第52話 準備完了

「けど、本当にぃ大丈夫なのかしらぁ?」

「大丈夫ですよ」


 本題を話し終え、Mis.カエロナは私に向かってそのような心配そうな声を上げる。

 だが私とて生半可な気持ちで、物事を見ていない。それに、一つ人を殺してくるんだ。多くの人たちに面を向けて、大きな声で言えるわけがない。正義ぶる必要も無いし、悲しがることも無い。

 人を殺す、この行為は悪には変わりない。だが、たった一人にその悪を押し付けなければいけないというのなら、私はそのような物を受け付けよう。


「では行ってきますので………その子、よろしくお願いしますね」

「………そう、残念だわ」


 Mis.カエロナの不安そうな表情を見せながらも、その手はきちんとボロ布の子の手を握って離そうとはせず、ボロ布の子も布の隙間から見えるその瞳を背中で遮りながら私はそのままギルドの出口へと向かった。


「……これで正しいんだ」


 ギルドを出た私はそのまま、森の方へと向かい、月夜輝く中、懐から地図を取り出しその中を確認する。地図には一つの印が刻まれており、その印には赤い丸で一つの屋敷の敷地を囲うかのように描かれており、その場所はまさに私の今後の目的の場所だった。


「……これを、使うのか」


 私はそう言いながらも私は背中にある大きな袋に触れる。

 大きな黒い袋の中には遠距離狙撃用の銃。いわば、スナイパーライフル、と言うものが入っており、人を殺す道具が挿入されていた。

 別段、抵抗があるわけではない。

 引き金を握ることはどのような人間であろうとも出来ることだった。

 だが今の私に人の命を奪うことができるのだろうか?

 散々、間接的に人の命を奪いながら、8000万人の命を奪っていた私は今からでもその命を切り取る事が、命の灯が吹き消すことができるだろうか?

 深い不安感と疑問を胸の中に潜めながら歩き続ける。

 町の中を抜け、森の中に入っても、私の胸の中にある不安感は拭いきれることはなく。私はもやもや感を抱きながら歩き続いていた。


「もう、ここまで来ていたのか……」


 すると辺りは既に暗い森の中に入りこんでおり、月の光さえも入り込まない森の中では草木も眠るように静かで草木を踏みしめる音は聞こえない。

 まるで、眠る森とはこういう事だろうか? だが夜が深いわけではない。なのになぜかこの森は眠っていた。


「暗いな」


 月も星も何一つ輝かない森の中では、ただ虚無が私の目の前に広がっていた。

 けれどもこうしている暇はなく、私はその足を進める。暗く地図さえも見えないが、行く先は頭の中にあるかのように、その進める足を止めることはない。

 もし、歩を止めてしまったどうなってしまうのかという恐怖感に襲われながらも森の中を進み続ける。山を登り、崖を登り、高い位置へと、遠い場所にへと位置を定める。

 私に経験がなくとも、この体が知っているかのようにその足を進めようとする。

 別におかしいとは思わない。思いたくない。


「ここでいいか」


 そうして目の前に広がる景色を見ながら私は、背中に背負っている黒い袋を床に置きファスナーを開ける。ファスナーを開けるとそこには月の光に当てられ黒い狙撃銃を取り出し、反射するディテールが狙撃銃の姿を月夜の下に現れる。

 初めて触れるはずの目の前の狙撃銃、L96A1をまるで何度も手に触れ使って来たかのように私の身体が次々とL96A1に弾を込め、標準を覗く。


「………こんな感じか」


 私は初めて触るはずのL96A1をまるで手慣れたような手捌きで弾を装填すると、手の中にあるL96A1の見る。

 後世に作られた狙撃銃の一種であるが、私にとっては程遠く関係の無いものだと思われていたが、この手の中にあるものを見てしまうと関係ないとは大口を叩けない。それにどこかで元になるようなものを商売として取り扱っていたかもしれないため、触っていないとは言えなかった。


「行くか」


 手に持ったL96A1を抱きながら、背中に黒い袋を背負うと、高い崖の上をゆっくりと歩き目的の人物がいる屋敷にへと向かい、よりよい狙撃場所に待機する。

 背中に背負っている黒い袋を地面に置き、そのまま、仰向けになりL96A1を置くと、照準にへと覗き込み照準から見える風景は目標がいる屋敷を映し出していた。窓辺から見える豪華な内装が広がっているが、門、屋敷内、あるいは野外にも目標が雇った兵が蔓延っており、屋敷内には執事やメイドたちが慌てたような表情をしながら駆けずり回っていた。


「………」


 だがそのような状況を見ても私自身の感情などを変わらず、ただ静かに照準を覗いていた。

 なぜ、感情が変化をしなかったのか。それはただ単純な事だ。狙撃手と言う存在は一種の狩人だ。もしは釣り人と同じ、ただ長い辛抱が自身の勝負になるからだ。

 だからこそ、ここからは狩人と同じものだった。ただ獲物が来るまで待つ。

 照準を覗き続けながらただ静かに獲物が来ることを待っていた。

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