第44話 離反

 シュ~、


 銃口から硝煙の香りが漏れ出し、銃弾はマディソンの顔の遠い後ろに落ちていた。


「…………」

「なっ」


 マディソンは驚いたような声を上げながら私の顔を見ていた。

 いや、私の顔ではなく、私の手に持っているグロック19だった。

 黒い艶や滑らかなボディ、そして解き放たれた一発の弾丸。

 これは文明時代が一世代遅れているこの国にとっては驚くものであって、恐ろしい物であったのだろう。

 そして、マディソンに放たれたその一発の弾丸は外れたのではない。外したのだ。


「………これでも死にたいと?」

「………」


 私はそう静かに言いながらも手に持ったグロック19をさらに突き付ける。


「………今度は外すつもりはないですよ?」


 かちゃりと、鳴らしながら私はマディソンの頭にグロック19を突き付ける。

 目測1メートル近く、この距離から放たれる弾丸は相当な運動神経の持ち主でない限り避けられない。

 例えこの弾丸がよけられたところで、彼女には反撃の手段はすぐさま行えるとは思わない。これはそれも通用してくる。


「で? どうするつもりなのです? Run or Die?」


 静かに放つ冷たい言葉の弾丸。

 それは、言葉の刃よりは鋭利ではなく、ただ衝撃が強いだけのもの。

 けれども、それだけでもマディソンにとっては十分すぎる脅しなのだろう。怯える顔で見つめてくる彼女の顔は最初に会った勇ましい姿は一切なかった。


「………逃げろ」

「………」


 私はそのような彼女の姿を見ていると、この姿さすがに惨めに見えてきてしょうがなかった。そして、この状況を第三者の目があれば私も惨めに見える対象にして見られない。


「生きたければ逃げろ」


 目を背け、彼女の姿を背中を向け、森の中を進む。


「それでいいのか!」

「………」

「それでいいのかと言っているんだ!」


 静かに黙り込む私に対してマディソンは大きな声で私に向けて語り変えてくる。

 その声は森の中へとひろあっ定期先ほどの静けさがさらに強くなる。


「えぇ、いいですよ」


 その言葉は決別の言葉で、離反の言葉。

 彼女との別れの言葉を言い放つと私は深い森の中へと消えていった。


「クソが!」


 森の中には、マディソンの荒々しい声が悔しそうに響き、私はそのような声を静かに聞き村にへと歩を進めた。

 これが例え、世界の悪として多くの者たちから言われるのなら、私は別に良い。ただ、私には目の前の『無意識の悪意』を見逃すことはできなかったのだから。それが社会だから世界がそうだから許されるわけではない。誰かがそれを止めなければいけないのだから。

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