第45話 対策
マディソンから別れ私は手の中に抱いているボロ布の子と一緒に森の中を歩いていた。
「はぁ、はぁ、」
さすがに子を抱きながらあのような派手な動きをしてしまった以上、無駄に体力を使い疲労が溜まってしまった。
マディソンとの対立は予想はしていたが、体力の消費については考えていなかった。このことを考えていなかったせいで無駄に消費を速めてしまった。
荒い息を吐きながら、ゆっくりとした足取りを取り村にへと向かう。
森の木々の隙間から眩しい光が差し込むと、あぁ、やっと着いたか、という安堵の気持ちが沸き上がる。
「着いた……」
目の前に広がる多くの人たちの行き来を見ると、安堵ゆえかふとそんな言葉が出てしまう。
まるで危険な狩りをしてきたような気分だった。
「歩ける?」
村に到着したのを見ると、私は懐に抱えたボロ布の子に話しかけてみるが、ボロ布の子は首を小さく横に振り、私の質問に拒絶の意思を示す。
「だろうな……」
あのようなことがあったのだ。そういとも簡単にぴょんぴょん歩けるようになるのは難しい。
もしこれでぴょんぴょんウサギのように歩けるのは、人間味が破綻した異常者か回復力の高い人種だろう。だが、懐に抱えているこの子は数分数時間、又は数日をその細い足で走り続けたのだろうではないのだろうか? そのような足では回復力があるとは言えないし、ましてや数日の逃亡生活だ。碌な食事も取っていないだろう。回復力が当然得られるとは思っていない。
「………」
だが可哀そうだと思わない。
私には無慈悲にもそのような姿を見てもなお、可哀そうだと思わなかった。
もしこれで可哀そうだと思ってしまうのなら、この子に尊厳が無くなる。私はこの子に尊厳を持って生きてもらいた。そのために、誰かに同情されることなく生きてほしい。
その道は苦しく、時には間違いを犯すような道であろうが、私はそう願う。
一人の人間として。
「しょうがない。なら行くか」
間違いが間違いと言える人間になってほしいから。
私はボロ布の子を抱えながら足を進める。
宿に? いいや、先に行く場所は決まっている。
その場所はギルドだ。依頼報酬を貰わなければ、この子の食べさせるお金が必要だ。ましてやここにきて無一文の私が唯一、お金を入手する方法なのだ。今ここで、得とかなければ後々難しいと感じてしまう。故に早くでもこの世界の貨幣を手に入れなければ。
そう決めると私の歩は自然にギルドのあるほうへと向かう。
グゥゥ、
するとどこか腹の虫が鳴り響く。
「お腹が減ったのかい?」
腹の虫を鳴らした本人を私は見つけると、私はその者に声をかける。
声をかける、と言ってもその鳴らした本人は私の腕の中におり、この人が騒がしい中、活気に怯えながらも人が生み出したその美味しそうな匂いに影響されたのだろうか、この子のから空腹を合図する音が鳴り響く。
ブンブン、と首を横に振っていたけど、腹の虫は鳴りやまない。
「少し我慢しててくれないか? もう少しすれば美味しいご飯がたんまり食べれるから」
「………」
私はそう言うと、この子を抱えながらその場を走り出す。
向かう場所はギルド。
そこで今回の報酬を貰い次第、この子に美味しいご飯を食べさせることが今の私の目指すべき目標。ほんの生きるのに必要な小さな目標でも十分と言えるのだから。今はこうやって必死になっても私自身何も罰を受けないのではないかと思う。
例え、私自身にバツが下っても、この子にはなんも非はない。生きるのに、罪があるというのなら私はそれを許さない。存在することが悪というなら他者には殺させない。
生きること、存在すること、存命すること。
このことらが悪というのなら私はその言葉たちお完全に否定して見せよう。
生ある生き様は、否定するものではない。ほんの数センチの価値があるからこそ生きていいのだ。ましてや生きることは積みんのではないのだから。生命が生まれて最初に持つ権能なのだから。
だからこそ、
「生きてほしい」
数センチの命。その命を燃やす瞬間が人間として最も輝くのだから。
偽善であろうとも、ただの悪の援助でもいい。今の私は悪で良い。
ほんの少しの可能性に浸りたいから。
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