第49話 食事
「ここが地図に、書かれていた場所………」
「………」
私は小さなボロ布の子の手を握りながら懐から出した地図を見て、地図に書いてある印の場所に向かったのだが、私の目の前にあったの小さく路地裏に隠れたような洒落たお店だった。
辺りは路地裏故か、誰もおらず、人の気配もあまり感じられなかった。だからと言って人が完全にいないというわけでは無い。道の先には多くの冒険者や住人たちが通り過ぎていく。
「入ってみるか」
だがこうしている間にも時間は徐々に過ぎていき、生を無駄にしていく。
目の前にある店の扉を開き、カランカラン、とハイカラな鈴の音を聞きながら店の中にへと入っていく。
「これは………驚いた」
目の前に広がるのは、店の外装からは思いつかないほどの綺麗なテーブルやランプと言った家具や汚れ一つない皿などの食器類と言ったものが並んでいた。
さすがのその状況に私は戸惑っていると、店主は店の奥から出てきて、
「おぉ、もう来てくださって、そのような場所に居るのもなんでしょう。ほら、ここにお座りになられて。御連れの方も」
と、本格的なエスコートまでと行かなかったが、優しく、テーブルの前に置かれている椅子を引き手を椅子にへと差し出す。
「では行きましょうか」
私は手を握っているボロ布の子にへと、私がエスコートするように、テーブルへと案内し、席にへと座らせる。
椅子に座ったボロ布の子はどこか驚いたような表情を見せていたがボロ布の子はそわそわとしていたが、私が短く「大丈夫」というとこの子の視線は私から店の内装へとゆっくりと移った。
よかった。
そのような事を内心、安堵しながら思っていると、静かに私は食事が出るまで待っていた。
食事が来るまでの時間は長く、私とこの子の辺りは静かな空気が流れる。店の中に貼る厨房からはジュー、と焼かれる音やトントン、と軽い食材を切る音が店内にへと鳴り響く、香しい匂いが店内に広がり始める。
「………わぁ」
すると、店の中に広がる芳醇な香りが満ちると、内装を見続けていたボロ布の子は小さく感動しているような声を上げる。
「もうすぐかな?」
そのような様子を見ていた私は、厨房の方へとちらり、と見て料理の完成を待つ。
料理はまだ、中盤に差し掛かっていたようで、真剣な表情で店主は料理にへと向き合っていた。さすがに年の功か、彼の表情は長い間、料理と言うものにきちんと目を向けてきた男性だと私は判断する。
年寄り通し、何かに惹かれる事でもあるのだろうかと思ってしまう程、私は彼の料理への情熱を感じ取った。
調理の音はまるで、音色を奏でるオーケストラかのように響く。かつて独逸の軍部の方に誘われたオペラのような、それとも、ウィーンのオーケストラだろうか。結局の所、私の耳にはそのような音色に感じられた。
「美しい………」
「?」
「あぁ、気にしないで」
と、いけないいけない。つい、私は呟いた口を防ぎながらボロ布の子を話しかけてしまう。
この料理のをする音は美しいものだ。洗練された匠な技の数々に、経験がその調理の音から語り変える。だが調理は音楽では無い。例え、経験が調理の音色として語り掛けても、それが料理に反映されるとは思えない。
よくいるだろう、調理過程が美しくできた料理がとてつもなく美しても、見栄えだけでは人間の腹は膨れはしない。美術で腹が膨れたら、戦争で美術品を持ち込んだ方が兵士の腹は満足するというもの、この時点であの英仏が独に負けるわけが無い。
「お待たせしました」
お、来たか。
厨房から料理を皿に乗せ、その料理を持ってきた店主は私のボロ布の子の目の前にその料理を置いていく。
「これは、また………」
目の前に置かれたのは、私の知っている優美の料理の数々とは違い、懐かしいボリュームのある料理の数々だった。
大きな肉に、小さな野菜。スープには荒く切られた野菜の数々に、鼻腔擽るソースは、更に空腹感を与え、ボロ布の子の口からは小さく涎を垂らしている。さすがにこの食欲を沸かせそうな料理の数々を前にしたら、どのような人間でも腹をすかしてしまうという物だろう。
「じゃ、存分に飲み食いしてくれや! お替わりもあるからな」
店主は元気よくそう言うと、私たちの前から消え、厨房の方へと戻り始める。
「………食べましょうか」
私がそう言うと、その子はコクン、と首を落とし、皿の上に載っている料理にへと手を伸ばす。皿の上に載っている大きな骨付き肉を取ると、そのまま頬張り始める。
頬張った瞬間、この子は喜んでいるような姿を見せながら必死に料理にへとしゃぶりつき始め、私はその様子を見つめていると、手前に置かれているフォークとナイフを取り、私も食事を始める。
「ん、旨い」
出された料理を口の中にへと入れ、噛みしめると、料理の香ばしい香りや舌に響く重厚な旨味が口の中へと広がり、口内は一瞬にして幸福感に満たされる。
一度満たされた幸福感は、あっという間に次から次へと満たされたいという欲望が沸き上がり、料理を食べる手は早くなる。
そして一度、食べ始めてしまうとその手は早くなり、徐々に目の前に置かれていた料理の山は減っていき、完全に料理の山々が消えた時には私たちのお腹は満たされ気が休まるかのようにナプキンで口を拭う。
「シェフ?」
「………もしかして、俺の事かい?」
私は食べ終わった皿の片付けに来た店主に話しかける。
だが店主は最初、反応しなかったが、店主は私の視線を感じて振り返って話しかけてくる。
「えぇ、それともオーナーともいえばいいのでしょうか?」
「いや、良いよ。普通にガルバンって言ってくれよ」
「そうですか。では、オーナーガルバン、と呼ばせていただきますよ」
「いやいや、やめてくれよ。そんな呼び方をするのなら、マスターって言ってくれよ」
「ふむ、では、マスター。今回の料理、美味しかったです」
「………」
うん? なぜ、黙り込んでしまったのか。
目の前に居るはずのマスターは、なぜか固まったまま動かない。
「どうかしましたか?」
「いや、そんなに美味しい、と言われたのが久しぶりでして」
「? 何ででしょうか?」
「いや、店の場所が悪いのか、人に知られることがあまりないんですよ。だから、出店を出してなんとかやりくりしている感じでねぇ」
「………はぁ、それは心中お察しいたします」
だが言われてみるとそうかもしれない。この店は路地裏の中にある。有名な食事処は大抵、客引きが大いに可能な場所とは言えないが、客が一人でも来ないと言わけでは無いだろうに、なぜだ?
「それに、最近、地上げ屋に目を付けられまして、経営が火の車なんですよ」
「地上げ?」
私はその言葉を着た瞬間、首を傾げた。
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