第54話 弾丸
人の命は地球より重い、というが実際、そうではない。
ただ人間換算では重いだけだ。
引き金を引いた瞬間、人の命は蝋燭を吹き消すかのように儚く消える。引き金の引く人の妄想がその引き金を重くし、引いた瞬間に体にかかる命の重さという幻想がかかるだけ。
結局はその程度だ。
命には価値はあろうとも、重いわけではない。だから、いとも簡単に消え壊れ溶ける。殺傷力が高ければ、技術が高ければ、人の罪悪感が薄れるかのように、もっともっと、命を溶かす。
戦いに、
ゆっくりと、綺麗に、美しく、消していく。
いとも簡単に。だからこそ、人が人を殺したという実感を深くはせず、人の命は星よりも重くはならない。
勝手になるだけだ。
結局は自己防衛の為の鍵でしかない。
☆
「ふぅ」
軽い息を吐く。
瞬間、口の中から白い湯気のような物が湧き上がり、自身の周りがそれほど冷え込んでいることが分かり始める。
だがこのような状況でありながらも、お相手様は何一つ反応を見せず先ほどから、部屋から出ようともしない。いや、出ないのではなく、出なくても良い、という考えになるとどうだろうか?
そうなると、目標が別のものを先導し行動を行っているのなら?
こう考えると、目標のいるであろう部屋にへと標準を定めている必要なはなくなってしまう。
なら、どこだ?
照準を移動し、目標が何をしようと確かめるが、何一つ可笑しい点はなかった。
一つを除いては、
「…………やはり、いるのか。マディソン」
照準から覗かせていたのは、見知れた顔がそこにはあった。
協力し対立し決別した、彼女の顔が私の照準には覗かせていた。
別段、何をしているのかと憤慨するわけではない。冷笑するわけではない。ただ当たり前のことなのだな、と思ってしまった。
彼女は魔族を許さない。魔族を許せない。だけども、私は魔族であろうともなかろうとも関係ない。そのような、相容れぬ関係であった。
だからこそ、今ここで対立するのも当たり前のことだった。
「許してはくれないよな」
私は今から人を殺すぞ、と強い思いを抱きながら銃口をマディソンにへと向ける。
マディソンへとそのようなことを思いながら、照準をかけ、屋敷の隅々まで確認する。彼女がいる以上、手加減はできない。許せない絶対的な心情を抱いている私たちはほんの少しでも変わってしまうのなら負けてしまう。それなら、負けないためには頑固になるしかなかった。
「…………恨むなら、私を恨んでくれたまえ」
そのようなことを呟きながら私はマディソンから照準を外し、屋敷内を見ていく。
「ん?」
すると、何かに気づく。
人の動きがおかしい。先ほどまできびきびと動いていたはずの屋敷の人たちはどこかマリオネットのような動きをしていた。それも精巧な人間のように機械のように動き始める。
そのような君の悪さというか、変な気分を動かせる。
「…………ん? なんだ?」
一体、何が起こっているのか、そのようなことを思いながら観察するように見始めると、そこには一人の女性を見た。
ただの使用人かと思ったが、何やら違うと私の瞳は鋭い痛みが走る。
なんだと思った瞬間、私の瞳はすでに答えを示していた。
「なんだ、そんなことか」
『嘘』
使用人は丁寧に人の姿を持っていたが、彼女は『魔族』。それもただの魔族ではなかった。強力な力を持っている存在だった。雰囲気は完全に人間のふりをしていたが、私の瞳はそのようなことだけではなく。魔族の彼女はどこか恐怖感を抱いているかのような表情が私の目には見えた。
恐怖感だけではない、彼女の身に纏う傷の跡、尊厳を失わせるような焼き跡も私の瞳は映り込んでいた。
その跡には、心苦しむものがあったが、それ以上に心の奥底から何かが湧き上がるような感覚があった。
「慈悲は、無しか」
そう呟いた瞬間、私の手の甲に仄かに光を宿らせた。
瞬間、私の照準は目標のいる部屋にへと向けられていた。
「…………fire」
私はそういった瞬間、L96A1の引き金を引き、その銃口から一筋の弾丸が飛び出る。私の心の奥底にある人なりの感情を吐き出すように、勢いよくその弾丸は飛び出て、屋敷の壁を貫いた。
「…………何を、した?」
そして、私の感情は徐々に落ち着きがつき始め照準から顔を話す。
ギャアアアァァァ、
すると風に乗った誰かの悲鳴が聞こえ始める。悲鳴が私の耳にへと入り込んだ瞬間、私は一体何をしたのかと理解し始める。
『人を殺した』
今まで人が簡単に死んでいく所を見てきたのに、こう実際に撃ってみると何かが変わる。
そう、何かが変わったような気がした。
引き金を引いた瞬間、私の中から何かが消え去るかのように胸の奥底がすっとなった。だが、その感覚に無意識に恐怖心を覚え、L96A1を持つ腕は震えていた。
「戻ろう」
駄目だ。まだ、生死を確認しなければ、私は戻れない。
人の生死はきちんと私の目で確認しなければ、二次災害が起きてからでは遅い。
だからこそ、この目で、殺した姿を見なければいけなかった。
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