くしろと言わんばかりに手を振っている。
……目は合わせないでおこう。
「な、なあ…そこの君達、ここって冒険者ギルドであってるんだよな?」
ひとまず近くにいた子供達に近くで売っていたアイスを渡して情報を得る事にする。
純粋無垢な子供ならばアイスを与えれば喜んで話してくれる。
「兄ちゃん何言ってんだ?ああ、旅人さんならしょうがないよな。そうだぜ、このボロボロのゴミカスみたいな馬小屋がこの町の冒険者ギルドなんだ!」
「そうだよ!この倒壊間近で町でも一体いつ崩落するか日々賭けが行われている大きなごみ捨て場が冒険者ギルドだよ!」
こいつらは悪魔だ。
最近の子供に恐れつつも周りを見渡した俺は俺は猫耳のお姉さんの顔がプルプルと震え始めている事に気付く。
受付にしては限界が早いな。
「はあ…。仕方ねえか……」
俺は子供達に別れを告げ渋々とギルド内に足を踏み入れる。だが驚いた事に中に冒険者がいる様子はない。ただ汚れたイスや机が乱雑に置いてあるだけだ。
本来ギルドでは大量の職員が日々隅々まで清掃を行っているはずなのだが……。
とはいえ、今はそんな事を考えている場合じゃない。一目散に猫耳のお姉さんの所まで小走りで近づいていく。
「……早く来いよヒューマン如きが」
おい、聞こえてんだよ。
受付まで大して距離はないのですぐに猫耳のお姉さんの目の前にはたどり着いた。
「冒険ですか?それともご依頼ですか?」
明らかな業務スマイル。どうやら切り替えだけは得意らしい。
その辺は流石首都の受付と言える。
「あー、依頼なんですけど…」
「チッ、依頼かよ。笑顔作って損したわ」
前言撤回、誰かこの無礼な受付をつまみだしてくれ。
「おいおい……受付がそんな事言っていいのか?俺は依頼主様だぞ?ギルドにお金を払ってくれるお客様だぞ?」
俺は首を傾げ、見下す様な顔で笑うが、
「はっ!依頼しか出来ない貧弱なヒューマンに作る笑顔なんて無いわね!嫌なら他の町まで頼みに行けばいいじゃない?」
こいつ接待って言葉知らないだろ。本当に他のギルドまで行ってきてやろうか?
そん時は苦情の手紙を山のように送ってやるから覚悟しとけよ!
そんな心の中では強気な俺だが残念な事に戦闘力は無い。ゴブリン、スライム程度ならどうにか出来るかもしれないがオークにでも会えば次の瞬間、その場には肉片しか残っていないだろう。
仕方なく『町を出るまでの我慢』そう自分に言い聞かせ冷静を保つ事にする。
「はあ…分かったよ。別に笑顔は作らなくていい。その代わり冒険者を用意してくれ。次の町までの護衛だ。最大限腕が良い奴らを頼む」
同時に札束と金貨をいくつか受付カウンターへと置く。このぐらい出しておけばまず断られる事は無いだろう。
だが彼女は一瞬、驚いた表情をしたもののすぐに落ち着きを取り戻りたようでこんな事を言ってきた。
「あら、貧弱なヒューマンのくせに意外と持ってるじゃないの。でも残念ね、今この町に冒険者はいないの」
……?聞き間違いだろうか?
「は?冒険者がいない!?そんな町にあってたまるかよッ!せめて新米でもいいから冒険者ギルドに登録してるような奴はいねえのか?」
……あとさり気なく金貨をポケットに入れてんじゃねえよ。
「3人ほどいるにはいるけど……」
「なら別にそいつらでいい!俺が雇う。報酬は一人に付き20000ギルでいいだろ?」
命を守って貰うんだ。その対価として金に関しては少し多いぐらいが丁度良い。
「あなた本当にいいの?後で文句言っても私は聞かないわよ?」
返答として返ってきたのはやけに不穏な言葉。だが次の町まではそこまで遠くないはずだしな…。大体4時間ってところか。
「ああ、別にいいぜ。呼んでくれ」
天秤は早く次の町へ行くことに傾いた。
「物好きなのね。いいわ、すぐに呼んであげる!」
「おお、頼むな」
3人分で合計60000ギルを渡す。すると何故か猫耳のお姉さんは急に、何か困ったよう顔をして俯く。
「20000ギル足りないんですけど…」
「は!?お前持ってるじゃねえか合計60000ギル!」
「……はぁ、これだから貧弱なヒューマンはバカね!よく考えてみなさい!20000ギルを三人で?」
「……60000ギルだよな?」
簡単な足し算である。
「足す、手続きをしてあげた私の分で?」
「80000ギル」
「そゆこと!あと20000ギル払いなさい!」
「…そっか、あと20000ギルか!すまねえな忘れちまって!―――じゃねえんだよ。やるならもっと上手くやれよ」
新手のクソ詐欺じゃねえか!こんなんに騙される奴いるのかよ…。
「……今までは騙せてたのに」
犯罪者ッ!?
「まあ、いいわ。今回はこっちが折れてあげる!」
「今回はじゃねえんだよ。次回もねえよ」
「むぅ〜」
渋々彼女はギルトカードの呼び出し機能を使ったようでギルドカードが突然光り出す。
なんだ?やけに素直だな。…俺との会話で人を尊重する心が育まれたのだろうか?
その時だった。
ダンッ!と開く……ようなドアは無いのでそのまま入って来るのが1名。そのままこちらを目指して走ってくる。
「えっと……幼女?」
そう、入って来たのは高そうな杖を持った見た目10歳ぐらいの青髪幼女だった。
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