09 襲い来る災害の群れ 焔のGM
書斎で事務仕事を片付けている私の真後ろにある窓に、突然ドンと衝撃が走った。
仕事柄、逆恨みなんかでたまに命を狙われる事もあるから、冷や汗をかいたし随分と肝が冷えた。ここは最上階の三階なんだから敵襲の心配はない、などと油断するのはやめにしようと思う。慢心は常に敵だ。
窓の下からひょっこり顔を出したのは、意外にも一羽の可愛い鳩だった。羽根が窓にくっ付いている。
殺し屋では無かったか、と胸を撫で下ろした。いや、そもそもそんなものに狙われるような事をしたつもりはないのだが。
それにしても、この伝書鳩。待機できるよう大き目の止まり木があるはずなんだが…止まれずに突っ込んだのか。なんて間抜けな鳩だろうか。
あれ、それじゃあこいつはもしかして、と思った矢先だ。
その首には、竜を模した柄の赤い札が巻き付けられていた。
「こっ、これは…!」
それが何か理解した時、私は先程の冷や汗を流す為のシャワーでも浴びたかと錯覚するほどの冷や汗をかいた。心の臓の鼓動が急に速くなっていくのを感じた。これが発信された所を初めて見た。
これは…これはつまり言い換えれば佑の救援要請だ。奴ほどの男ならひとりで大概の事態を丸く収める自力が有るはずなのに。しかも、赤札だ。
余程のことが無ければ精々黄色で収まるはすだが、いきなり赤札を飛ばしてくるとは。いつ国が陥落するかもわからないというレベルの何かが起きたと見て間違いないのだ。あの男が赤札を切るとはそういう事…!
私は佑の伝書鳩につけられていた赤札を取り外し、匂い袋だけ付けて飛ばし返してやった。それが飛んでいくスピードは出鱈目に速かった。流石は佑の鳩だ。そして王宮宛ての匂い袋と赤札を首に巻いた自分の伝書鳩を飛ばした。この鳩は直通である。
「副マス!いるか副マス!」
私は防具を装備すると、武器である竜杖を引っ掴んで書斎を飛び出した。
同じく会議室から飛び出してきた副ギルドマスターである石川は、恐らくは鬼の形相で詰め寄ってくる私を目の前にして状況が全く掴めなかったのだろう。ぽかんとしていた。
「えっ、え、どーしたんスかアキラさん」
「佑から赤札が届いた」
「え!!」
すぐに理解したようだ。しかし目を見開いて微動だにしなくなってしまった腑抜けの副マスに私は苛立ちをぶつけてしまう。
「…おい!止まっている暇などないぞ!戦えるものを全員一階に集めろ!非常事態だ!」
「はっ、はい!」
二階の事務員達に、通常の討伐依頼の受付を全て中断させた。さらに出払っている冒険者達をギルドに戻せるだけ戻すよう伝える。
そして赤札発令時の特殊緊急依頼を冒険者全員分、強制的に受理させる。ギルド登録時に交わす契約のひとつだ。
滑るように階段を駆け足で降りていくと、既に酒場にいた冒険者連中は目の色を変えていた。どうやら私の怒鳴り声は一階まで響いていたようだ。各々、緊張した面持ちでそれぞれの武器を手に取って戦闘準備万端の様子。
ここにいる皆が私の言葉を待っている。ならばこれだけで通じるだろう。
「緊急事態だ!佑から赤札が届いた!」
そう言うと一瞬、沈黙と静寂が場を支配した。
酒場だけでなくギルド受付側にいた連中も、なんならうちの職員もみんな固まっていやがる。そんな事をやってる暇はないと言うのに。黄札と赤札の意味はギルド員登録書と冒険者登録書にも記載してあり、さらには初心者説明会にて説明済みだからしっかり周知されている。
大竜害発生の印。
数える程しか発信出来る人間はいない。ギルドマスター、国王、それを許された金一等級。その中でも一番の実力者であろうあの佑がこれを発信したのだ。
そんな事をやってる暇は無いとは言ってもまあ、確かにビビってしまっても仕方が無い。
正直言って、私もちょっとビビったのだから。
「戦える者は武器を持て!佑の山小屋を目指して裏山中腹に続く坂を登り、現場の状況確認から始めよ!もし佑を見つけたら指示に従え!切迫しており予断を許さぬようなら加勢しろ!今ここで集まった者を第一陣とするッ!」
漢たちの腹底からの唸り声に、ギルドが揺れた。
どうやらビビっていたのではなく武者震いだったようだ。
うおお、我先に、どけどけ、と血気盛んな命知らずの暴れん坊たちがギルドを飛び出して行く。
御国の兵隊様のように隊列を組んで華麗に行進など奴らには出来やしまい。そういう人間の集まりだ。これで良いのだ。
武器を持つ手が震えている初心者の扱いやら、非戦闘員の扱いやら市民の避難など、後のことは副マスに全て放り投げれば良い。
何が起こっているかわからんが、久しぶりの現場だ。腕が鳴る。佑の危機であるなら私も行かねばなるまい。
ギルドマスター焔のアキラ、いざ出陣!
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