第42話 見つかる
ボロ布の子をこの腕で抱きながらも私は、疾風の如き、とは言えないが、まぁ、安定した人間らしい速度で森の中を走り抜く。
「気持ち悪くなったらすぐに言ってくださいよ?」
「!! ………!! ……」
私がこの深い森の中を走っている理由は、それはただ一つ。
この場所を出る為である。
訳アリの子供を保護したが、あのマディソンが居られると少々、監視させられているのか子供の事も無駄に調べてしまうのではないかと思い、結果、動きづらいと思ってしまったからである。
まぁ、結局は現在進行形でマディソンから逃げている、という言葉が正しいのだろう。うん。
「大丈夫ですか?」
「………!! ……!!」
腕の中で抱いているボロ布の子供を見ていると、一体、何に驚いているのか時々、びっくりした表情をボロ布の隙間から見せており、必死に大きな声を出さないようにその細い腕で口を防いでいた。
「本当に大丈夫ですか?」
さすがにそう驚かれると、心配になってきてボロ布の子に話しかけてみるが、ボロ布の子は首を横に振っていた。
それは、一体、どういう意味なのだろうか?
大丈夫、もしかして、大丈夫じゃない? 一体、どっちが正しいのだろうか?
心配になってきた私は、早めていたその足を止め、腕に抱いていたボロ布の子を見ると、やっと止まってくれたのか、静かに深呼吸する姿が私には見えていた。
「………」
息を整えられたのか、首をブンブン、と縦に振るボロ布の子を顔を見ると、私は先ほどまでのこの子の異常な姿に慌てていたが当の本人は、大丈夫というように首を振っていたことから安堵の息が漏れる。
「では、行きますよ?」
コクン、と揺れる首を見ると私は再びその場を走り出し、この森の出口へと向かった。
「あと、もう少しで出口ですからね」
「何をそんなに急いでいる?」
「!!?」
それから数分だ経ち、あともう少しで出口が見える、と思った瞬間、背後から声がかかる。
腕に抱えていたボロ布の子を脇に挟むように、まるで、大きな荷物を持ち運ぶように持ち、ゆっくりと背後を見る。
「………何がですか? マディソン」
疑いを持たれない様に、背後にいる騎士、マディソンに話しかけると彼女は私のことをまるで敵を見るかのように敵意が籠った瞳で見ていた。
「まずは、私の質問を答えろ」
マディソンのその言葉には怒気を纏っており、ピリピリと肌に照り付けるように私に向かって威圧をかけてくる。
「急いでいる理由ですか? 聞きたいです?」
「あぁ、聞きたいな。ついでにその脇に抱えているものも何か聞きたいな」
「………」
やばいな。そう内心で呟きながらも、表情を一つも変えず、マディソンの顔を見ていると、マディソンは鋭い視線を向けながら私のことを見てくる。
「早く、言え」
カチャリ、と腰元からかけていた剣を引き抜くと、マディソンは静かに私に向かって剣を向ける。
「言わなければいけないですか?」
「あぁ」
思考を巡る。この状況の打破、それだけが今の私にできることだった。
「まず、急いでいた理由ですが依頼が終わったので薬草の品質が落ちる前に納品しようかなと」
「ほう、ならその脇に抱えているものは?」
「これは、落ちていたんですよ」
「何?」
「えぇ、落ちていたんです。この森に、ですから近くの村の方が落としたのかなと思いまして広いお送りしようかなと思いまして」
「……ふむ、そうか」
「えぇ」
私は適当に誤魔化すかのように、マディソンに向かってそう言うと、彼女は鋭い視線と鋭い剣で私のことを見つめてくる。
まるでその視線は私のことを疑い殺すかのような剣のような鋭い視線。それが彼女の視線だった。
「だが、こんな話を聞いたんだ」
「?」
「ここの森はよく獣が出るから周囲の村民は入り込んだりしない、とな」
「……」
しまった。
この場所、この依頼、そして、この状況自体、彼女の思う壺だった。
心の中で悪態をつきながらも、表情を変えず、ただ静かに彼女の顔を見ていた。
マディソンの顔は、獲物を追い込む狩人のようなにったりとした笑みで私のことを見ていたが、私は、そのような彼女の表情を見てやられた、という表情をひた隠しすことしかできなかった。
「そして、もう一つ、いいことを教えてやろうか」
「?」
「最近、ここの近くの領主が一人の奴隷を、『捕虜』を逃がしてしまったらしい」
「!!」
私は彼女の言葉に驚いたが、私以上に驚いていたのは脇に抱えたボロ布の子だった。
びくり、と震えるとぶるぶる、と小刻みに震え動き続けている。
となると、この子の持ち主はその領主、ということだろうか? だが、情報が足りない、彼女が剣を振り下ろす前にできる限り彼女の口から情報を引き出さなければいけない。
「それが一体、どのようなことでしょうか?」
「わからないか?」
「?」
「そのお前が持っている奴がそうなんだよ」
その彼女は脇に抱えたボロ布の子に剣を向けながら話すが私は何一つ表情を変えず返事を返す。
「はて、それはどのような確証が?」
「……まだしらばっくれるか」
「えぇ、これは『落とし物』です」
「あぁ、それならもう一つ言ってやる。どうやら、その捕虜は『魔族』らしい」
「ほぅ、そうですか」
魔族? なんだそれは? という気持ちを抑えながらも、私はマディソンの話を聞き続ける。
「そして、そいつから『魔族』の魔力を感じる」
「はて、それはどういういことでしょう?」
「言わなければ分からないのか」
「えぇ」
私はそう言いながらさらに火に油を注ぐ化のようにマディソンのことを挑発する。これは相手にさらに情報を喋らせる方法の一種なのだが、危険がつきものの技だ。
それも相手は剣をすでに抜いている。それが何よりも怖い。
「……答えるつもりはないのか?」
「まず、何に答えたほうがいいのでしょうね?」
「ちっ」
「……」
話せ、話せ、と挑発するようにマディソンのことを見つめると、マディソンはいらいらとした顔を私に見せつける。
「お前が持っているのは、魔族の小僧だ!」
「……ですから?」
「…………は?」
「ですから、なんなのです?」
私は彼女の言うことを無視しながらも、さらに彼女から有益な情報を出させるために再び疑問の言葉を投下する。
今、私が必要としているのはそのような言葉ではない。
この子は一体、どこのものか、だ。それ以外の情報は切り捨てる。
余計の話など無視をして、余計な内容を切り捨てて、余計な情報を破棄して、ただ彼女の口から有益な情報を手に入れる。
「ですから? だと」
「えぇ、ですから?」
「お前は、魔族とはいったい、何だと思っているのか分からないのか?」
「えぇ、わかりませんよ」
私は彼女の話無視するようにただ淡々と口を動かした。
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