第37話 依頼《クエスト》

 チュンチュン、

 騒がしい一日が終わり朝日が差し込む。

 この世界に来て、三度目の朝を迎えた。


「……」


 結局の所、あの一夜には何もなく、襲撃も何かおかしいこともなかった。

 少々腑に落ちない点があるが、気にしていたところでは意味がない。


「どうかしたか?」

「いや、何でもありません」


 十分な睡眠は取れたが、こう予想外なことが起きると何もしていないが疲労感が襲ってくる。

 せっかく、準備したのだから、来てくれてもよろしかったのではないか? けど、こう考えを持っている時点私は徐々に普通の人間じゃないところが垣間見える。


「期待しすぎたかな?」

「? どうした」

「いいえ」


 マディソンには不思議そうな顔で見られるが、とうの私はそんなことにさえも何か深く言えるはずもない。

 ただ疲れた。

 そんな気分だった。


「なんだその顔は、朝餉がまずがったか?」

「あ、えっと、違います」

「じゃあ、なんなのだ?」

「予想外だっただけです」

「?」


 そう、予想外だ。

 襲撃がないことも、朝餉が普通なことも、こちらに来てからは普通なことに予想外な気持ちになってしまう。

 予想外なことに驚く事が無いため、普通であることに逆に予想外な気分になってしまう。


「はぁ」


 そして、今現在、私とマディソンは昨日、寄ったギルドに向かっていた。

 私が一日でも早く、一文無しから終わりたいため、こうやってマディソンに相談しギルドで発注しているクエスト、とやらをしに行くために向かっている。


「……あのすみません」

「? なんだ?」

「クエストの仕組みを一つ、教えてもらいませんか?」

「それは今でないとダメか?」

「……そうですねぇ、今とは言いません」

「なら、ギルドについてからにしてやる」

「はい」


 マディソンにそういうと、私たちはギルドに向かって歩き続ける。

 ギィィ、


「あらぁ、今日も来たのぉ? もぉう! 大好きだわぁ!」


 ギルドにつき、ゆっくりと軋むギルドの扉を開くと、そこには受付嬢のMs.カエロナがいた。

 彼女の言う言葉は、大きな声でギルド内を響き渡り多くの冒険者や職員たちは一斉にこちらのほうに向いてくる。


「……うるさ」


 そして、マディソンは静かにそのようなことを呟き、何一つ顔色変えずずかずかとまるで我が物顔で進んでいく。

 そんな彼女の後ろを私はついていく。


「おい、男女おとこおんなうるさいぞ」

「あら、そう?」

「……チッ、さっさとクエストを出せ」

「それなら、ボードに貼ってあるからぁ。そこから取ってくるといいわぁ」

「……くそ」


 マディソンな不服そうな対応にMs.カエロナは丁寧に対応し、マディソンの怒りさえも受け流す。その姿はまるで熟年の受付嬢そのものだった。迷惑な客を丁寧にあしらうとは、相当なストレスになっているのではないのだろうか? 今度、何か差し入れを渡したほうがいいな。

 迷惑にならなければ、だが。


「おい、行くぞ」

「わかりました」


 私はそのようなことを考えているとマディソンに呼び出され、すでに先に言っているマディソンにへとついていく。


「……これは?」

「クエストボードだ。あの、男女も言っていただろう?」

「あぁ、Ms.カエロナが確かに言っていましたね」

「……あぁ、そうだな」


 うん? なんで、マディソンは不服そうな顔をしているのでしyぉうか?

 ま、今は目の前にあるクエストから何をするかを慎重に選ばねければいけませんね。


「ん? そういえば、この紙の右端に書かれている判はなんでしょうか?」

「あ? あぁ、それか。それはクエストランクだ」

「クエスト、ランク?」

「あぁ、そうだ。簡単に言えば、難易度だな」

「ふむ」


 難易度、ですか……。

 そうなるとこのSというものは最高難易度のものなのだろうか? 文字の色は他の文字よりは金箔が含まれているように見えるのだが。

 まずは、聞いてみようか。


「となると、このSというものが一番難しいのですか?」

「いや、その上にSS、SSS、EXというものがあるぞ?」

「EX?」

「国際レベルものということだな」

「ふむ、そうですか」


 国際レベル……世界レベルのことなのだろうか?


「それにしても、そんなことをよく知っていたな」

「いえいえ、全然」


 私自身の記憶ではないですから。このSランクとかは全てこの体の記憶ですし。私自身の記憶にはそのような記憶は一片たりともありませんから。

 けれども、私自身の記憶にないものがあるという気分は少々気持ち悪いものでもあるが、反面、面白いものである。


「ま、いいか。説明に戻るぞ。EXからGまであるクエストレベルは危険度の事を指していて、EからGまでは比較的簡単な任務で、BからDまでは慣れていないと駄目なもので、A以上になると、ベテラン、エース、戦い慣れをした奴らのことを指すぞ。たまにその中から国との契約をして国家要員になったりすることや契約冒険者になったりすることがある」

「契約冒険者」

「あぁ、契約冒険者にあると物流の取引の際に贔屓などされるからな。ほとんどのA級冒険者の奴らは契約冒険者だな」


 ほぉ、それはいいことを聞いた。簡単に言えば、スポンサーというわけか。


「偶にはクランを組んだりしている奴はいるがこの話は後でしよう」

「クラン……」


 すると、急にマディソンからは気になる言葉が聞こえたのだが、彼女は後にするということなのだから。今は聞かないことにしておこう。

 にしても、こうクエストの量が多いと、どれにしようか迷ってしまうものなのだが。どうしたものか。


「どうした?」

「いえ、どのクエストにしたらいいのかと迷っていたところですよ」

「ふむ、そういうことなら、この最下級クエストからやればいいだろう」

「これ、ですか」


 マディソンはそう言いながら、私の前に一枚の紙を差し出す。

 その紙には、『薬草採取の依頼』というものだった。クエストランクの判は最下級のGランクの判が押されていた。

 ふむ、確かにこのクエストならこちらの世界に来たばかりの私でもやりやすい物だな。


「どうだ?」

「そうですねぇ……これにしましょう」

「そうか。なら、さっきの男女の所に行くぞ」

「え? なぜ?」

「受注するために決まっているだろう」

「あぁ」


 そういうことか。確かにそのことを忘れてしまった。

 確かにこの紙っ切れを持っていた所で意味があるかと言われたら、そうとも言えないものだろう。


「では、先に出口にいるからお前はさっさと受注を済ませろよ」

「わかりました」


 そのためにも、私はマディソンに言われるまま、Ms.カエロナの所に向かい、Ms.カエロナに「あらぁ、これにしちゃうのぉ?」と不思議そうな言葉を受けながらも、出したクエストの紙に受注の判を押すと、「いってらっしゃい♪」と短い言葉をいただくと、私は何も言わず、小さく会釈をしてマディソンが待っているギルドの出口へと向かった。

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