第9話 雪と花と、その後


物語の始まりが、『雪と蝶』クランクアップから3ヶ月が経ったはなちゃんの後日談→クランクアップ直後の加藤俊平の独白。


未来→過去の構成です!


すごく悩んだ結果の構成ですが、頑張ったので読んでください!






 

「はぁ〜…。暇だなぁ……。」

 

 自分しかいないリビングのカーペットの上で一人寝転がりながら、引っ越したての、真新しい天井を見る。

 

 シミひとつない壁紙は、いつか愛煙家の父により、その白さを黄ばませる事だろう。

 もったいない気もするが、わたしが何を言おうと変わらないだろうし、前の時も黄ばませていたのだから、どうしようもないだろう。

 

 

「もう3ヶ月も経つんだ…。」

 

 

 3ヶ月前…初めての撮影…初めてのドラマ…。

 

 恵まれたチャンス…。

 

 それを、わたしは生かせなかった…。

 

「また…失敗したのね…私。」

 

 不甲斐ない…悔しい…。

 

 二回めなのに、他の子よりも何十年も芸能界を知っているのに…。

 

 『雪と蝶』の撮影以来…私に進捗状況は一つもない。

 

 それに、それにだ…。

 

 オファーがないのは、前で経験済みだし、別に今更、ものすごいショックは受けない…。

 

 だけど…。

 

 

「…まさか、3人も引退しちゃうなんて…。」

 

 

 そう、前とは違うことが確かに起きた。

 

 最初、その話題がテレビで報じられたとき、夢でも見ているんじゃないかと、頬を抓った。

 

 思い切り抓ったせいか、頬を赤くなるし、両親からは冷たい目で見られるしで…その日、一日…ブルーで仕方なかった…。

 

 

「加藤さんも、泉さゆりも…

 

 

 稲田孝作も…引退しちゃうなんて…前とは全然違うじゃん。」

 

 

 前では、こんなこと、ありえなかった…

 

 芸能界の前線で活躍する大物二人の電撃引退…

 

 そして、若くして天才と言われ、これからを担う脚本家の引退。

 

 

 

 

 

 『雪と蝶』のクランプアップ直後の出来事だ…。

 

 まだ、最終回が放映されてもいない中での引退報道は、かなり…。

 控えめに言っても、かなり騒然とした。

 

 連日報道の末、本人達の引退会見も待てずにいたマスコミ達が、自宅を特定し押しかけたという。

 

 節度を弁えない報道陣達に怒った事務所は、引退会見の取りやめをすると表明。

 

 あの時の、マスコミへのバッシングは凄まじかった…。

 

 まぁ、それに、待ったをかけたのは、誰でもない本人達の意思だったりもして、引退会見は無事に開かれたけど…。

 

「それにしても…凄かったなぁ…。」

 

 

 あの会見の様子は…。

 

 

 まるで、映画の記者会見を見ている気分だった。

 

 本人達たっての希望で開かれた、3人同時の引退会見

 

 泉さゆりの、牡丹色の美しい蝶の絵柄が施された着物姿

 

 加藤俊平の、瑠璃色のタキシードと、蝶の形のネクタイピン。

 

 稲田孝作の、臙脂色のスーツにモダンな蝶がらのスカーフ。

 

 

 

 

 どこからどう見ても、『雪と蝶』を意識しているとしか思えない。

 

 それに、引退する者の顔じゃなかった…あれは…。

 

 晴々とした、生きる喜びを享受したような、生き生きとした表情。

 

 

 引退の理由を聞かれても、『家庭を大切にしたい』って、泉さゆりと加藤さんは言っていたけれど…。

 

「何も辞めることなかったのに…。」

 

 

 悲しいな、寂しいな…。

 

 すごく残念…。

 

 これから、彼等が主演をするドラマや映画はたくさんある。

 

 それを、見る事が出来ないと思うと、なんだかやるせないし、すごく残念。

 

 窓から差し込む7月の日差しがチリチリと肌を焼く

 

 青い空が覗くベランダの向こうを遠い目で眺めながら、無意識に唇を尖らせ、顔を顰めた

 

 何より意味がわからなかったのは、稲田孝作で、未だに彼の意図がわからないでいる。

 

「何が『才能の限界を感じた』だ…。今回の『雪と蝶』…視聴率…45.5%…ドラマの歴代最高だぞ、バカヤロー…。」

 

 電撃引退を決めた3人の最後の作品を、見ないと言うものの方が難しいだろうが、それにしても異常な視聴率…。

 

 

 

 過去例を見ない、最高視聴率。

 

 かなり物議を醸したラストシーンだった『らしい』が、それを覆す程の称賛の嵐と歴代最高視聴率。

 

 何より、酷評された場合、バッシングを受けるべき標的は、責任を取るとでも言う様に、引退を発表した。

 

 《誰もが口を黙み、ただ圧倒された。この過去類を見ない最悪で最良の傑作を、誰もが納得せざるを得なかった。》

 

 と、雑誌に書いてあったのを、コンビニで立ち読みした時は、その作品に少しでも関われたという事がとても誇らしかった。

 

 

 私自身は、演技中の事、全く覚えていないから、『舞』の演技を見るのが気恥ずかしくてドラマの最終回自体は見てはいないけど…。

 

 後から、ネットを漁っても見たけれど…加藤さんに対する評価が凄かった。

 

 《まじかよ…加藤さん…まじかよ…お父さん…》

 

 《泣きすぎて…出勤できない…おとうさん》

 

 《胸が痛くて立ち直れないぜ…お父さん》

 

 《あなたの息子として生まれたいです、生きてください、おとうさん》

 

 

 皆して、『舞』の気持ちだったのか、加藤さんを『お父さん』と呼ぶ人が続出していて、少し面白かったな〜

 

 『舞』についても書かれていたみたいだけど、なんだか自分の事じゃないみたいで、未だに自分の『舞』のエゴサは出来ずにいる。

 

 それにしても、

 

「加藤さん…大丈夫かな?」

 

 あの日の事を思い出すと、少し胸の奥が痞える様な感じがした。

 

 撮影が終わったあの後、加藤さんは、私を抱きしめて離そうとしなくて、声をかけても泣くだけで、正直焦った。

 

 周りも止めてくれたらよかったのに、皆して大号泣して、誰も止めてはくれなかった。

 

 皆して、クランクアップが嬉しかったから泣いてしまったのだろうか?

 

 加藤さんを慰めようと、声をかけたけど、掛けた言葉が悪かったのか、作中では想像も出来ないくらい、顔をぐちゃぐちゃにさせて泣いていた。

 

 謝罪の言葉を吐いていたけれど、誰に対しての謝罪かもわからないし、なんで謝っているのかもわからない。

 

 やっぱり、大物俳優になると、違った世界観があるのかな?

 

 イケメンだから、ぐちゃぐちゃに泣いてる姿も絵になっててカッコ良かったけど。

 

 

「あーあー、仕事来ないかなー」

 

 あの後、思った以上に遅い時間に撮影が終わったから、挨拶もちゃんと出来ず、急いで近くのタクシーに飛び乗っちゃった。

 

 後ろですごく引き止める声がしたけど、門限までに家に帰らないと、朝まで家に入れてくれないから死活問題なんだ!

 無視しちゃったのは悪いと思ってるよ!ごめんね!

 

 クランクアップ用の花束にいたずらで、たんぽぽを入れちゃったのも怒られるところだったし、逃げてよかったのかもね…

 

 その罰なのか

 自宅に帰った後、何日も連絡を待ってはいたが、いつまで経っても連絡は来なくて、落ち込んでいるのは現在進行形だったりする…。

 

 

 え?そんなに酷かった?わたしの演技…。

 

 そうだったら、ちょっと…ううん、かなり凹む…。

 

 

「やっぱり…才能ないのかな…。」

 

 前の時の売れない時代の記憶がフラッシュバックし、心のモヤが発生する。

 

 

 無意識にぼそっと、呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく空気に溶けた。

 

 

 ピンポーン

 

 

 聴き慣れたインターホンの音が耳に入り、私以外の誰もいない家で、面倒くさいけれど、私しか出られない現状に無視する訳にはいかなくて、牛歩にも似た足取りで、玄関に向かう。

 

 不自由な小さな体でドアを押し開くと、想像もしていなかった人物が、目の前にはいた。

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ☆------------------------------

 

 

 立てない…。

 

 腕の中で小さな命が、苦しそうに身動ぐが、もうしばらく離してはあげられないだろう…。

 

 先ほどから、涙が溢れて止まらない…。

 

 俺は確かに今『失った』

 

 『家族』を、『娘』を…俺は自ら手放した

 

 ドラマの中の事なのに、俺自身が『平坂はじめ』だと、頭が認識して、先程までの感情が抜けずにいる。

 

 カットが掛かった瞬間、俺は床に膝をついて、腕の中にいる『舞』を離せずに、震える体を自分の意思では動かせず、ただただ涙を零れ落としていた。

 

 目の前が明るいのか暗いのかわからない

 

 『平坂はじめ』の今までを振り返ると、俺自身の基盤が足元から崩れていく様な錯覚に陥る。

 

 

 幸せだった。俺は確かに幸せだった

 それが崩れた瞬間、俺は『俺』ではなくなって、本当の自分がわからなくなる。

 

 『雪』を妻と重ねて意図的に感情移入して来た今までの演技と違い…

 

 この絶望は『本物』でしかなく、俺は『平坂はじめ』に飲み込まれた。

 

 

 守らなければならなかった、小さな命。

 

 大切な娘…。

 

 それを捨ててまで、『雪』に会いたかった『はじめ』。

 

 妻を想う、俺にはなかった…『はじめ』の想いに、大切にすべきは何だったかわからなくなる。

 

 

「ごめっ、『舞』っ、ごめんなぁっ」

 

 腕の中の小さな娘に懺悔する

 

 すっかり『平坂はじめ』に引き摺り込まれ、戻れない俺は、このまま『役』に溺れてしまうんだと、心の奥で納得してしまった。

 

 もう戻れない…。ごめんな…沙羅…

 

 この居心地の良い『絶望』には、依存性があって、それに縋ってしまうのは、妻から逃げている証拠なのだろう

 

 妻の…沙羅の事を想うたび、罪悪感に苛まれ、俺は逃げてしまう

 

 この『絶望』に、逃げてしまう

 

 

 目の前が真っ暗になって、頭の中の残像に…

 

 『雪』と『蘭』が楽しそうに笑って手招きしている。

 

 俺もそこに加わりたくて、腕の中にいる『舞』を、連れて行こうと、力を込めると、『舞』は静かに顔を上げた。

 

 

 

 

「加藤さん…」

 

 

 腕の中の娘が、声を上げる

 

 頭の中の光景が消し去られ、『雪』と『蘭』が消える。

 

 新たに追加された『絶望』を感じながら、『舞』に視線を移す。

 

 

「あなたは…幸せにならなくちゃ…」

 

 腕の中の、『舞』が俺を睨む

 

 幸せなんて、望んでなんかいない…

 俺は幸せを求めてはいけないんだ…

 

 その感情を込めながら、『舞』を睨みつける

 

「…かえってきて、加藤さん」

 

 

 ドキリ、と胸が跳ねた

 

 『はじめ』の皮を被った『俺』を見透かし、淡々と言葉を発す『舞』

 

 『舞』はこんなに大人っぽく喋らない。

 

 おとうさんと、この子は呼ばない…

 

 この子は、本当に『舞』なのか…?

 

 いや、『舞』な訳がないんだ。

 

 自問自答を繰り返す脳内

 

 わかり切ってる筈なのに、俺の中の『はじめ』は未だに認められないでいて、意味のない抵抗を繰り返す。

 

 腕の中の『少女』を見つめると、『絶望』が鬩ぎ合い、溢れた涙が、地面に落ちた。

 

 

(…沙羅)

 

 脳裏に過ぎる、笑った妻の顔

 

 

 妻の変化に…もっと、早く気づけた筈なのに…

 

 一番辛い時に、側にいてあげられなかった…。

 

 『はじめ』の様に、辛い時に側にいてあげられる旦那になりたかった。

 

 沙羅の笑った顔が見たかった。

 

 『幸せ』な家族になりたかった

 

 胸の中でチリチリと蝕む胸の痛みに顔を歪める。

 

 目線を上げると、強く真っ直ぐな射抜く様な瞳と目が合い、頭の中でガラスが割れる様な音がした。

 

 この子は、『加藤俊平』を見ている

 

 その事実に気づいた瞬間、見失ったパズルのピースを埋める様に、少しずつ『俺』の形が戻ってくる様な気がした

 

 

 まるで、心を見透かしている様な、目が俺を捉えて離さない。

 

 

「『幸せ』から逃げないで…あなたの、加藤さんの幸せは…

 

 手を伸ばせば掴めるでしょ?

 

 『おとうさん』が、もう掴めない物を…あなたは掴める。

 

 加藤さん…『幸せ』になるのは、そんなに怖い?」

 

 

 

 腕の中で、『はなちゃん』が問いかける。

 

 『平坂はじめ』が失った『家族』を、俺は…

 

 

 『加藤俊平』は…

 

 

「人は、幸せを前にすると、急に臆病になる…。

 

 幸せを勝ち取ることは、不幸に耐えることより勇気が要るの。」

 

 周りの音が消えて、はなちゃんの声だけが不自然に耳にはいる。背筋が冷たくなり、一瞬、ここがどこか、自分は生きているか、不安になる。

 

 はなちゃんから溢れ出すオーラは…

 まるで、この世のものとは思えないほど色がなかった。

 

 生きているのか、疑ってしまう程…彼女は『異常』だ。

 

 

 恐怖を抱いた俺は、つい畏怖の気持ちで、はなちゃんを見てしまう。

 

 それに気づいたのかはわからないけれど、はなちゃんは、悲しそうに笑った。

 

 

「幸せになって……後悔しない様に」

 

 

 約束…。

 

そう言って、はなちゃんは俺の腕を解き、背を向け走り出した。

 

 伸ばした手は空を切り、口も縫い付けられたかの様に声を出せない。

 

 はなちゃんは、愛らしい笑顔で、こちらに一度振り向き

 

 

「『しあわせ』だった!ありがとう!」

 

 

 初めて、はなちゃんに会った時の幼く愛らしい、元気な声が廊下に響き渡り、扉が閉まるまで、その小さな背中を追うようにぼやけた視界で見ていた。

 

 バタンと閉まるドアを見切ると、俺の世界に色が戻る。

 

 

 

 

 『はじめ』から、目が覚めた俺の視界に入ったのは、狭い自分だけの世界ではなく、俺の周りで涙を流す制作の『仲間』達。

 

 数十人いるこの空間は、先程までの景色と異なっていて、色も匂いもあった。

 誰しもが言葉を瞑り、ボロボロと涙を流す。

 

 鼻水を啜る音や、嗚咽…、吃音…

 

 全てが全て、この景色を彩り構成している

 

 異常な空気の異常な空間

 

 それに似付かわしくないかもしれないが、今の俺の心は晴れやかで… 肩の荷が降りたかの様な爽快感、冴えてる思考回路、生きてる事を証明するかの様な痛みを訴える胸の鼓動。

 

 ただ、止め処なく流れる涙は、みんなと一緒だ

 

 スタッフ陣の、顔ぶれはなんだかとても懐かしくて、これがドラマの撮影だった事に、今更気づたのは、演者として失格だな、と内心笑う。

 

「監督…稲田さん…」

 

 号泣する監督と、呆然とはなちゃんが出て行ったドアを見つめる稲田さんに声をかける。

 

 

「俺、帰ります。」

 

 今すぐ、家に帰りたかった。

 

 この後予定されていた、打ち上げに不参加の意思を伝える。

 

 『はじめ』には彼の、俺には俺の『幸せ』があると教えてくれたから、俺も歩み寄りたい…『幸せ』に。

 

 

 もう、後悔したくない……

 

 

 妻と…沙羅と、一緒に幸せに、なりたい

 

 監督は、赤くなった目元を引き締め、一つ頷くと近くにいたスタッフに耳打ちをした。

 

 スタッフは、早足でどこかに駆けたが、すぐに戻ってきたその手には、大きな花束が抱えられていた。

 

 差し出された、クランクアップを告げる花束

 

「これ…」

 

 豪華な花が敷き詰められた花束の一点に目が止まる。

 

 花束には似つかわしくない、黄色のタンポポ

 

 はなちゃんが公園で摘んでいたタンポポを思い出す。

 

「はな、ちゃん…」

 

 

 流し切ったと思った涙が、再び視界をぼやかした。

 

 頭の中で、君がいない時間はないな…と感傷に浸るが、誰も咎めはしないだろう。

 

 

「おかえり、加藤くん」

 

 『はじめ』を捨てた俺に向けて、穏やかな優しい声が掛けられる。

 振り返ると、目元に涙を浮かばせた、花束を抱く泉さんがいた。

 

「泉、さん」

 

 

 泉さんを纏う空気が、以前のトゲトゲとしたものではなく、優しく柔らかいものになっていて、少し目を丸くさせる

 

 泉さんは、幸せそうに花を撫で、口ずさむように声にする

  

「幸せって、難しいわね」

 

 でも…、と続ける泉さん

 

 

「ちゃんと、見つけられた」

 

 泉さんの瞳に溜まった涙がこぼれ落ちた。

 

「私も、幸せになる」

 

 

 はにかむ泉さんは、まるで少女のように笑い、花束を抱きしめた。

 

 

 今後の事を考えながら見上げたガラス越しの空は…、夜になりかけの青く澄んだ色と地平線は茜色に染まり、コントラストの美しい薄明だった。

 

「俺、この作品に出会えてよかった。」

 

 心の底から、そう思う。

誰かに向けて言ったわけでもないのに、後ろから誰かが返答した

 

「俺もだよ…もう思い残すこともない…」

 

 

 達観したかのような目をして、丸メガネを外した稲田さんが俺の隣に並ぶ

 

「本当に…残酷だな、才能ってやつは…」

 

 ため息を吐いた稲田さんの表情は、とても満足気で…

 不思議と、気持ちが共有されたかのような気分だ。

 

「これからの『未来』は、若者に託すか。」

 

 無邪気に笑う稲田さん

 

 初めて見た、作られていないその表情に、釣られるように一緒になって笑った。

 

周りを見渡すと、俺を今まで支えて来てくれた人達がいた。

 

(今まで、支えて来てくれたんだ…スタッフの皆は…)

 

 今まで深く関わろうとしていなかった、泣いているスタッフ達に、一人一人感謝の意を伝え歩き、たくさんの人に支えられてきた事を実感する。

 

 初めて、承認欲求が満たされ胸が内側から暖かくなった。

 尊敬の眼差しを初めて真正面から受け止め、お礼を返す。

 

 すると、帰ると宣言した俺が、一向に帰らない様子を見兼ねた監督が、早く帰ってやれ。と言い笑いながら手を払っていた、それを有り難く受け入れ軽い足取りで踵を返す。

 

名残惜しいが、これで『終わり』だと、納得している自分がいた。

俺は恵まれていた、『加藤俊平』は、俳優として役者として…

 

 本当に『幸せ』だったんだ…。

 

 

だから、今度は『家族』として、夫として…

 

 

 さぁ、帰ろうか…

 

 

 『幸せ』を見つけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう…はなちゃん。

 

 

 

 

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