第55話 閉明塞聡

 ギャアアアァァァァ!!


「!!?」


 わたしは屋敷内をぶらついていると、カルロス公の悲鳴が屋敷内に鳴り響いた。

 なにか、と思いながら目の前にカルロス公がいる部屋にへと向かうと、そこには肩を血に濡らしていたカルロス公がいた。


「大丈夫ですか。旦那様!!」


 カルロス公の傍にへとレオスが向かった所を見ると、わたしは辺りを見る。

 一体、何があったのかと思いながら、辺りを見てみると胸糞悪い豪華さが辺りには見えるだけでおかしい所はない。

 だが、わたしはそのようなことであろうとも辺りを見ることをやめなかった。あの男が何か特別な方法を使ってカルロス公の肩を射抜いたとしか見られなかった。だが辺りを見ても窓一つない。それに弓を使って狙撃をするには無理に等しい。この屋敷は、弓兵にとっては最悪な場所なのに………もしかしたら、あの小さな砲を使ったのなら?

 私の脳裏にはそのような考えが一瞬だけそのようなことを思わせたが、すぐに疑問が頭の中に過り始める。



 もし、あの小さな砲が遠くから狙撃ができるものがあるのなら?



 その考えがわたしはすぐさまその部屋を飛び出て辺りを見ると、遠くの夜の山に一人の男の姿が見えた。


「なっ!!?」


 男、いやリンタロウは高い山の崖から何かを構えわたしの事を見ていた。いや、わたしの事を見ているのか? あれは、わたしの事を見ていない。眼中にないということはまさにあのようなことだろう。だが、何故?

 理解できない状況に巻き込まれながらもわたしは崖の上から見ている彼の事を見ていた。


「……………」


 何かがおかしい。

 何がおかしいというか、なんだかこの胸の中のもどかしさは何だろうか。私には少し理解できないもであった。


「……………まさか」


 すると頭の中に一つの考えが過る。

 私の考えが正しければ、今すぐにでもカルロス公をあの場所から逃がさなければ、


 犠牲者被害者が増える。


 後ろに振り向いてカルロス公の姿を見ると、どこからかタァン、という軽く弾ける音が聞こえ始める。

 瞬間、わたしの目の前でカルロス公の胸に一筋の鮮血が舞う。


「あ、」


 カルロス公はわたしの目の前で一筋の鮮血が舞うと、彼の胸には一つの小さな穴が開いていた。


「……………な」


 何があった?

 その状態にさすがに何があったのか理解できなかったわたしは鮮血の中に倒れるカルロス公の事を見ていた。


「あ、あり得ぬ」

「!!?」


 だがカルロス公は未だに絶命とまで至っておらず、必死に何かに縋るかのようにその首から降ろしていた小さなネックレスを握り始める。


「わ、わたしは、生きるのだ。まだ、ほん、がん、を……………」


 血に濡れたネックレスを握り、強く願いながらカルロス公は死に際までに生きようとしていた。

 その姿は欲に塗れた男の最期だと私だと思っていたが、わたしはこのような男の事を見つめながらもどこか人間らしさが垣間見えた。生きたいと願った、一人の人間の願いが見えた。


「れ、レオスよ」

「な、何でしょうか?」

「あとは、頼んだ」

「……………分かりました」


 そう何か二人は呟いていると、レオスはカルロス公から何か受け取る。

 何を受け取った?

 わたしの目には何を受け取ったのか分からなかったが、何か光るものを受け取っているように見えた。だが、なんだ? 何を受け取った? 

 そのようなことを考えていると、カルロス公は力尽きるかのようにその上げていた腕をそのまま降ろした。


「旦那様? 旦那様!? 旦那様!!?」


 そしてレオスはその様子に気付き、忠臣深い言葉を連呼する。

 あぁ、やはりこの男も立派な男なのだな。

 いつも愚図など思っていたのだが、こう最期の瞬間を見てしまえば、立派な人間の一人であったのだなと思う。


「……………では行きましょう」

「……………どこにだ?」

「地下にですよ」

「地下?」

「えぇ、地下です」

「……………」


 どういうことだ?

 貴族の家に地下を設置することは少なくないことだが、この男の家には牢があるのに、なぜ地下など?


「待て」

「なんでしょうか?」

「先ほど、地下といったな」

「はい、そうですが……………」

「では、なぜ、地下があるのだ?」

「それはどういった事でしょう?」

「この屋敷図には地下はないはずだ」

「……………それが一体、何でしょうか?」

「分からないのか?」

「えぇ」


 まだしらばっくれるつもりか。

 このレオスという男、何かあるように見える。


「何のために、地下がある?」

「……………貴女様であろう方がそれをご理解しないとは」

「なに?」

「理由なんてありませんよ」

「……………」

「魔族たちを拷問する場所があるんですよ」

「何?」

「捕虜にした魔族たちに拷問し、殺す場所ですよ」

「……………」

「そして、あらゆる邪魔を守る場所であります」


 わたしが何も言わずともこの男はペラペラとその口から先ほどの綺麗な言葉を漏れ出さない。


「そうか、そうだな。だが、他にも意味があるように聞こえるな」

「?」


 ほう、ここまで聞いて何もしない、か。

 なら、


「何をするきだ?」

「何って、私がこの屋敷の頂点に立つんですよ。元より旦那様とはそういう約束を取りつかせてもらいましたから」

「……………どういうことだ?」

「どういうことと言われましても、その言葉の通りですよ」

「?」

「旦那様の財産は全て私に受け継がれるという事ですよ。そして、いつかは旦那様の目標で有られたこの国の王になるというものになるのです」

「!!?」


 その言葉に驚愕した。

 この国の王になる? そんな単純的なことができるのか? それもこんな小さな公爵家が?


「無理に決まっているだろう」

「えぇ、無理ですね。ですが、そのために魔族を利用するのですよ」

「何?」

「えぇ、利用するのです。何もかも全て」

「それはどういうことだ?」

「何のための奴隷だと思っていられるのですか?」

「何?」

「繁殖させ、強くさせ、虐げる。それ以外、魔族、いや亜人に価値はありますかな?」

「……………」

「いいやありますまい。元より、魔族や亜人は我ら人間より下等な存在。いてもいなくても一緒なんですよ。改造し、時には欲のはけ口にする。それの何が悪いのですかな?」

「……………」


 それと、王国反逆には一体、どのような関係がある?

 わたしはそのようなことを思いながらもレオスの事を見つめる。


「だからどうした?」

「ほぅ」

「王国に反逆しようとする者を取り締まらなければいけないのはわたしだって一緒だ」

「ですが、貴女様にそれはできますかな?」

「なに?」

「言ったでしょう? 魔族や亜族なんて嫌でも使えるんですよ。奴隷ですから!!」

「!!?」


 その言葉を聞いてわたしは一つの内容を頭に過らせた。


「もしかして、奴隷の人間を!!」

「えぇ、そうですよ。それも極上の女どもですよ。このような老いぼれさえもかつての若さを取り戻させるほどのね!!」

「っ、外道が!!」


 この男、いや、この屋敷の男どもはそうやって居たのか!!

 今になってこの屋敷が、いや、この家がどれほど腐っていたの知る。


「亜人も魔族も、人間も、どれになれば道具ですから」

「……………」

「言い返さなくてもよろしいですよ。なぜなら、貴女様’ ’ ’もそうですから」

「!!?」


 私が一緒? こんな、愚図や外道とも一緒?

 瞬間、わたしはわたし自身を見直した。魔族が嫌いだった。魔族なんて人でもなかった。魔族だけじゃない。森人族《エルフ》、土人族《ドワーフ》、蜥蜴族リザードマン、獣の耳をはやした人間もどき、亜人共も嫌いでしょうがなかった。人間の形をきちんと持たなかった奴が嫌いでしょうがなかった。

 それに同じ世界にいるということがわたしにとっては吐き気をする。あり得ないほどの吐き気が、これが彼らと同じ?

 いや、違う。

 わたしは、わたしは、


 人間を卑下しない。


 亜人だけだ。そう、人間の形を持っている獣たちのことだ。

 そう、そのはずだ。なのに、なぜ、なぜ、


 これほど苛ついているんだ?

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