第48話 生食
「大丈夫か?」
そして、私は先程の店主から地図を貰うと、置いてきたボロ布の子がいる路地裏へと入り、眠っていたその子の場所にへと付くと、そこには先程と同じように私が被せたボロ布に包まれ、廃材の上に座っていたボロ布の子を見た。
「………」
ボロ布の子は丁度目覚めており、その深く霞んだような瞳で私のことを見つめてくる。その瞳は、まるで、大丈夫と言わんばかりに、
カラン、
「!!」
だが、私の胸の中にあった安堵感はすぐさまに消え、ボロ布の子を庇うかのように腕を伸ばしいつでも懐から武器を出せる様に準備をした。
路地裏の奥から鉄を転がしたような軽い音が反響し、私の視線は路地裏の奥へと移り、
「あぁ? おめぇ、なにをしているぅ?」
すると、路地裏の奥から一つの人影が見え、私の前に現れる。
その影は徐々に人の形へとなっていき、一人のやつれた中年男性になる。
「何者です?」
そのような彼に対して私は威嚇するように、問いかける。
「あぁ?」
すると、そのやつれた中年男性は、酒臭い臭いを放ちながら大きな声で返事をし始める。
それにしても、このような昼間に酒を飲むなんて………前にいた時は、酒と言うものは貴重品という事で重宝されていたし、何か国では禁止もされていた。だからこそ、多くの人や官僚であさえも昼から酒を飲もうとはしなかったし、飲んだ瞬間、取り締まられていた。
いや、単に私が酒が苦手としているからだろうか?
酒と言う存在は良くともなく、以前の私の人生を狂わせたから? そのような事を考えてしまう。目の前に佇んでいる彼を見て、私は密かにそのような事を思いながら懐にすぐさまグロック19を出せるように、グロック19の取っ手に既に手を付ける。
「おまぇもぉ、ばかにするのかぁ?」
だが相手の男性にはよろよろと涎を垂らしながら、私に向かってよろよろと近づいてくる。陰に隠れた表情は徐々に見え始め、焦点の会わない視点、ぼろぼろな服。蠅や虱がたかっていた頭は、彼がここの路地裏に住んでいる貧困層の住人ということが一目で分かる。
「!?」
その姿を見た私は、グロック19を取り出そうとしたその手を止め、彼を眺めてしまう。かつて、あの世界で嫌という程、見かけたこともあるその姿に私は彼を重ね合わせてしまい攻撃をしようとするその手を止めてしまう。
けれども私がその手を止めていようとも、彼は徐々に私の方へと向かってくる。
「おまぇもぉ、おれのことをぉ、ばかにするのかぁ!?」
「!!」
っ、少し遅れた!
男性はそう言いながら手に持った酒瓶を振り上げると、私は手に持っていたグロック19を抜きそびれ、彼の攻撃をそのまま受けようとする形になる。
さすがにもう駄目だ、と思った瞬間、男性の振るっていた酒瓶は空を行きレンガ造りの壁にぶつかり、そのまま、ガシャンと大きな音を鳴らしながら男性の持っていた酒瓶は粉々に砕け散る。
「……何が?」
そのまま地面に倒れている男性を見た私は、じっ、と静かに眺めているとぐぅぐぅ、と大きな鼾を上げながら眠っていた。
先ほどまでの殺伐とした空気からまったくの無の空気。
まるで夢のような一時を得た、私はその光景に半ば呆然としながら彼の事を見ていた。先程まで手に持っていた肉串を地面にへと落としてしまい、肉串のかぐわしい香りが私の鼻腔を微かに通り過ぎた瞬間、我に返り、地面に落ちた肉串を取る。
「あ、あぁ……やってしまった」
だが私が手に取った時には遅く、ほとんどの肉が先程の酒瓶に入っていた残りの酒が掛かっており、肉全体に地面についていた埃や砂、ごみなどがたくさんついていた。
これでは食べられないと思い、どうしようかと考えた瞬間。
もしゃもしゃ、
「うん? ………………………えぇ!?」
私の後ろにいたはずの、ボロ布の子は私の手の中にある肉串を頬張っており、もしゃもしゃと可愛らしい咀嚼音を流しながら、次々と私の手の中にある肉串を食べていく。
「こ、こら、食べてはいけません!」
私はそう言いながら、この子が食べている肉串を取り上げると、ボロ布の子はぴょんぴょんと跳びながら、私が持っている肉串を取ろうとする。
だがどれほど、跳んで見せてもその小さな手は天近くにある肉串には届かず、天と地の距離であったが、それでもなおこの子は必死に取ろうとする跳んで見せるが届くはずもない。
「そんなに食べたいのかな? これ」
流石に戦場のど真ん中になると食事に制限かかり、埃や土がついていようとも食べるのが普通だが、こちらの世界でも見るのか。
すると、胸の奥はキュ、と閉められるような感覚が迫るが私は必死にその感覚を耐え、ボロ布の子のことを静かに眺めていた。
「駄目です。食べさせることはできません! それでも食べるということなら私も食べます!」
そう言いながら私は手に持っていた肉串を口の中にへと入れ、肉を頬張り始める。
品と埃、そしてほんの少しの酒の味が本来の肉の味が消え、口の中では何とも言えようがない不味い風味が口の中に広がる。この味わいは、舌の肥えた私にとっては『不味い』と言える代物であったが、最低限の栄養が摂取されると考えると私は胸の中で苦しくなっていく。
なぜなら、それは『生きるために必要な食事』と考えると、私は無意識にも手に取っていた肉串を嚙み締める。
ゴムのような食感に、風味が悪い味。人の食べる物なら劣悪、と言えるものだったが、これをボロ布の子は食べており、私の見えない人間はこのような食事をしている。そう考えると、彼らほど苦と思えず、私はそのまま砂と埃に塗れた肉串を頬張った。
「これでも、食べるかい?」
私はボロ布の子にそう言いながら串に刺さっていた最後の肉をその子に見せると、その子はそのまま肉に噛みつき頬張った。
その子が行っていた食事と言うものは、食事と言えるものと程遠く、生きるために精一杯の力を与えるような食事だった。
「………お疲れ様です。少し歩けますよね。これよりおいしいご飯、たくさん食べましょう」
私はそう言うと、ボロ布の子の小さく細い木の枝のような手を掴むと、路地裏を抜け出すように歩き出した。
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