第43話 対立
「本当にか」
「えぇ」
例えどのような理由であろうとも今の私には関係の無い事なので。
「魔族は、人類の敵だぞ!?」
「それがどのような理由でしょうか?」
「魔族は未だに我ら人間と戦っている種族だ。奴らは我々の事を攫い犯し、殺す。外道の種だ! 彼奴らは『悪』なのだ!」
「………」
………あぁ、………この世界でもそのような言葉を聞くのか?
胸の奥底で、かつての記憶が蘇る。
『米国は敵だ。奴らに負ければ家族が、仲間が、友人が、踏みつぶされ蹂躙されるぞ!』
何が、『正義』だ。こんな正義の押し付け合い。意味がない。
『悪』の押し付け合い、あの戦争にはあのような思想を持ち、いや、宗教観を持ち込んだゆえに戦いは酷くなった。
だからこそ、人の感情に『悪意』を持ち込んではいけない。望んじゃいけない。押し付けちゃいけない。出なければ……ただ苦しくなるだけだ。悲しくなるだけだ。
「………ですから?」
「!!」
あぁ、駄目だ。この感情は、人に見せては、抑えが持たないだろう。
表情が声音が一瞬で変わる。その言葉に嫌悪するように、
「ですから、何なんです?」
「な、何がだ?」
「そのようなことを言って、何なんです? ただ姿が違うから、ただ力が違うから、そのようなことを言うのですか?」
くだらない。
「容姿が違うから、性能が違うから、そうやって、妬んで羨んで敵という形をとるのですか?」
「なっ」
「そうなのですか?」
「……だから、どうなんだ?」
「私には貴女の考えている思想概念は、興味がない。ですけど、貴女がそのような考えをし続けるのでしたら、貴女は私の『敵』だ」
「………は?」
呆気ない声で、私に向かって放たれたその短い言葉は鋭い短剣の様に深く私の体に突き刺さる。
ドロリ、と何か漏れ出すように私の内側で何かが漏れ出す。
まるで内側から刺され、内側に落ちるかのように、奇妙な感覚で気持ち悪い触感だった。
「その言葉を再び言ってみろ、次は無い」
「ま、待て!!」
「待ちません。必要ないことです」
「なら、その子供を置いていけ」
「断ります」
マディソンのその言葉に私は強く拒否のその言葉を吐く。
これ以上、話す気力がなかった。というか、放つつもりはなかった。
「なぜだ?」
「必要ないからですよ」
「必要ない?」
「えぇ、必要ないです。この子を渡す必要がないのですよ」
「なぜ?」
あぁ、この問答は何度目だ?
これ以上、私の中身を荒らす気か?
彼女はそれほど、私の地雷を踏み抜きたいのか。
「なぜ、なぜ、なぜ、少しは自身の頭の考えるべきです。Ms.マディソン」
私はそう言ってその場から出ていこうとした瞬間、「待てっ!」と背後から声がかかる。
「待ちませんよ」
「ちっ!」
瞬間、がきんっという音と共に私の体に衝撃が掛かる。
「一体、なんだ、それは」
「先ほども言いました。少しは自身の頭で考えるべきですよ?」
彼女の剣の刃先には私が持っていたグロック19があり、見事にその銃身がマディソンが降ったその凶刃を受け止めていた。
私はその様子を横目で確かめると、そのまま、蹴りを入れるように足を振ると、その蹴りは見事にマディソンの身に纏っていた硬い鎧によって防がれる。足にほのかに鎧の感触を残しながらも、大きく彼女の体を飛ばすと、私はそのまま、銃のロックを解除し、流れるように彼女に向かって銃口を向ける。
「………Ms? 貴女が望むのはこれなのか知りませんが、もし私の邪魔をするのであれば、今は違うでしょう?」
静かに放つ私の言葉はマディソンのチェス盤にチェックメイトというように、銃口を向け続ける。
例え
「
「………」
「でなければ殺す」
そういって引き金に指をかける。
ほんの少しでも力を入れてしまえばその引き金は引かれマディソンの体が鎧を貫き、彼女の体に弾丸が入り込むだろう。
私がどれほど、嫌という重い感情で有ろうとこの銃は引き金を引くだけで人は死ぬ。結果は重くなる。どんなに重かろうが軽かろうが、結果は何れにして等しくなる。
だからこそ、この引き金を引かせないでくれ。
今の私にはその重さは耐えられない。
「去れ、というのか」
「えぇ」
「去らなければ殺す、と?」
「えぇ」
「なら死ぬ方を選ぶ」
あぁ、………………………嫌だ。その頑固さが、私の事を傷つける。
なぜ、こう一度決めた者たちはこう、頑固なんだ。もっと、有意義に使ってほしいのに、なんで?
もっと人生は広いのに、こう若い人ほどいとも簡単に捨てに行く。
「そうですか」
けど今の私には、それはない。
今の私にはこの引き金は軽い。いとも簡単に命を吹き消す。銃口から火煙が出てきた瞬間、消してしまう。
「では死んでください」
かちゃり、そのような軽い音が鳴りその銃口がマディソンの胸元めがけて構える。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、
心拍数が早くなる。心臓の鼓動が体の中から大きく聞こえる。
パンッ、
そして引き金を引いた。
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