第41話 ワケ


「ごめん、ごめん」

「……………」


 ただ何に対して謝っているのかさえも分からなくなってくるほど、私はその自傷心の言葉を吐き続けながらただ静かにボロ布の子の身体を抱いていると、ボロ布のその子は、プルプルと足を震わせながら私に対して体を寄りかからせる。


「……………大丈夫?」


 ふと漏れたそのような言葉は、ボロ布の子に対して突き付けられその子は小さくその首を横に振る。


「……そう」


 私はそう言うと、ボロ布のその子を体を優しく抱きかかえる。


「?」


 ボロ布のその子は、私の行っている行動に、不思議そうな顔を向けながらじっと見つめてくる。


「なにかな?」


 一応、私はそう問うてみてみるがその子は何も答えない。

 それはそうだ。先ほどまで言葉よりも先に体が動いていた子だ。理性的と言うよりは野性的な子であるために、私の問いに答えられるはずがない。

 その子の必至な行動に私は静かに眺めていると、その子が一体、何を言っているのかわかってき始める。


「君を保護、したいと思っている」

「!!」


 私の言葉を聞くとそのボロ布の子は急に抵抗し始める。

 急な抵抗に私はあっという間にボロ布の子の体を手を放してしまうと、ボロ布の子はまるで猫のようにひらり、と態勢を整え、地面に足を付ける。

 足を付けた瞬間、すぐさま私から距離を置き私の事を見てくる。


「な、なぜ!?」


 私は急に暴れ始めるボロ布の子に対して驚くが、その意図が分からなかった。

 意味がある。それ自体、あるということは分かっているが深い理由が私にはわからなかった。


「!!!!」


 ボロ布の子は私の言葉など聞きもせずただ必死に抵抗するだけだった。


「なぜだ……なぜなのだ?」


 暴れるその子を眺めながら、私は葛藤しているととあるものが私の瞳の中に入ってくる。


「これなのか?」


 私の瞳に入ったの、ボロ布の子の肌に浮かび上がる青い痣だった。

 ボロ布の間から漏れ出すその細い腕は、赤黒い痣や青い痣などが垣間見え、私はそれを見た瞬間、私の中で何かがそうだったのかという結論が出てくる。


「……虐待、か」

「!!」


 ボロ布の子は私のその言葉に反応したように、ピクリ、と動きを止める。

 そうか、と私は胸の中でそう勝手に納得すると、抵抗するボロ布の子の体から手を離す。

 虐待、……あちらの世界でもよく見られたものだが、こちらの世界でも当たり前のように行われる行為だった。人のエゴが人に向けられた結果の末路だった。


「……そうか、そんなことが……」


 私は同情するかのような顔でボロ布の子の方を見るけれど、私自身は真に同情はしていない。彼らは同情してほしいものもいるだろうし同情してほしくはない人もいる。それが彼らなのだ。

 複雑の体と心を持ち、人の事を簡単に信用しない。

 人に対して優しくされなかった結果、優しくなれなかった成れの果てになったものも私が会って来た中ではいた。

 だからこそ、私は彼らに対して同情はしない。


「逃げ出したんだね?」

「……」


 私がボロ布の子に向かってそう話しかけてみるが、とうの本人は威嚇するように私の事を見てくる。


「そうか、別に君の事を君の持ち主へと渡すつもりはない」

「……?」

「逆に私は、君の事を出来る限り助けたい」

「?」


 別段、正義の味方になりたいわけではない。

 己の自己欺瞞の為、自己満足の為、だと言ってもらえた方が私には楽になるのだ。

 かつての世界で起こした私自身の罪を引きずっている私には優しい言葉も、猫なで声などのようなものなどはいらない。


「逃げたいのだろう? なら協力させてくれ」

「………」


 ボロ布の子は理解していないと思っていたのだが、私が話し続けていると徐々に何か理解しているかのような表情を見せてくる。

 だがどちらにしても、急にこのような提案をされても怪しい人は怪しい人。どのような心優しい人であろうともこのような行為をされてしまえば、固定された印象は変わらない。

 だからこそ、


「私は君の持ち主だった人を殺す」

「!!?」


 私の言葉にボロ布の子は驚いた表情をボロ布の隙間から垣間見えさせる。

 だが今の私に持っている交渉条件カードはこれぐらいしかない。他にも思いつくものがあったが、その中でもより強い交渉条件はこれぐらいしかなかった。

 ゆえに、逃げる前に私は素早くこの交渉条件を提示して飲み込ませようとする。


「それだけでは無い。他にも君を自由にさせるための手続きをしよう」

「……」

「まぁ、私自身、まだこちらの世界に来たばかりだから、少し心配する点があるかもしれないがその所はできる限り努力するべきだから、その点は安心してほしい」


 何というべきか、自ら言う言葉に対して自らが傷ついてしまったが、私はその言葉に嘘偽りはない。

 ざぁ、と拭き始める風をこの体で受け入れながらボロ布の子の返答を待つ。


「……ぃ………ょ」

「………そうか、わかった」


 小さく語るボロ布の子をを見て、その回答はうまく聞き取れなかったが私はその子の口から確かに「いいよ」という口の動きを見ると、私はその了承を承り、その子に近づく。

 びくりと跳ねるその子に対して「大丈夫」と短く言いながらボロ布の子供を優しく持ち上げ、腕の中で丁寧に抱き上げた。


「あと、すまない」

「?」


 私はボロ布の子を抱き上げると、驚かせないように丁寧に又は静かに、そよ風の様にその子に話しかける。


「少々、乗り心地は悪いぞ?」

「????」


 そう言い切ると、ボロ布の子を抱きながらも急に私は森の中を走りだした。

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