第38話 不満
クエストの受注を受け、マディソンと共に私はクエスト発注先の森へと向かっていたが、正直言うと気まずくてしょうがなかった。
警戒している、が、それよりも気まずさの方が強く、神経が無駄に削り取られるような気がした。
「……あ、えっと、マディソン、さん?」
「なんだ?」
「なぜ、そんなに不服そうな表情をしているのでしょうか?」
「聞きたいのか?」
「聞かないほうがよろしいのでしたら、聞かないほうがよろしいですけど。このまま、貴女がそのような表情をしておりますと、少々、気まずいので。出来ることならその不服そうな表情の理由を聞きたいのですが」
「……」
ダメだろうか?
そのような気持ちを持ちながら、マディソンの表情を眺める。
彼女の表情は先ほどから何一つ変わらず、ただただ不服そうな表情が目に見える。
「長い」
「はい?」
「言葉が長い。少しは短くして見せろ」
「?」
一体、何を?
「……気にしないでくれ」
「?」
私は不思議そうに思いながら、マディソンの事を見ていると、彼女は私から顔を隠すようにそっぽを向く。
うむぅ、だが、彼女は一体、何を言いたかったのだろうか?
本当にわからない。
「……」
「……」
会話が終わる。
先ほどまでの会話はまるで「天気の話」のようにあまりにも長く続かないものという事だけはわかった。これに関しては話題を振った私が悪いのだろうか?
「それに、お前は少し毒があるな」
「?」
急な話の転換に私は分からなくなる。
何の話題ですか?
「……もしかして分かっていないのか?」
「残念ながら」
「……お前がさっき言った言葉だよ」
「先ほど?」
先ほど、といいますと、私は確か、マディソンの不服そうな表情に疑問を抱き話しかけてみたことだろうか?
「もしかして、貴女の不服そうな表情の理由でしょうか?」
「それではないが、まぁ、そういうものなのだろう」
「?」
一体、彼女の言いたいことが理解できない私は必死に彼女の言いたいことを考えてみるが思いつかない。
「……分からないのなら、別に良い」
「? そうですか」
「お前のその表情を見ていると、先ほどまでの気分ではなくなった」
「そう、ですか」
私は一切、理解できなかったが、何かマディソンは不服そうな表情をやめた。
「では理由を言ってくれるという事ですか?」
「いわん」
「うん?」
おや、この進みは教えてくれるはずなのでは無いのだろうか?
マディソンはまるで、子供がいじける様な顔をしており、先ほどの不服そうな表情よりも気まずい状態が酷くなったような気がする。
「なぜ、不服なのか言ってくれない、と?」
「あぁ」
「なぜにして?」
「言った所で恥ずべき者は私だけだ。それに理由を言った所でお前は理解できるとは到底思えない」
「う~ん?」
理由を語りながらも徐々にマディソンの顔をいじけたような表情をしていく。
うむ、うむ、これをどうすればよろしいというものだろうか?
分からない。分からないぞ。大人の体をした子供など前世で一度たりとも会った事も無いし、話した事も無い。
「……朴念仁め」
「?」
深く考えていると、急にマディソンは私に向かって何か話してくる。
何と言ったのだろうか? 私はうまく聞き取れず、彼女に再び聞こうとしてみるが、どうやっても返答の「へ」も見せてくれはしない。
うむ、困った。
「……………なぜ」
「?」
「なぜ、あの男女と私の扱いがあれほど違うのか」
「?」
すると、マディソンは私の方へと振り向かずそう文句を言ってくる。
『あの男女と私の扱いがあれほど違うのか』とは、どういう意味なのだろうか?
「えっと、どういう事でしょうか?」
「さっきも言ったが、なんであいつと私があれほど、差があるのだ?」
「差?」
差、とはいわれても一体、どこがおかしいのだが。
私は、何一つ差と言うものを与えていない様に頑張っていたのだが。
「理解できないのか?」
「はい」
どう頑張っても、どういう所に差があるのかと思っているのかさえも分からない。
「……………理解できないのか?」
「はい」
マディソンは私の方を向かず、ただクエストの発注先へと顔が向いており、私の方へと何一つ顔色一つ見せない。
「だぁ! 本当に理解していないのか!」
「!?」
すると、マディソンは私の方へと振り向き大きな声を上げながら私の事を見てくる。
まるで何かに焦っているようだった。
「な、何がでしょうか?」
「なぜ、あの男女に対してはあんな紳士的な対応をしていたのに私に対してはそんなに素っ気ない対応をするんだ!」
「!?」
そう言う事!?
「私の方が階級的にはあの男女よりも上なのに、なぜ、なぜだ!」
「なぜ、といわれましても」
それは貴女が露骨に敵意むき出しで私の事を見てくるからではないのでしょうか?
初対面でのあの対応は、正直言いますと、あまり良い物とは言えませんし、ましてや私の情報をボロボロ、言うのですから不信感の一つや二つを思われてもおかしくは無いというものです。
もし、そうではなくても貴女の行動が影響しているのではかと思いますけれど……私的には適材適所。そのときの対処方法をしているのですが……それでは駄目だったのでしょうか?
「私が男臭い振る舞いをしているからか!」
いえ。
「それとも、淑女的な一面を持っていないからか!」
いいえ。
「それとも、女として見られていないのか」
それはありませんから安心してください。
私はどのような方であろうとも、その人その人の適切な対応押していますからおかしい所とかは無いようにしています。
そのため、貴女の場合はどちらかと言いますと、警戒するべき淑女として見ていますから何一つ心配なさる所は無いかと思われます。
「ぐぅぅ」
マディソンは自身の言いたいことを言いきったせいか、まるで小さな犬が威嚇するように唸り声をあげ、私の方を見てきていた。
「えっと」
「なんだ!」
「安心してください」
「……………?」
私は急にそう言って見せるが、やはり、マディソンはすぐにその状況が飲み込めず不思議そうな顔で私の事を見ていた。
そうなると、わつぃも早めに本題にへと移らなければいけないというものだ。
「私はきちんと、貴女のことを『女性』として見ていますよ?」
「え?」
「けれども、女性的な扱いをしていいのかと言われてしまうと、貴女はそうではないと判断したまでですので」
「なっ!」
む? なんで、そのような、今すぐにでも起こりそうな顔を?
「もしそれがあまり好みでは無いというのでしたら少しだけ考えを改めさせてもらいたいと思います」
「……………」
こう締めてみたものなのだが、マディソンの顔をは先ほどと変わりなく不満そうな顔で私の事を見ていた。
「そうか」
不満そうな顔をしながらも、私にそう返事を答えると彼女は発注先へと振り返りそのまま、歩き出してしまった。
「これで、良かったのでしょうか?」
少々、気まずい雰囲気を残しながらも私は彼女の後姿を見ていた。
だが、その視線は完全に信頼する人の目ではなく、どことなく不信感を持った人の目という事を悟られない様に静かで柔らかい瞳で彼女の背中を見ていた。
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