第11話 オーディション⑴


 ザワザワ

 

 

 周りで騒がしく鬩ぎ合うたくさんの参加者と保護者達

 

 受付を済ませた須藤が、番号札を手に戻ってきた

 

「はい、はなちゃん」

 

 放り投げる様に渡された303と書かれた番号札、安全ピンが後ろについていて無くさない様に早速、右胸のあたりにつけようと奮闘するが、小さい手では難しい

 

「じゃあ、ここからは別行動だから…終わりそうな頃に迎えにくるね」

 

 作った笑顔のまま、須藤が背を向けながら歩いていく。

 あまりの無責任さに呆然と去り行く須藤の背中を見るけれど、須藤は振り返ることは一度もなかった。

 安全ピンを持った手は止まってしまう。

 

(おかしいな…須藤は確かに性悪だけど、仕事はちゃんと責任持ってしてたのに…)

 

 前回との相違点に違和感を感じる

 

 まぁ、こんなに前回と違う事が起きているんだから、もう何が違っても、おかしくはないか。と一人で納得する…

 いや…納得しようと思ったのだけれども…

 やはり須藤の言動に不可解さを覚え、モヤモヤする。

 

「はーい!参加者の皆さーん!自分の番号を確認して、自分のブースに向かって下さい!!」

 

 受付に立っていた茶髪のお姉さんが、よく通る声で矢印の書かれた大きなプラカードを抱え案内している。

 

 急いで服に安全ピンを括り付けた私もその案内に従い、人の陰に隠れながら、体育館の様に大きな会場へと入場する。

 簡易式の地図が張り出されていたので、確認し自分の指定されたブースへと足を向けた。

 

 人は多いし、子供らしく駆け出す子もいれば緊張のあまり泣き出してしまう子もいた。

 

(…やっぱり…)

 

 このオーディションに参加しているのは『少年』しかいない。

 私よりも頭が二つ分大きい子が大半の少年たちの中で、私の存在は異質だ…。

 チラチラと、一際背の低い私は悪目立ちしていて、視線を集めていた。

 キャップを深く被り、そそくさと隅っこに移動する。

 

 賑やかな会場内を見渡して…先程から気になっていたことを確かめる為に、近くにいる少年たちをちゃんとよく観察し、確信する

 

(…どこが一般人参加型だよ…)

 

 ここにいるのは、どいつもこいつも、現役の子役達だ…。

 有名な子役から無名の子役まで、私の一つ前の世代の子役達が揃っている。

 

 見覚えのある、パイプ椅子に座る姿勢の良いあの子は、この間の朝ドラに主人公の幼少期の友人枠として出演していたし、その斜めであくびをしているのは、舞台で活躍する既に貫禄のある有名な子役だ。

 あそこにいるのは、まだ無名だけれど未来的には爆発的に有名になるイケメン子役。

 

 前回も今回も、先輩子役の姿は眩しい物である

 昂る心臓を鎮めて、深く深呼吸をし、自分の目的を思い出す。

 

(ここにいる子達、全員に勝つんだ…私!)

 

 ニノマエ監督の映画に、どうしても出たい!

 今の私が完全アウェーな状態だとしても、絶対に勝つ!

 オーディションの内容も何ひとつわからない今の状況だけど、諦めるつもりはさらさら無い!

 

 須藤のことでモヤモヤとしていた気持ちはどこかに飛んで行き、今は胸が熱く激って仕方なかった。

 

 

 決意を決めて、髪の毛を引っ詰めたキャップを深くかぶると、慎重な足取りで自身の番号が書かれているブースまで気配を消して歩き進む。

 

 【301~305】と掲げられたプラカードの下に向かうと、左右をパーテーションで仕切られた空間にパイプ椅子が五つ並んで配置されている。

 

 既に二人ほど座っていて、有名な子役なのか見覚えがある様なないような、芸能界特有の、一般人とは違う貫禄というか、オーラがあった。

 

 深く呼吸をし、303と紙が貼られたパイプ椅子によじ登りながらも、なんとか座る。

 

 両端に座っていた少年たちの視線を感じるが、私は涼しい顔をして見せる。

 

 私たちはライバルなんだから、こんな事で動揺なんてしちゃダメよ!

 決して口には出さないが、心の中で偉そうに自分へ忠告してみる、そんな私の手は小刻みに震えていて矛盾してはいるが見ないフリだ。

 

「え、君…参加者?」

 

 驚いたように目を見開いて声をかけてくる右隣の少年

 

「うん!『僕』も参加者だよ!」

 

 『僕』と言ったのは正解だったはずだ。

 

 須藤は何も言わなかったが、このオーディションの応募規定が『少年』というのは、会場を見渡した事で理解している。

 参加資格さえ満たしていないのはタブー中のタブーだ、だから『少年』を演じなければ、私の合格の望みはない。

 下手したら、ここのスポンサーが投資している作品のオーディションに二度と参加できなるかもしれないし、バレてしまわないように…細心の注意を払わなければ…

 

「え、でも、君…」

 

 頭のてっぺんから爪先までジロジロ見てくる少年のどんぐりのような丸い目は困惑に染まっている。

 

「僕ね、生まれてから直ぐに大きな病気をしちゃって、普通の子に比べたら、かなり成長が遅いんだ…」

 

 シュン、と肩を落として聞かれてもいないのにそう言うと、どんぐり目の少年はきまずそうに、「ごめん」と言った。

 

 私の体格は、普通の3歳児よりは成長が早く大きい

 顔も整っているせいか、初見の人には3歳には見られない事の方が多い。

 

 流石に6歳には見られないけれど、成長が遅れていると枕詞さえ置けば、なんとかなる…気が…しないこともない。

 

「ううん!もう治って元気だから大丈夫だよ!」

 

 にっこりと笑顔を向けると、どんぐり目の少年は、安堵したかのように強張った顔を緩やかに解かせた。

 

 少年は話を変えようとしたのか、手を胸の前で大きく振り、大きめのよく通る声で話し始めた。

 

「君は、どこの事務所なんだい?」

 

「ぼくは、サンライズプロジェクト!」

 

(まだ本登録はしてないけど!)

 

 前回、所属していた事務所サンライズプロジェクトは、今回はまだ仮登録の状態で、正式な所属はまだしていない、少し嘘をついている気持ちにはなるが、致し方がない

 

「へー!!大手じゃないか!」

 

 少年は、目を丸くさせ、キラキラと輝かせた

 

 純粋な子なんだろうなぁ…

 

 なんか、マイナスイオンでも出てたりするのかな?

 ほわっと少年のキラキラの瞳を見ていると癒される

 

「僕は、劇団『花鳥風月』に所属してるんだ!」

 

「か、『花鳥風月』!?」

 

 思わず大きな声で前のめりになってしまった。

 

(花鳥風月って、あの花鳥風月だよね?)

 

 

「う、うん、あんまり大きくは無いけど、良いところだよ。それに、隣の子も同じ所属だし。」

 

 きょとん、と口も目も輪郭も全部を丸くさせる、どんぐり少年は困惑した顔で、私の方に指をさすが、その目線が私の後ろに向いていたから、振り向くと…。

 

「えっ?」

 

 

 その顔に、頭の中で狐の顔が過ぎった

 

 

 

「よう僕ちゃん、ママと離れて泣かないのはエラいなぁ〜」

 

 細く吊り上がった切れ長の目は鋭く攻撃的で、眉毛も同様に吊りあがり気味だ。

 鼻筋は細く通っていて、唇が薄く小さい口…

 

 極め付けは、鋭く突きつけられた金色にも似た琥珀色の瞳

 

(この人…)

 

 見下ろされるその瞳に目が離せない。

 

(私の目も、薄い茶色だけど、この人は…蜂蜜みたいな色してる…)

 

 綺麗…

 

 ついつい見惚れてしまうのは、しょうがないと思う。

 

 それくらい、整ってるんだもん…。

 それに、なんだかやっぱり見覚えのある顔…

 

「彼は、うちの劇団の新星!!若月エリオット!アメリカと日本のハーフなんだってさ!かっこいいだろ!」

 

 はしゃいだ声で後ろから、目の前の少年のことを教えてくてた。

 

(若月…エリオット…)

 

 あ、やっぱり知ってる人だった。

 

 …この人、この年から芸能界にいたの…?

 

 記憶にある『若月エリオット』の名前は探るまでもなくすぐに出てきたけれど、私の知っている記憶と違う点があるのだけど、気のせい?

 

 私の記憶の中の彼は、10歳の頃に渡米し、子役として、あっという間にハリウッドデビューした、アメリカを代表するハリウッドスターだ。

 国籍も渡米した際に日本からアメリカに変えていたはずだし、彼自身、日本にいた頃の話は一切した事がなかったから、『花鳥風月』に所属していることさえ知らなかった…それはなぜだろう…。

 

 若月エリオットは、ハリウッドスターの中で日本とアメリカのハーフなことから、日本での知名度はかなり高い。

 そんな彼が、今はまだ有名ではないが、これから10年くらいで飛躍的な人気を出し、舞台の中の頂点になる『花鳥風月』に所属していたなんて情報が広がらない訳なんてないのに…。

 

 若月エリオットが、日本で舞台に出ていたなんて情報、前回ではなかった…。

 

「なんだ?間抜けな顔だな〜」

 

 間延びした語尾で、冷たく私を見る、若月エリオット

 

「それにしても、こんな負戦に挑もうなんて、僕ちゃんもバカだね〜」

 

「お、おい!エリオット!それは…」

 

 挑発的な物言いの若月エリオットに、すぐさま焦った声色でどんぐり少年が咎めるように遮る。

 

「教えてやるのも優しさだろ〜」

 

 

 若月エリオットは、小馬鹿にしたかの様に鼻をふんっと鳴らし、薄い唇の端をあげ、人差し指をこちらに突き指した

 

「俺らんとこのセンセーが言ってたんだけどさ〜

 このオーディションはもう合格者が決まった『ヤオチョウ』ってやつなんだってさ〜だから、どんなに頑張っても無駄ってわけ。まぁ、ここにいる半分のやつはそれ知ってて受けにきたんだろうけどさ〜」

 

 不満気に口を尖らす若月エリオット

 

(まぁ、確かに…こんなのオーディションって呼べる代物でもないしね…)

 

 大きな会場に押し込められた大量の参加者…

 

 簡易的に設置された、大量のブース…

 

 受付では、ただ番号札を貰っただけで他の案内もない…

 

 極め付けには…

 

 チラッと予定時刻を過ぎているのにも関わらず、開いている二つの席に目をやると、若月エリオットもどんぐり少年も気づいたのか、互いに顔を見合わせていた。

 

 

「応募だけして参加しない『サクラ』って連中もいるってセンセーが言ってたな〜」

 

「本当にいるんだね…」

 

 軽蔑するかの様に椅子を眺める若月エリオットと、冷や汗を浮かべ眉毛を下げているどんぐり少年

 

 

 出来レース…確かに子役のオーディションでもよくある事だって、前回の時、須藤が言っていた…

 

 前回の私だったら、受かりもしない出来レースに好んで参加なんて絶対しなかったと思う…。

 

 でも今は違う…

 

「じゃあ、どうして…」

 

 私に向かう二対の眼

 

「勝ち取る気も無いのに、ここにいるの?」

 

 私は勝ちに来た…どんな不利な状況でも、私は勝つつもりで来てる。

 

 負け戦、そう言いながらも参加している貴方たちも、勝ち取る気があるから参加したんじゃないの?

 

 あなた達は違うの?

 

 そんな気持ちを込めて二対の眼へ顔を向ける

 

 

「…なんだよ、僕ちゃん…生意気だな〜」

 

 ピクピクとこめかみを震わせて、細められた目は怒りを表しているように見えるが、私も負けじと睨み返す

 

 すると、綺麗な言葉の粒が聞こえた

 

「…どんなに稽古を頑張っても」

 

 先程まで静かにしていた、どんぐり少年が、何を考えているか分からない表情で、キラキラとした瞳をこちらに向け、透明な声で囁く様に歌う様に言葉にする。

 

「どうしようもならない時があって、歯を食いしばって耐えなきゃ、芸能界はやっていけないって、先生が言ってたんだ」

 

 だから…と、続けるどんぐり少年。

 

「今が…歯を食いしばる時なんだと思う…」

 

 俯いたどんぐり少年の瞳は、キラキラとはしていなかった。

 そんな悲しい顔、6歳の少年がしていい訳がない

 

(かわいそう…)

 

 まだ6歳の少年達を抑制するような、芸能界の闇を教えるような、そんな人がこの世界には五万といる。

 それが芸能界を生き残る術だと知っているから、あえて早い段階で教えるのだ。

 まだ純粋な少年達を、悪知恵が働くように、芸能界で生き残られるように、彼らの師は教えたんだろうけれど…

 

 それでも…

 

「チャンスは準備の出来た者だけに微笑むものだよ…

 

 あなた達は、まだチャンスを掴む準備が出来ていないみたいだけど…。あんまり遅いと置いて行っちゃうよ?」

 

 前回の時で、私は学んだ…。チャンスは歩いてこない、自分で掴み取りに行かないと手に入れられる訳が無いの。

 

 だから、どんなに彼らに才能があったとしても、このチャンスを諦めるなら、私は彼らを置いて先に行く。

 

 困り顔のどんぐり少年が唇を薄く噛み、キラキラとした瞳の中から少しの怒りが見て取れる。

 どんぐり少年に気を取られてたからか、目の前に突き出された腕に反応するのが遅かった。

 

 ドンっ!

 

 小突かれたせいで、体が一瞬浮く

 

 蹌踉めきながらもなんとか倒れ込まない様に踏ん張るが、2、3歩退く

 

 突き飛ばしたであろう腕の持ち主を、睨む様に見つめる

 

「ほんと…生意気だな〜」

 

 ギッ、と睨んでくる金色の瞳の迫力に鳥肌が立った

 

(美人が怒ると迫力あるな…)

 

「嫌いだよ…お前みたいなやつ」

 

 敵意を隠さない、年相応に嫌なものは嫌と言える、自分の感情に素直な、その姿勢が羨ましかった…。

 

 私には無いものを、本物の『才能』を持っている彼は、当たり前の様に持っていて…なんだか、すごく腹が立つ

 

 私が死んでも手に入れられなかった物を持っているくせに、先生に言われたからチャンスを逃してしまうなんて、それで私が、「はい、そうですね諦めましょう」なんて納得するとでも思ってる?

 今の彼は、自分が出来ない事、しない事を、私がやろうとしない様に抑圧しようとしてるとしか思えない。

 

 そんなわがまま、聞く必要なんて無いでしょ…

 

 

「好かれたいなんて思った事ないよ」

 

 私も嫌いよ、あんたの事。

 

 甘ったれの僕ちゃん…。

 

 ピリピリとした空気が、私たち3人の間に走るのが肌で感じられた。

 敵意剥き出しの若月エリオットと、どんぐり少年…。

 そんな空気を裂く様に、パーテンションの隙間から、ヌルッと登場した影が視界に入った。

 

「おっ、ここか、俺の担当…」

 

 モジャモジャのアフロみたいな頭

 

 目はぱっちり二重のまつげの顎髭を携えた男がいる

 

 だるそうにノートパソコンを小脇に抱え、ビデオカメラの設置された脚立を反対側の手で持っていた。

 

 私たち3人の間に緊張が走る

 

 つい凝視していると、アフロの男と目があった

 

「え…」

 

 規定の年齢より見るからに若い私を見て固まるアフロ

 すかさず、頭を働かせ、既に想定していたセリフを口にした。

 。

「こんにちは!花野ミチ6歳です!

 ずっと入院していて他の子よりもハンデは多いと思いますが、頑張りますので、どうぞ宜しくおねがいします!」

 

 ニコッ!と有無を言わせない様にすかさず言い切った。

 アフロは、少し考える様な素振りをしたが、入院という言葉に何か理解したかの様な顔をすると、私に、質問をする事はなかった。

 

 と言うか、興味がないんだろう…

 

 ちなみに、偽名を名乗ったのは賭けだったけれど、きっと大丈夫だろう。

 このオーディションが八百長なら、まず私たちが提出したであろう履歴書なんてマジマジと見ないはず…それに、今のアフロの彼が履歴書を持っている様子も見受けられない。

 

 すっ、と、アフロの持つビデオカメラに目を向ける

 

 

(…最初から、『本来の』審査員は私たちの事、見るつもりなんてないじゃん)

 

 アフロの首から下げられたパスを見るからに、監督や脚本家ではないのはすぐわかる。それに、アフロの見た目は須藤と同じ年くらいで若い。

 だから、審査員っていうわけでもないだろうし…

 手の肉刺と関節の歪みを見る限り…

 

(カメラマン…?) 

 

 ピクっ、と自身の鼻が無意識に動いた。

 

「それじゃあ、早速始めるから…一人ずつ、自己紹介してね…。

 あ、君はもう聞いたからいいや。」

 

 君、と指を差され、椅子に座る様言われたので、不満ではあるが仕方なく椅子に腰掛ける。

 

 隣で、若月エリオットがニヤッと意地悪な笑みを浮かべていて、内心イラッとしたけど、私の方が精神年齢高いから許してあげよう。

 

「じゃあ、そこの君からね」

 

 設置されたビデオカメラの前で、数字が若いどんぐり少年の方から前に立つ。

 

 緊張した面持ちだった彼の背中は、どっしりと構え震えなど微塵もなかった。

 

(本番強いタイプなんだ…羨ましい)

 

 休めの体勢で、ビデオカメラに向くどんぐり少年は、口を開いた。

 

「劇団『花鳥風月』所属、風間 素晴、6歳です!

 芸歴は2年、宜しくおねがいします!」

 

 どんぐり少年のハキハキと透明な声に耳が心地良くなる。

 

(風間…素晴?)

 

 風間…素晴…

 

「あっ」

 

 思わず溢れた声を押し込めるために手で押さえるが、すでに遅かった。

 

 どんぐり少年、基、風間素晴がこちらへ振り返る

 

 キラキラした瞳は過去に一度だけ画面越しで見たことがあった。

 

 

 そういえば…いた、そんな名前の『声優』

 

(声優界のプリンス…風間スバル)

 

 前回で、17歳で声優デビューを果たした風間スバル、声優界のプリンスと名が知れるまで時間は掛からなかった程、『声』が良かった彼は声優という立場上、あまりテレビ出演をしたことはなかったが、それを抜きにしても、人気は凄まじかった…。

 

 

 あんまり、声優についてよく知らない私でさえも知ってるほど、彼は有名…。

 

 あまりの衝撃に口がぽかんと開いてしまう。

 

 風間素晴が席に戻ってきて座ると、私にチラリと視線を寄越したが、すぐに逸らされた。

 

 茫然と、顔の向きを風間素晴から外し、若月エリオットの自己紹介風景を眺めたが、あまり若月エリオットの自己紹介が何を言っているか頭に入って来ない

 

 隣で、若月エリオットが席に座ったのが見え、自己紹介が終わったのを知った。

 

 両脇を、未来の『スター』達に固められ、なんだか嫉妬で発狂しそう…。

 

 

(まずいまずい、ちゃんと集中しなきゃ)

 

 自分のあまりにも気の散りように焦り、気を引き締めるため、握り拳を作り両膝の上で握る

 

 掌は、薄ら汗が帯びていて気持ちが悪い

 

 自己紹介が終わり、数分たった今、アフロは、うーんと考えているのか唸り声を上げて私たちを見下ろしている。

 アフロのシンキングタイムが数分続き、私たちの間では居心地の悪い緊迫感に満ちている。

 そして、ようやく何かが閃いたのか、アフロは唐突に手を叩いた。

 

 パァンッ

 

 音が響き、両隣の肩が震えたのを視線の隅で捉え、視線を正面へと上げる。

 

 にっこりとわざとらしく笑顔を作ったアフロは面白そうに声高らかに宣言する

 

「オーディション一次審査の内容だけど、君たちの中に二人も劇団員がいるならさ、『自分語り』を演劇の様にやってみてよ!自分の生立ちや芸能界に入った理由とか、なんでもいいから演劇風に語ってみて!」

 

 ケラケラと面白そうにアフロが言う

 

「持ち時間は一人5分ね!」

 

 左隣で、ごくっと唾を飲む音が聞こえ、右隣では服の袖を握り締めているのが見て取れた。

 

 

(なんだ…)

 

 

 きっと、この感じだと、オーディションの内容は審査員によって違うんだろう…。後ろからは歌声が聞こえ、右隣のブースからは下手くそな泣き声が聞こえる

 

 長い沈黙の時間、アフロは何か考えていた。

 

 アフロは、考えてたんだろうな…『一次審査』の内容を…

 

(『自分語り』…演劇風にね…。)

 

 なんだ、思ったより余裕そう…。

 

 ニヤニヤと意地悪く笑うアフロの顔を…なんだか、猛烈に歪めさせたくなった。

 

 ただ、それだけで、勝てる気がした。

 

 

 まぁ、最初から負けるつもりもないけれど…。

 

 

 

 胸の鼓動が大きく振動した。



芸能コソコソ話


若月エリオットは、本当なら『花鳥風月』に所属する予定ではなかったんだけれど、ある目標が出来て日本の芸能界でデビューしたよ!

前回なら、『花鳥風月』には入らず、アメリカに行くまで芸能界との関わりは一切なかったから、また未来が変わったよ!

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