お嬢様の反撃

 玄関奥に位置する食堂に移動すると、三兄弟は1番奥の席に固まって座っていた。


 相変わらず、悪意を向けてくる彼らをチラリとだけ見たケイトは、4つ程間を開けて正面から見て右側席についた。


 1番奥は家長のケヴィンの席だが、彼は財界の重鎮との昼食会で不在だった。


 イライザが並べた料理にケイトが手を付けるのを、兄達は雑談しながら今か今かと待つ。


 水を1口飲んだ後、クルトンが浮いた冷製ポタージュをすくって口に運んだ。


 当然、彼女は特に悶絶もんぜつしたりなどはせず、黙々と食事を続ける。


 自分でも耐えきれない辛さの物を平気で食べるケイトに仰天する長男だが、何かあって変えられたのだろう、と結論づけて、不発に終わった事を内心悔しがる。


 眉を寄せながら、自分のスープを掬って飲み込んだ彼は、


「ングガ――ッ!」


 自身の仕掛けたリキッドの、後から来る辛味に舌を突き刺され、むせ返って悶絶した。


「どうされました!?」


 近くのメイドが心配して駆け寄るも、長男はむせただけで問題ない、という風にてのひらを彼女に向けた。


 プライドが傷ついて頭に血が上った長男は、確証はなかったが、数の力で彼女のせいにしてしまえ、と考え、


「だ、誰だッ! 私のスープに香辛料を入れたのはッ!」


 咳が止まるやいなや、顔を屈辱の赤に染めて怒鳴り声を上げた。


 視線をケイト達に向けると、アイリスは何ごとか、と彼を見ていたが、ケイトは特に反応がなく、イライザはちらっと視線を向けただけだった。


「おい、そこのデカブツメイド! 貴様、今私をあざ笑っただろうッ!」

「アイツ、わざわざケイトの物を取りに行ったが、アイツがやったんじゃないのか!」

「……」


 それにいちゃもんを付ける長男に、次男はすかさず声を上げて加勢するが、三男はうなずくぐらいしかしなかった。


滅相めつそうもございません」


 詰め寄ってくる長男に大して、イライザはいたって冷静に対応しつつ、ちらっとアイリスに目線を向けると、彼女は1度頷うなずいて部屋から出て行く。


「とぼけないでもらおうか!」

「お前ずっと怪しいんだよ!」

「滅相もございません」


 わーわー、と2人が騒ぎ立てるが、当然、その程度では1ミリたりとも彼女は動じない。


 それを黙って受け流していたケイトだが、


「だいたい、こんなのがお付きどころか、雇われてるのがおかしいのだよ。ハーベスト家の者のメイドにふさわしくない」


 長男から出た度の過ぎた発言に、フォークを置いておもむろに立ち上がった。


「な、なんだよ……」


 頭1つ低い位置から来る、毅然きぜんとした鋭い視線に、兄2人はたじろいで1歩下がる。


「彼女は私とずっと一緒にいましたし、そんな事をしている様子はありませんでした」


 ケイトがそう言うと同時に、アイリスがシェフと執事を連れて来た。


「ケイトお嬢様と話していらしたのを覚えておりますが、そのような不審な動きはしていませんでした」

「私もそう記憶しております」


 2人はケイトとイライザが楽しげに話している様子を見ていて、きっぱりとそう言い切った。


「それに、ふさわしいかどうかは、彼女の主人の私が決めることです。そして、メイドへの侮辱は私へのそれととらせていただきます」


 ケイトは口調こそ普段通りのものだったが、その瞳の奥には明確な怒りが宿っていた


「疑わしきは罰せず、だからな」


 完全に自分の方に非があるため、長男は謝りこそしなかったが、そう負け惜しみ気味に言ってすごすごと引き下がった。


 その後、ケイトは彼女にしては素早く食事を終わらせると、予定より早く帰路についた。

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