2
眠れぬ夜に
「……」
いつもの様に日付が変わるより早くベッドに入ったケイトは、どうしても眠れず閉じていた目を開いた。
ちなみに、この地方は真夏であっても、夜は晩春の朝ほどは冷えるため、掛け布団は薄手の羽毛のそれを彼女は使っている。
早く寝なくちゃ、と思えば思う程、眠気が遠ざかっていく様な感覚をケイトは覚えていた。
体勢が、悪いのかしら……。
そう思って、ごろり、と右側に寝返りを打つと、
誰かいる……?
夜風に揺らぐカーテンの隙間から差す、満月の光に照らされ、窓際にあるチェアに座るボンヤリとした人影が目に入る。
「……イライザ?」
少し不安感を覚えたケイトは、なんとなく自分のお着きのメイドの名を呼んだ。
「はい」
彼女の声に反応してスッと主人の方を見て、いつも通りイライザは優しく返事をする。
「眠れませんか?」
目の前のテーブルに置いてあった、携帯用のランタンを点灯して立ち上がった彼女は、人なつっこい笑みを浮かべてケイトへ訊ねる。
イライザはいつものメイド服を簡略化した様な、黒いワンピース姿をしていた。そのレッグホルスターには、愛用の自動式50口径が挿してある。
「ええ……」
「明日は久しぶりの本宅での講義ですからね。楽しみで眠れないのも無理はありません」
「そんなんじゃないのよ……」
「おや」
やや
「なんて、言うのが正解かしらね……。それ自体は楽しみだけれど……」
「ご尊兄の方々についての不安、でしょうか」
「まあ、そんなところ……」
「なるほど」
顔を曇らせているケイトは、身体を丸めてぎゅっと膝を抱いた。
「……ねえ、イライザ」
「はい」
「こういうときどうしたらいいかって、分かる?」
「そうですね。私の
ベッドに腰掛けたイライザは、ケイトに微笑みかけながら、懐かしそうな様子で答えた。
「じゃあその……、お願いしても、いい?」
「はい。お安いご用です」
恥を忍んで、という様子の上目使いで頼むケイトに、イライザは二つ返事で応じ、失礼します、と言ってベッドに上がった。
そのままケイトの傍まで四つん這いで移動すると、イライザはホルスターを頭元において、主人と向かい合う格好で添い寝する。
「……」
ケイトは何も言わず、どこまでも柔らかな表情で自身を見守る、イライザの胸元に額を押し当てた。
そんな主人に、イライザは愛おしそうに目を細め、その細く小さな背中に右手でそっと触れる。
「イライザ……」
「ああ、触れられるのは嫌でしたか」
「それはいいの……。あなた良い匂いするし……、凄く温かい、し……」
「なるほど。そう言っていただけると、私も嬉しいです」
「そ、う……」
かれこれ2時間近く、眠れずに苦しんでいたケイトだったが、
こんな感覚どこかで……。――ああ、そうだ。これは、お母様、の……。
彼女の体温を感じつつ、イライザも浅い眠りに入ろうとしていると、
「お母、様……」
ケイトが幸せそうな甘えた声で寝言を発した。
「……私は代わりにしかなる事が出来ませんが、最期まであなたのお側におりますよ。お嬢様」
そんな主人に、ほとんど独り言の様に告げたイライザは、その左手をケイトの小さな頭に回して抱き寄せた。
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