第51話 相談

 ボロ布の子を落ち着かせると、私はそのまま店主に頭を下げ、店を出るとそのまま、宿にへと向かおうとしたが、今の宿はマディソンに準備されて物で正直、言うともうあの場所に戻れないことを察すると、私は宿にへと戻ろうとする足を止めた。


「………?」


 どうする?

 不思議そうな顔で見つめてくるボロ布の子を傍らに立たせながらも、私はただ茫然として立ちすくむ。

 どうしようか、どうしたものか、必死に考える。思考を巡らせ、宿をどうするものかと考える。他の宿を見つける? だが、先程の肉串でほとんどの金を使ってしまった。なら、野宿をして見せるか? それはあまり推奨したくはない。この子は既に何日も野宿をしている。そんな子供に私は、野宿はさせたくない。例え、野宿と言う行為が慣れてしまった子であろうとも、私はさせたくはない。

 一体、何日、何十日、寒い夜を過ごしていた? 寂しい食事をしてきた? 苦しい生活を送っていた? 怯えたような生活をして、追手にいつ襲われる変わらない恐怖をしてきたこの子に、私の我儘で野宿をさせたくはない。

 この私の我儘が、私の行く道を遮り、葛藤させる。

 だが、それも覚悟して進んだ道だろうと、理性は理性に注意して私自身の事を諫める。

 どうする? どうすればいい?

 徐々に広がっていく葛藤感に私は苦しみながら佇んていると、

 クイッ、


「?」


 横から引っ張られる感覚が私の意識を一瞬にして引きはがす。

 私の意識を引きはがした本人は、キョトンとしたような顔を見せており、私はその表情を見た瞬間、はっとある人の事を思い出す。


「ねぇ」

「?」

「今から言うことは大丈夫?」

「……………」


 私は唐突に思い出したことを言うと、ボロ布の子は私の考えを理解したのかそれとも意図を呼んだのか首を縦に降ると、私は思い出した人物の方にへと向かった。


                 ☆


「Ms.カエロナはいらっしゃいますでしょうか?」


 そうして私が向かった場所はギルドで、受付にいる女性に私は話しかける。


「カエロナさんですか?」

「えぇ、少しお話したいことがありまして」

「お話ししたいこと?」

「えぇ、ですからお会いできないでしょうか?」

「アポイントは?」

「すみませんがとっていません。ですが、可能でしたらお話をしたいです」


 我ながら勝手極まりない内容であったが、こうでもしないと蜘蛛の糸はたれ流れてこない。私はその蜘蛛の糸を握らなくてもよいが、この子だけには仏の蜘蛛の糸を握らせ、上らせたい。

 私は地獄の窯で煮えられる覚悟はできているが、この子にはその必要はない。焼かれるのは私だけでいい。誰かに付き添う必要はないし、枷を掛ける必要はなかった。


「ですが……」


 やはり、駄目か。

 さすがにこのような不審な男には急に出会って話をしてくれとは不作法というものか…………。


「すみませんが、お名前を証明できるものはありますか?」

「名前、ですか……」

「えぇ、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですが……」


 なぜ、と思ったがよくよく考えてみれば自身の名をまだ名乗っていないことを悟ると、私は懐からこの場所で発行したギルドカードを見せる。


「これですか?」

「あ、はい、そうです。では確認しますね……………」


 受付にいる女性はそのまま、私のギルドカードを手に取り、何やらギルドカードを確認するであろう虫眼鏡のような道具を使って確認を取り始める。


「ふむ……ふむ……」


 そして、ギルドカードを見つめる女性を傍らに、私は傍に控えているボロ布の子を見つめるが、さすがにこのような子を連れている人物に誰も近づかないだろう。そのため、私の周りや受付の周りは人が全く近づこうとしなかった。


「はい、もう大丈夫です!」

「? もうですか?」

「はい、ありがとうございました。ご確認いたしました。リンイチロウ様ですね。では少しお待ちください」

「は、はい」


 返されたギルドカードを私はそのまま受け取ると、受付の女性は私の目の前から消え、奥の部屋にへと消えていく。

 こんなにあっさりと許可されるのは少々、不安感が過ってしまうが、これも僥倖と考えれば別にいい物だろう。

 そう考えた私は、ボロ布の子を連れたまま近くにある腰掛にへと座り始める。


「……………」


 夜のギルドの中では少し寂しく、騒がしい喧騒が響き渡る。

 酒の匂いに食事の匂いがギルドの中を包みながら、ギルドの中では昼とは全く変わらない雰囲気が漂い響く。

 まるで時が止まったような感覚がするが、時が止まるという行為はないし、人にそのような行為はできない。進むことができない生物には後に戻る事が出来ないのだから、人間は。


「待ったぁ?」


 すると腰掛で待っていると、受付の方からMis.カエロナが私に向かって歩いてくる。


「あ、報酬を受け取った以来ですから……大体、数時間ぶりですか?」

「いやぁ、二時間ぶりじゃないかしらぁ?」


 まさか、と思いながらも、私はMis.カエロナの細かい時間管理能力に平伏してしまう。

 さすが、多くの冒険者を見てきて、かつ時間管理が大事となる事務職に就いているほどである。


「でぇ、今回はどのような、用件かしらぁ?」

「はい、今回はこの子を預けてもらってもよろしいでしょうか?」

「!! ………何故かしらぁ? 急にそんな事を言うなんて、何か大きな理由がぁ?」


 私がそう言いながら視線を横で座っているボロ布の子にへと向けると、Ms.カエロナは私の自然に続くようにその子のことを見つめる。

 Ms.カエロナはそのことを察すると、バッサリと本題に入る。Ms.カエロナは何か探ろうと、平然とした顔で私のことを見つめてくる。

 私自身、いきなり本題に入ってくれるのなら、こちらとて安心できた。だが、本題に入ってからが真剣にならなければいけない。人と人が商談をする以上、その気を目の前の相手に集中していなければあっという間に相手側に引き込まれてしまう。

 だからこそ、今から始まる本題商談にきちんと目を向け意識を向ける。


「では話そうと思いますが、一つだけ条件があります」

「何かしら?」

「口外はできる限りしてもらいたくは無いですね」

「へぇ、それは何か理由がぁ?」

「えぇ、今から話すことにそのような内容がありまして、他にも大きな声で反応は控えていただけると嬉しいですね」

「………わかったわぁ」


 私の言いたいことを理解したMs.カエロナはそのまま口を閉ざし、私の話を次々と静かに話し出すと、Ms.カエロナは何も言わず首を縦に振ってくれた。

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