第22話 中立神から君へ

 私は自身の体に恐怖を覚えながらも、アストライア様からくれた物を見る。


「これは……?」


 だが先ほどまでの恐怖心がまるで霧が晴れるが如く、箱に入っていたものに目を奪われる。


「なんだ、これは!」


 木箱に入っていたのは、見た事ある銃の数々だった。


「これは、ウインチェスターM1892? こっちは四四式騎銃?」


 その中には、かつての懐かしい銃もあり、私は手に取ってその銃の感触を楽しむ。


「では、これは何だ?」


 だがウィンチェスターM1892の後ろにある見た事もない銃を見る。

 瞬間、再び頭の中に文字が入るような感覚が走った。


「グロック19、L96A1……」

 

 見た事の無い形に細かいディテール。銃の構造さえも私は見た事なかったが、自然に口からその銃の名前が漏れ出す。


「そうか、これはこの体の記憶か」


 私は少しだけ考えこむと、その理由が少しだけ分かった気がする。

 頭の中に流れこむ、この情報量の山。それは、この体の記憶と知識。けれども、なぜこんなことになったのか。

 理由は簡単だ。

 この私に与えられたスキルとやらが原因になっているのではないかと思う。

 先ほどの異常なほどの『体の強固さ』に、説明にあった『嘘を見抜く力』、そして最後には『知識の共有』。これが私に与えられた『中立神の加護』。

 私の魂の記憶と、この体の持ち主の記憶。この二つが珈琲にミルクが綺麗な螺旋を描いて混じり合う。


「ふむ、完全に混ざったか」


 過去から、現在、そしてかつての未来の記憶が私の中で混ざり合い、私が欲するべき記憶が構成されていく。


「これが、こうなっているのか。それに、これも素晴らしいな」


 手に取る銃の使い方が、構造が、全て私の頭の中で理解し、行動へと移す。弾の弾倉カートリッジに弾を詰め込み、銃に装填していく。

 他にも私の死後にどのように国が進み、世界が変化し、歴史が動いたのか理解した。その結論は、私から言わせてもらうと「本末転倒」だった。結局は、あの大日本帝国は見事なほど呆気なく散った。私が売った武器は、死後、急に生産数が減り、人員も食料も減り、結局は駄目駄目と言って制限をかけ続けた結果、国民が耐え切れず国家が崩壊した。憐れな国だった。


「まぁ、どちらにしろ負けることは分かっていたんだけどな」


 元々、在米日本人だったためかアメリカの強さを知っていたし、私の商人としての基礎はそこで学んだ。だからこそ、彼らの恐ろしさは重々承知だった。


「まぁ、これを作るような国だからな」


 そう言いながら私は手にウインチェスターM1892を見る。

 これも起源は西部開拓時代の産物で、人の死を生み上げてきた悲劇的な作品の一種だ。これを大量生産して多くの人たちを殺した。

 だからこそ、あの国は恐ろしい。


「まぁ、これらは使い方は分かるが、どう持ち運ぶか」


 拳銃一丁、小銃二丁、狙撃銃一丁、弾は総数5000発以上、すぐになくなるということはないだろうけど、それに対する問題はこれらを一斉に持ち運ぶことであった。

 持ち運ぶこととなると、銃を隠すための外套にケース、弾や持ち物を運ぶための袋が必要になる。


「どうしたものか……うん?」


 すると木箱の中に一枚、白いメッセージカードが入っていた。

 私はそのメッセージカードを手に取り、読むとそこにはこのようなことが書かれていた。


Καλό ταξίδι.よき、旅を。


 流暢なギリシャ語でそう書かれていたメッセージカードを見ると、差出人が一体誰なのか一瞬でわかる。

 メッセージカードを読み終えると、木箱の中にある緩衝材の木くずの中から何かの端が見えた。木くずを払いながらそれをを取ると、私の知識には無い、の知識にはあった。

 

「ケースか……」


 それらはスナイパーライフルやショットガンなどが全て入るガンケースが入っていた。外見は細く、あまり入らないような見た目をしていたが、実際、ケースを開けてしまえば、見た目以上にケースの中は広く、容易に多くの弾や銃などが入るよう見えた。


「このような物が後世にはあるのだなぁ」


 私はそのケースにしみじみと思いながらも見ながら、次々と銃を入れていく。

 このケースの他にもガンショルダーが入っており、私はそれをブレザーのの下に身に着けると、胸元に空いたガンホルダーにグロック19を入れる。

 グロック19とホルダーは調度、入るようなサイズだった。


「本当にありがとうございます。アストライア様」


 私はこれを下さったアストライア様に対して感謝の言葉を言うと、くださった銃と弾薬をしまい終え、準備を終える。

 そして感謝の言葉を理解したのか、準備をい終えるとメッセージカードと木箱は霧のように霧散し消える。


「にしても、重いと思ったんだがそれほどでもないな」


 若さゆえか、それともただ単に体が頑強であるためか、簡単に多くの銃や弾が入ったケースを持つ。


「にしても、カテナさん。遅いですね」


 私がこれ程長く準備していたというのに、カテナメイド長はやってくる気配が無い。それに、カテナメイド長に地図などを受け取らなければ、この姿は違和感しかない。


「探しに、行きますか」


 さすがに長い時間、間を開けると心配になるという物。

 それに今日のあの一件は、確実にカテナメイド長にも危害が来てもおかしくないと思う。なぜなら、私の暗殺に失敗したのだから、彼女はどこか消されるのではないかと思ってしまう。

 この国は、かつての大日本帝国にどこか似ているから……。

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