第10話 TSUBAKI
背伸びをして、全体重を乗っけて押し開いたドア
そこから飛び込んだ太陽に光に目を細める
「こんにちは、はなちゃん」
聞き覚えのある声に心臓が跳ねた
「え…。なんで」
現れた人影に目を見開く
そこにいたのは、見覚えのある緩やかなパーマの茶色髪
横に流した前髪が以前とは違うが、明らかに目の前の男は、須藤だ。
憎い相手ではあるけれど、突然の訪問による驚きが勝ち、思わず固まる
ふつふつと込み上げる嫌悪感と共に、『みんなといっしょ』の撮影で迷惑を掛けたのを思い出し、少しの罪悪感で胃が痛い
「…すどうさん、こんにちはぁ」
あからさまに引き攣った顔で歪んだ笑顔を向けたけれど、須藤に気にした様子は見られず隠れてほっと胸を撫で下ろす。
「親御さんは?」
玄関を見渡し、人気がないことに気づいた須藤が尋ねてくる
両親とユズルは確かに不在だ。
三泊四日、秋田の祖父母の家に遊びに行ってる
毎年恒例の行事だし、連れて行っても貰えないのは前回と一緒だったから何とも思わない。
それに、餓死しない程度のお金は置いて行ってくれるから、デリバリーで毎日済ませているし、特に不満はない。
デリバリーの配達員に不審に思わせない様に玄関前に置いて貰っているけど、逆に怪しいかな?
(まぁ過ぎたことは仕方ないから気にしても無駄か)
「いまはおでかけしてる!」
にっこり笑うと、須藤は興味なさそうに腕時計をチラリと見た。
「後で連絡すればいいか…」
ぼそっと呟く須藤の声がよく聞こえなかったけれどとりあえず、このまま玄関で会話するわけにもいかず、嫌々ながらもあがる様に言い、お客さん用のスリッパを出した。
遠慮せず家に上がる須藤の前を誘導する様にリビングに通し、ソファに座るよう言うと、自分はお茶を出そうとキッチンに向かう。
(やば、まともな飲み物ないじゃん)
脚立代わりに椅子にのぼり開けた冷蔵庫の中身は空っぽで何もない。
あまり料理のしない母親が唯一買っていたドレッシングが二種類と、味噌パックがほぼ未使用の状態で置いてある
(…水道水でいいか)
お茶もまともに出せないけれど、アポなしで来た須藤も須藤だ。
水で我慢してもらおう。
コップに水を注ぎ、須藤の待つリビングに向かう
「どーぞ!」
歯茎が見える大口の笑顔を作り、須藤の前へコップを置くが、須藤はコップに目も向けずにスマホを弄っている。
テーブルを挟んで須藤の向かいの一人掛けのソファに座り、笑顔で表情を隠しながら様子を伺う。
居心地の悪い空気が満ちて、何とも形容し難い空気に飲み込まれる。
すると、スマホをいじっていた須藤が徐に口を開いた
「はなちゃんが帰ったあとの『みんなといっしょ』の撮影は、ちゃんと無事に終わったよ。」
わかりやすい作り笑顔をこちらに向け饒舌に語り出す
その声色には確かに悪意が混ぜられていて、これは嫌味なのだと認識したが、間違ってないだろう。
「ゆうなちゃんも、来季までの契約更新したみたいでもう一年続けられるみたいだし」
ゆうな…よかった、前と同じように来年まで続けられるんだ
「まぁ、君みたいな横暴具合というか、暴言を吐くような子に比べたら、ゆうなの方がまだ扱いやすいって上が判断したからなんだけど…ねぇ?」
スッと細められる目
観察するかのようにジロジロと見られる
意地悪そうに口元を吊り上げたかと思うと、口を開いてこう言った。
「純粋な才能だけで、演者を引退まで追い込んだのはどんな気持ち?」
シンッ
時間が止まったかのような錯覚と、サァーと血の気が薄れていくかのように手足の先が冷たくなる
有り得ないものを見るような目付きで須藤を見ると、須藤は至って真面目な顔だった
(…引退に追い込むって…)
ふと頭を過ぎったのは『雪と蝶』
泉さゆり、加藤俊平、稲田孝作
最近、電撃引退を宣言した3人
(私が…追い込んだ?引退に?)
温度を失った冷たい指先をギュッと握り込み、須藤の視線に気づいた
軽く頭の中がパニックで、返答をしようも口籠る
観察している…。
私の反応を観察している…
見下ろされる私自身を値踏みするような視線。
前回の須藤と似たような、人をモノとして扱うかのような目だ
(動揺したら、コイツの思う壺…)
笑え、笑うんだ…
自分の顔に無理やり意識を込め、子どもらしくあどけなく笑って見せた。
「はな、むずかしいことわかんない」
へにゃっと眉を下げて須藤に伝えると、面白くなさそうにため息をつく、数秒ほど無言の時間が流れ、居心地が悪いことこの上ない須藤は二回目のため息をつくと私から視線を外し、腕時計で時間を確認すると立ち上がった
「時間がないな、はなちゃん…行くよ」
(はい?)
目に見えて動揺してしまうが、すぐさま笑顔で隠し、須藤に尋ねる
「いくって…どこに?」
背後の窓から差し込む日差しが背中をチリチリと焼き首元がむず痒くなる
須藤はベージュ色のシャツのボタンを一つ外し暑そうにパタパタと仰ぐ
「オーディション」
たった一言だけの単語なのに、嫌いな相手の発言なのに、その一言で胸が高鳴った私は存外ちょろい
口元がピクピク動いて口角が上がってしまわないように力を入れる
気持ちを悟られないように、声が上擦らないように、慎重に疑問を声に出す
「ど、どうして…?」
本来なら、オーディションに参加する際は、あらかじめ事務所に確認して許可が下りてから受けたり、事務所から打診されたものを受ける。
今回は後者のようだけれど、本人の同意なしでは応募すら出来ない為、今から行く。という返答に疑問が残った
(それに、須藤はまだ下っ端のはずでしょ?こんなに好き勝手していいの?)
須藤は確か、個人のマネージャーを任されるまで今から3年の月日がかかるはず…
須藤が受け持った第一号は私で、その時は6歳だったし…
やはり、未来が変わってる…?こんなに激変するものなの?
不信感が胸中に広がり、つい須藤を疑うような眼差しで見てしまう。
それに気づいたのか、須藤は顔の前で手をプラプラ振りおどけて見せた。
「一般人参加型のオーディションでさ、飛び入り参加も許可してるみたいなんだ!はなちゃん、最近仕事無いみたいだし、この機会にどうかな?って」
嘘くさい笑顔で調子の良い言葉だけど、ちょろい私は納得することにした
それに…
(今の私には、どんなチャンスだって貴重だもの)
須藤の提案に乗らないわけがない
グッと奥歯を噛み締め、顔に力を入れた
「わぁ!たのしみだなぁ!」
須藤のしたり顔に、子どもらしく笑って見せた
私を利用しようとしている魂胆は丸見えだけど、私も今回は便乗して利用されてあげる。
立ち上がった須藤の後ろで、須藤の後頭部を無意識に睨みつけていた
☆
あの日、俺は『怪物』を見つけた
複数人の子役を受け持っていた中の一人、3歳女の子の仮登録の子役のデビュー日、親子番組の撮影で一際目立っていた子ども。
愛らしく無垢で純粋、そんな雰囲気を纏った子供に、上層部の連中もスタッフ陣も釘付けで、俺の直属の上司は、この撮影が終われば事務所に本登録をさせようと息巻いていた
そんな中、メインキャストのゆうなの暴走があった
周りの顔色ばかり伺う、強いものに媚び、弱いものを威嚇する体質のゆうなに、スタッフ陣は手を焼いてはいたが、邪険にするわけでもなかった、そんなゆうなが、あの日に限って、自分の年齢の半分以上年下の子に向かい、劣等感から来ているであろう横暴ぶりを披露した
その時見ていた、上の立場のスタッフがゆうなを窘め、降板をも匂わせ、ゆうなが号泣するという、騒然とした図が出来上がり、収録は中断かとも思った
(…道野はな)
現在進行形で隣を歩く小さな女児を見て、3ヶ月前の出来事を思い返しながら、歩道を歩く。
あの日、あの場で、好感度を天辺まで上げて、最下層まで落とした子役
道野はなが、ゆうなに向かい暴言を吐いた後、上司は肩を落として「あのこは問題が有り過ぎる」と、本契約を結ぶのを取り止めていたけれど、俺は諦められなかった。
空気の悪い収録部屋から道野はなを連れ出し、「帰る」と告げたあの子を追った時、道野はなは天才脚本家、稲田孝作と出くわしていた
子役を探していたようで、道野はなを連れて行く稲田孝作に、興味本位でついて行った撮影現場…
大人数のスタッフがいた事と、同じテレビ局のパスを持っていたことで忍び込めた現場
そこで見た『怪物』…それが道野はなだった。
『雪と蝶』のラストシーン、母親に縋り付き泣き叫ぶ娘のシーンは、鳥肌が止まらなかった
現実ではないのに、まるでそれが本当の出来事のようにさも当たり前のように異常を演じる道野はな
父親との掛け合いのシーンでも、台本に載っていないセリフと、ラストシーンの大胆な変革。
スポンサーから訴えられてもおかしくはない行動を仕出かした、大滝監督と、稲田孝作。
それらの要因が全て、道野はなである事なんて、その場にいた誰もが知っている。
最後のシーンが終わり、崩れ落ちた大物俳優、加藤俊平は確かに『潰された』。
道野はな という、『怪物』に
そして、同じく大物女優の泉さゆり、天才脚本家稲田孝作。
彼ら3人は、道野はなにより『潰された』。
芸能人として、平凡な『幸せ』を手に入れ辛い彼らにとっては、道野はなの言葉や演技は、『麻薬』に似たものだったんじゃないか…。俺は彼らの様に芸能人ではないから、気持ちはわからない。
彼ら自身が納得しているなら、それで良いとは思うが…
芸能人としての彼らは、もういないと…まざまざと思い知らされた気分だった…
たった一人の子役に、芸能界の先駆者たちは潰されたという事実、それに気づいているものはどれくらいいるんだろう。
あの後、その場から姿を消した道野はなの情報を誰も知らず、名前しか、その少女の存在を確認できるものがなかったらしく、流石に許可は取っていても未成年者は両親から許可を貰わないと放映は出来ない。
しかし、ネジの緩んだ制作人達は、道野はなが映っている部分の角度を変えて、横顔や後ろ姿は写っているが、はっきりと顔が認識出来ないよう、上手く修正を加え、かなりのグレーゾーンではあるが放映した。
『雪と蝶』のラストシーンは『舞』の視点で始まり、視聴者達は『舞』の立場になり、『舞』自身の全貌を見ることはなかった、まるで自分が登場人物の一人になったかのような錯覚に陥るあの現象は、『雪蝶事変』とネットで云われている。
異例な視聴率を叩き出したのは、あの『怪物』がいたからだ。
道野はなを探し出そうと、スタッフ達は子役事務所を渡り歩いていたけれど、全て無駄だった…
何故って?
俺が全部、道野はなに関する情報を抜き取ったからだよ。
道野はなは、俺の事務所がスカウトしていたから、採用担当の部署にしか連絡先はないし、まだ仮登録の段階だったから簡単だった
(まぁ、その後が大変だったけどね)
3ヶ月前まで俺は確かに下っ端に過ぎず、なんの権力も無かったから、一人の子役のマネージャーになるなんてまず無理だった
しかし、有難い事に俺の事務所は完全なる実力主義…要領も良く悪知恵もかなり働く俺は、同僚にはかなり嫌われもしたが、異例の昇進を果たし、ある程度好き勝手出来る立場を掴み今に至る。
全部は全部、『怪物』を受け持つため…俺にとっての最強の『武器』を手に入れる為だ…。
コイツは将来的に、泉さゆり以上の大女優になるだろう…消費期限の短い子役という立場の中で、道野はなは長く使える。
もし仮に、あの日の演技が偶然でまぐれのものとしても、コイツの顔に似合う嫌われ者の『嫌なやつ』的ポジションの仕事はたくさんあるだろうし、使えるだけ使って俺の踏み台にすれば良いだけの話だ。
今回のオーディションも、道野はなの力量を測り、なおかつ挫折を経験させる為のもので、受かるなんて端から思っちゃいない
「はなちゃん、もう着くよ」
半袖の白シャツから覗く白い腕は少し不健康そうな印象で、かぶっているキャップは男児ものだったため少し違和感がある。
ぶかっとした黒のズボンはあまりサイズが合っていなくて、見るからにオーディションを受けにきた格好ではない。
(服装を気にしたって、無駄か…)
どうせ落ちるんだし…
このオーディションは、いわゆる出来レース
配役が既に決まっている覆ることのない完全なる出来レース
大手スポンサーが孫を主演にする為だけに出資した、定額制動画サービスのオリジナル短編ドラマのオーディションだ。
何千人から選ばれた。というキャッチコピーの為だけに開催されたオーディションであり、参加者はみんな無駄足という訳である。
そんな出来レースに、どうして道野はなを参加させるか?
そんなの早めに挫折させる為だ。
『雪と蝶』で、周知されていないとはいえ、一目置かれた存在になったことは明確だ、それに満足し慢心して落ちぶられても困る
だから先に、その出た鼻先を折り、芸能界が甘くはないということを一から教えなければならない。
それにだ…今回のオーディションに、はなは必要資格さえ満たしていない。
【応募規定:6歳以上 男児】
道野はなの年齢はこれの半分、極め付けは性別も違う。
まず、第一に受かるわけがないのだ。
そして、それを後押しするかのような決定打は、このオーディションの審査員であり、監督の『ニノマエ フミト』
ハッピーエンドの大信者である彼の作品は、平凡でつまらなく、味気がないほどハッピーエンドに固執している、どうしてコイツの作品が世界的に評価されているのか気に食わない。
そしてこいつは、ハッピーエンドとは程遠いラストを飾った『雪と蝶』を唯一酷評していると噂の人物でもあった
『雪と蝶』に、道野はなが出演していたと知られれば、ニノマエは絶対に起用しない。それも未来永劫ずっとな…。
ニコニコと笑顔で隣を歩く道野はな
何も知らないで、呑気だな、と内心ほくそ笑み、これからの予定を頭の中で組み立て始める。
(とりあえず、早く落ちれば良い)
会場は、もう目の前だ…。
無駄足ではあるが、これも俺の素晴らしい未来のため…
フッ
鼻から抜けた空気が、無意識に笑ってしまっていたことを気づかせる
まずいまずい…思わず笑ってしまった。
無意識に笑ってしまう癖は、いつまで経っても治らない。
(所詮、ガキだ…)
キラキラとした眼差しで会場を見上げる『怪物』は、芸能界の闇なんて知らない様で、なんだか哀れに思えてくる。
まぁ、同情なんてする訳ないけれど…
せいぜい、俺の踏み台として頑張ってくれよ…
なぁ…道野はな?
☆ーーーーーーーーーーーーーーーーー
サワサワ、と風の音が耳に心地よく聞こえる
(あれ?)
会場の目の前まで到着したけれど、なんだろうこの違和感…
辺りを見渡すと、男の子ばかり…
それに、なんだか年齢も少し上に見える…
ふと湧き出た疑問に、周囲を深く観察する
親同伴の子供が大多数で、一様に何かのセリフを口にしている
近くにいた、スポーツ刈りの頭の子が母親と一緒にセリフを言い合っていたので、耳を澄ませる
「“来世があるなら、また俺は、俺ん家の子になりたい!“」
きゃっきゃっと楽しそうにセリフ合わせをしている様子に、胸がちくっとするけれど、それより気になったのは…。
(あれ?このセリフって…)
聞き覚えのあるセリフ…
これって確か…
(『TSUBAKI』…だ)
ニノマエ作品 大ヒット作『TSUBAKI』
椿家8人家族のドタバタファミリー映画
温かい家庭の日常的なやりとりが多く組み込まれた、心温まるファミリー映画。
かつて好きだった作品だった為、良く覚えている。
ちょっぴり気が弱いけれど優しい父、怒ると怖いけれど誰よりも頼りになる母、わがままな双子の妹達と、すっごく孫達に甘い祖父母、元気すぎるひい爺ちゃん、そして空想劇が大好きな長男の主人公、計8人家族。
映画の内容的には、長男目線で物語は始まる。
大家族を持つ主人公、椿 太陽 小学5年生
彼は空想が好きで、授業中も自分の空想をノートに書き連ねる、授業を聞いていないので、やはり成績は悪い。
見かねた先生が、母親を呼び出し、主人公の成績について面談する。
激怒した母親が主人公の空想ノートを没収し、返して貰おうと説得するが、母親の部屋に持っていかれてしまう。
そして、そのノートを発見する双子の妹達。
次の日、学校に行くと自分の空想ノートの内容が晒されている。
どういうことだ!?と友達に尋ねると、双子の妹達が学校に持ち込んで、色んな人に見せて歩いていると言う。
友達に茶化されて、恥ずかしさと怒りで、家に帰るや否や、双子の妹達を問い詰めるが、妹達に空想ノートを馬鹿にされ笑われ、思わず引っ叩いてしまう。
泣く妹達、駆けつけた母親に怒られる太陽
太陽は、妹達が空想ノートを学校中に広めた、恥ずかしい思いをした!と訴えるが、母親は泣いている妹達を慰め、お兄ちゃんなんだから許してあげなさい。と言う
太陽は悔しくなって、部屋に閉じこもるが、夜になると父親が部屋を訪ねる。
ことの顛末を父に話すが母と同じく、兄なのだから許してやれ。と言う。
それに対し、望んで兄になった訳じゃない。兄に無理やりしたのは父さん達だろ?!と激怒、それを聞いていた父親が珍しく怒る。
そんな父の反応に、俺は愛されてなんていないんだ。と家を飛び出す太陽。
追ってくる父親を撒こうと、引っ越し用のトラックに飛び乗る
しばらくして、トラックから出ようとするがドアを閉められてしまう。
焦る太陽だが、大声を出しても気付いて貰えず、疲れ果てて眠ってしまう。
トラックが止まり、見つからない様にこっそりと抜け出す太陽。
辿り着いたのは、全く知らない土地…。
なんとか家に帰ろうと奮闘する太陽…。
家出をして色んな人に会い、色んな体験をする中で、初めて知る家族のありがたさと、恋しさ。
最後は、迎えにきた家族へ全速力で飛びつき大声で泣きながら、心労で痩せこけた母親に会えたことの喜びで抱きつく
母親は、太陽のことを抱きしめて、大好きなの、大切なのよ…。とボロボロと涙を溢しながら抱きしめる。
「“来世があるなら、また俺は、俺ん家ちの子になりたい!“」
と涙を浮かばせ母の腕の中で幸せそうに微笑み、この作品は終わる。
望まぬ兄としてのポジションと、大家族の中で少し愛情についてわからなくなっていた太陽の葛藤が描かれていたこの作品は、この世界に何人もいる『長男長女』からの支持が多かった。
太陽の理不尽に泣きたくなる気持ちが国境を越え、世界でも評価された為、最初は『椿』という題名だったのが『TSUBAKI』と変更された。
今でも年に数回、金曜日の9時に放送される程、人気の映画。
私も、理想の家族像の一つとして『TSUBAKI』はよく見ていた。
見終わった後の幸福感は、本当に何回見ても堪らない。
(もしかして…ニノマエ監督の作品なの!?これっ!?)
胸がバクバクと脈打ち、体温が上がる。
稲田孝作に続き、名監督の作品に出られるチャンスが来るなんて!!
絶対に勝ち取りたい!!
唇をギュッと噛み締め、目の前の大きな会場を見上げる。
空は雲ひとつない晴天で日差しの強い紺碧色していて、日焼けのしていない白い肌をチリチリと焼いていた。
拝借したユズルのキャップを気を引き締める様にかぶり直し、前を歩いている須藤の背を弾んだ足取りで追いかけた…。
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