12 襲い来る災害の群れ 両雄決着の時
思わぬ好敵手の出現に、デラハーゲルは
思わず全霊の雄叫びを上げていた。外に漏れだした衝動は木々を
命懸けの勝負の世界とは残酷である。
強き者が同じく強き者と対峙する時、片方の才能や努力や研鑽は瞬時に無に帰してしまう。ほんの僅かな力量差が生死を分けるのだ。漏れなくこの時もそれであった。
デラハーゲルはぐんと背伸びをしたかと思うと、一気に頭を地面まで下げてしゃくり上げるように斜めに噛み付いた。フェイントを加速動作としても利用した妙技だ。
佑は尻餅をつくかと思うほど後ろに倒れこむと、すんでのところで右足を後ろへ下げて内踝で踏ん張り、上体を後ろにぐいと反らした。鼻先に触れるかどうかのところで牙を躱して、通り過ぎる顎元へ強烈な右掌底を食らわせた。やり場の無くなった牙は背後の木に深く突き刺さってへし折れた。脳髄に向かって抜ける衝撃と共に、散弾のような風月の刃が顎の周りを細かく切り刻んでいく。
歯茎が露出し、口の
腹部は竜にとって弱い部分であり、比較的柔らかい。風月が横一閃に美しい緑の刀身を一瞬ふっと見せたかと思うと霧散した。腹の竜皮はぱっくりと一文字に裂け、傷付いた臓物がぼとりぼとりとこぼれ落ちた。
フェイント読みからのカウンターによる一撃の元に勝敗は決した。
「いや~、さすが。デラ級迫力あり過ぎだてぇ。こえぇであかんわぁ~」
デラハーゲルはよたよたとして、しかし全力で踏み止まると、佑を睨み付けた。
そして心折れたかのように片膝をついてくずおれ、ひとつ透明な溜息を漏らして間もなく右にドシンと身体を沈めた。
その目に最早生気は無く、力尽きていた。
「佑さんがデラハーゲルを討ち取ったぞ!こちらも続けぇーッ!」
うおお、と野太い歓声が上がる。
「なに!やるじゃないか佑!ならば俺も取っておきを出してやろう!」
一層強く竜杖と指輪が光り輝くと、一際大きい煉獄の火焔が解き放たれた。ハーゲル軍は既に崩壊し、エレクト軍の残党も僅かだ。それらを巻き込んで、一直線に延びる光源のように火焔が
デラエレクトは、その1m近い極太の
「なに!奴め、なかなか知性があるな。低等級は串刺しになりたくなくば下がれ!」
あれはやべぇ、と口々に弱音を漏らして銅色のプレートを提げた者達が後退してくる。
と、その時、
「逃がすものか!」
「いや、待て」
猛然と追い
「何故止める!」
「いやぁ、もう終わったからさぁ~」
見れば最後の小型竜を銀等級の冒険者が斬り倒したところであった。
死屍累々の現場は、屋外だと言うのに溢れかえる鉄臭さが充満していた。銅等級の
「確かに、ここが引き際か…すまん、熱くなった」
「解ればぁよろしい~。しっかし、ワヤ級おらんくて良かったわぁ~」
「ワヤ級が出たのか!?」
「いやぁ、出たらあかんと思っての赤札さ~」
「…なるほど。何が起こるかわからんと踏んだ訳だな」
「そっす」
その時、下流の方から早馬の足音が聞こえてきた。
「冒険者ギルドのギルドマスターは居らっしゃるか!」
「お」
「む、王都の遣いか。私だ。この度はご苦労だった」
「赤札の件ですが」
「ああ。もうカタはついた。軍の派遣は不要だ。騒がせて済まなかったな。代わりにと言うんじゃないんだが、肩を貸してはくれないか。見ての通り、負傷者が多いのだ」
「分かりました。すぐに人を寄越しましょう。その後、状況の説明を」
「相分かった。この足で殿下にご報告申し上げる。現場の検分は…」
「えぇ~俺むりぃ~。ヤダヤダ~帰って寝たいぃ~」
「…。貴様は昔からそういう奴だったな。だが、事の始まりから我々が駆けつけるまでの事は詳細に証言して貰うからな。後は我がギルドの精鋭が受け持ち、伝書にて続報を届けさせよう」
「…は、はっ。ではそのように」
その後、王都からは選りすぐりの回復魔術師が派遣され負傷者を回収し、ギルドからは解体専門員達を派遣して解体出来そうな獲物を解体し、現場で動ける者達は戦場跡を清掃してまわった。勿論、薙ぎ倒された竜避けの木はすぐに植え替えられた。医療班の奮闘もあり、戦死者は奇跡的にも出なかった。
こうして、原因不明の未知なる大事件は終息を迎えたのだった。
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