第2話 警察官
小さな赤ランプを掲げた小屋の中で、今日も夜半過ぎを迎えた。
高校を卒業して、かれこれこんな生活も七年目に突入した。
中学生の頃から公務員になりたいと思っていた。
公園の大きな池の辺りで、親友達とそんな話をした記憶もある。
十七歳の時にテレビである事件を目の当たりにした。
その日から僕の夢は、公務員という漠然としたものから警察官という明確なものに変わった。
自分の命を懸けて誰かを守りたい。
そう思って、僕は警察官になった。
なのに、現実は僕が思い描いていたものとは程遠かった。
理不尽な上司の顔色を伺いながら機嫌取りをしたり、矛盾しているものに頭を下げて謝ったり、出動要請が出て現場に向かうと女子の前で調子に乗って羽目を外し酒を飲み過ぎたのか酩酊した男子大学生達が、疲弊しきった見るからにか弱そうなサラリーマンに喧嘩を売って、暴行をしている現場などだ。
僕が、十代の頃に命を懸けて誰かを守ると誓った事は、僕以外の人間には理解できないという事は当たり前なのだろうけれど、あまりにもこの世の中はならず者達にとって便宜にでき過ぎている。
警察学校を卒業して交番に配属になった当初は、僕が腰にぶら下げている鉄の塊が僕が命を懸けているという象徴のように思っていた。
高校を卒業して、警察学校に入った僕は長期休暇の時に地元に帰ったが、かつての親友三人は、各々がキャンパスライフを楽しんでいてあまり会う事はなく長期休暇のほとんどを実家で過ごすだけだった。
一日だけ、親友達と会いお互いの近況報告をし合っても皆んな大学での恋愛の事や今度、沖縄旅行に行く話などだった。
そんな楽しい会話の中で僕が警察学校での厳しい話をすると、場がしらけると思い口を開く事が出来なかった。
決して皆んなが遠くに行った訳ではない。
寧ろ僕が皆んなから遠くへ離れてしまった。
そう思うと、自分が選んだ道が間違ったように思い紅潮した。
それは、自分自身が恥しかったという訳ではなく夢を叶えた自分に胸を張る事が出来ない事への怒りだったかもしれない。
どうして、子供の頃からの夢を叶えてもこんなにも悶々とした日々を生きなければならないのか。
しかし、だからと言って自分が納得出来るように何か新しい事をする勇気が僕にあるはずもなかった。
交番の畳の上でそんな事を考えていると無線が入った。
「繁華街で酔っ払いの男が喧嘩!
至急向かって下さい!」
ステテコの上から制服のズボンを履いた。
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