三兄弟とお嬢様
*
ここ最近で最高レベルにスッキリした朝を迎えたケイトは、朝食後、すぐに本宅へと出発して9時前には到着した。
そのお供には、自身が最も信用を置くイライザと、彼女の補佐でアイリスの2人が選ばれた。
ケイトの装いは、半袖のマリンブルーのブラウスに、白のレーススカートを合わせ、すこし癖のある長い金髪を低い位置で1つに縛っていた。
建物の見た目自体は、ケイトの住む家と大差はないが、建物・土地共に面積はその3倍ほどはある。
玄関前に横付けされたリムジンから降りたケイトは、メイド2人を従えて本宅の使用人達の前を通過して建物に入った。
そこから右に曲がって、建物の南西にある応接室へと向かっていくケイトの表情は、ずっと硬いままだった。
部屋の扉をアイリスがノックしてから開くと、即座に絡みついてくる様な主人への悪意をイライザは感じ取った。
室内には、縦に2つのローテーブルと、その左右に長ソファーが1つずつ置かれていて、突き当たりに移動式の黒板が置いてある。
その左奥以外は、時計回りに長男、次男、三男が座っていて、脚を組んで新聞やテーブルの上に配られた資料を読んでいた。
中にいた使用人達はケイトに一礼するが、ケイトの兄達は一様に、彼女がまるでそこにいないかの様に無反応だった。
長ソファーは不自然にならない程度に後ろへ引かれていて、兄達の背後にメイドが立っているせいで、ケイトはテーブルとソファーの間を通るしかなかった。
三男の前を通ろうとすると、いかにも脚を偶然伸ばしました、といった体でケイトの足を引っかけた。
倒れ込んでいくケイトを横目で見て、三兄弟が内心でほくそ笑んでいると、
「ほっ」
イライザが身を
アイリスはその後ろで、イライザが持っていたアタッシュケースを回収していた。
「大丈夫ですかお嬢様」
「ええ。ありがとう」
何ごともなかったかの様な振る舞いで、ケイトはソファーに座り、メイド2人はその後ろに立った。
スカートの翻りの鳥が飛び立つ様な音と共に、イライザが見せた常人離れした挙動に、ケイト達3人以外は度肝を抜かれて
長男は手に持っていた資料を取り落とし、次男は飲んでいた紅茶を太股にこぼしかけた。
そんな空気を
すると、8枚ある内の5枚目が白紙になっているのを発見した。
それも兄達の仕込みで、彼女の手が止まったのを見て、彼らは再度内心でほくそ笑む。
「お嬢様、予備ならここに」
「ん。ありがと」
すかさず、アイリスがアタッシュケースを開き、イライザがその中にあった、事前にケイトの父に頼んで取り寄せていた資料を渡した。
「……あのメイドは?」
「イライザ、という一昨年入った者です」
1度とならず、2度までも嫌がらせを阻止された兄達は、いつも通りの脳天気にも見える笑みを主人に向けているイライザを見て不快そうな顔をする。
無論、イライザもその悪意を感じてはいたが、一切気には
そんな空気感の中で、講師が到着して講義が始まった。
兄達は最初こそ真面目に聴いていたが、予定時間の半分ほど経過した1時間辺りで、集中力が完全に切れていた。
一方ケイトは、逐一バインダーに挟んだ資料にメモを取り、鋭い質問を飛ばすなどしていて、講師にいたく感心されていた。
ちなみに、バインダーは全員分用意されたもので、ケイトの分だけソファーの下に隠してあったが、あっさりイライザに見つけられていた。
次男はプライドを保つために、ケイトに負けじと質問するも、凡庸なものしか出す事が出来なかった。
ペンのインクを薄くしたり、ペン先を痛んでいるものに代えたり、ペンを拾うふりをしてフィルムケースに仕込んだ羽虫を放つなど、兄達は
しかし、全てをイライザに阻止され、ろくに成功しないまま抗議は終了した。
「おい、なんだよあのメイド!?」
お花摘みに、と部屋を出るケイトに、メイド2人が着いていったところで、兄達は顔を付き合わせてヒソヒソ声で話し始める。
「どんだけ準備がいいんだあいつ」
「というか最初のジャンプなんだよ……。人間業じゃなかったぞ?」
「どっから拾ってきたんだよアレ……」
3人とも一様にイラついた様子で顔をしかめ、非常に不愉快そうにしている。
アイリスが先行して戻ってきて、即座に解散して全員元の席に戻った。
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