第23話 探す

 私がカテナメイド長を探して、十分近く経っただろうか。

 日は既に高く昇っており、小鳥たちも囀る事を止めている。ただ城内に響くのは人の声のみ、高官かそれとも使用人か、誰かの話す声は聞こえてくる。


「どこに言ったんでしょう?」


 既に城内を歩き回り、カテナメイド長のことを探してみるが見つかりはしない。

 誰もいない大きな廊下をただ一人、私は歩いていた。


「ん?」


 すると窓辺からとある人影が見える。

 誰かと思い、急に隠れると、そこにはエルバート宰相と自身の角度的には見えなかったがフードを被った人物がいた。どうやら何か話しているらしく。私は気付かれぬようにゆっくりと窓の端から話している内容を盗み聞く。


「そちらの進行はどうだ?」

「順調ですよ」

「そうか、だがこっちは予想外な事が起きた」

「なんでしょうか?」

「召喚した勇者たちの中に変に私たちのことを勘繰る者がいたのだ」

「なんですと? それは計画に支障が出るのでは?」

「そうならないために、あの女で口封じをするつもりだったが……あの女、何ということか失敗なんかしおって」

「ほうほう、なら貴方様は何がしたいので?」

「あの女ごと、その勘繰る者を殺してほしい」

「!?」


 まさか、そう来るは……。

 この国は何やら怪しいと思っていたがまさかそこまでだったとは……。

 だが、これで足取りは少し掴めた。この国を牛耳っている人物は腐敗の象徴であり、残すべきではない者なのだと。だが、そのためにカテナメイド長に被害を出させるわけにはいかない。


「………………」


 私はゆっくりと、その場から離れカテナメイド長を探し保護するために、その場を走る。

 後ろから「何者!?」という声が聞こえたが自分には関係ない。ただ廊下を走り、彼女を探す。

 通り掛る使用人たちに、すまない、と言いながら避けて進む。


「どこだ?」


 城内を探し、辺りを見渡す。

 カテナメイド長の姿は未だに見えず、ただ見えるのは綺麗な装飾をした廊下しか見えなかった。


「………………これ以上時間かけるわけにもいかないよな」


 正直言うと、この廊下の装飾を長く見ていたかったが、今は人命にも関わることだ。人命と芸術なら、まだ人命の方が手に取る。私はそのぐらいのことはしたい。

 それにもう、私が原因で人が目の前に死んでほしくない。


「行かなきゃ、って、わっ!」

「きゃっ!」


 すると誰かとぶつかる。

 体をよろけさせながらも、ぶつかった相手を謝ろうとして、相手を見るとそこにはカテナメイド長がいた。


「カテナさん!?」

「矢代様!? なぜこのような所に!?」

「いや、遅かったから。つい……、それにしてもなぜこんなに時間が?」

「えっと、矢代様が求めていたコンパスがあまり見つからず、祖父が使っていたお古の物がやっと見つかりまして、それで遅くなってしまいました」

「そ、そうなの……」


 カテナメイド長はそう言いながら、私の前に外套と地図、そして方位磁石を出してくる。


「あ、ありがとうございます」


 私はそれを素直に受け取る。


「じゃ、じゃなくて! カテナさん、今すぐここから逃げますよ!」

「え? なぜです?」

「エルバート宰相が私もろともあなたも消すつもりです!」

「!!」


 私がそう言うと、カテナメイド長は驚いたような顔で私の事を見てくる。

 当然それだけではなく、聞いた話を全てカテナメイド長に話すと、カテナメイド長は顔を青くし、小さく震え始める。


「大丈夫ですか!?」

「ま、まさか、そんなことが……」


 駄目だこれは。

 私はカテナメイド長の様子を見て、すぐさま、彼女がすぐに行動に起こせる状況ではないと知ると、彼女の体を揺らしすぐさまこちらに戻すように仕掛ける。

 だが、戻らない。これだと、敵に襲われてしまう。


「カテナさん、カテナさん、……………しっかりしなさい! それでも、ここのメイド長ですか! カテナ・アルザスティ!」

「!!」

「あなたが慌ててしまって、あなたを支持する部下たちはどうありますか! 少しは冷静になりなさい!」

「は、はい」


 私はカテナメイド長に対して大きな声で叱責すると、彼女は呆けた顔で私の事を見てくる。


「………落ち着きました?」

「は、はひ」

「では、今すぐ逃げましょう」

「あ、はい。でなくて! ちょっと待ってください!」

「なんですか?」


 私がカテナメイド長の腕の引っ張って行こうとした瞬間、彼女に止められてしまう。


「なんですか!」

「わ、私が逃げ出してしまえば、他のメイドに被害が出てしまうんです」

「!!」


 そうだった。カテナメイド長は本来、彼女たちのために行動していたために、自身の事よりも彼女たちの方が大事なのだ。

 だが、そうなってしまうと、カテナメイド長に被害が来てしまうし、挙句の果てには死ぬ、と言う結末になってしまう。

 片方を選べば、片方を失う。まさに究極の選択。人に与えられた苦渋の選択。

 それが今、私にへと突き付けられていた。


「ですが、どちらにしろ被害を出さないで進むことはできません」

「そんな!!」


 結局、私はこの答えを出した。

 どちらかの犠牲を出る選択を、そして、カテナメイド長を取る選択を、選んだ。

 少数の為に多数を殺す、その選択を選んだ。

 カテナメイド長は悲しそうな顔で私の事を見てくるが、私はそれ以上に何もできない自身のことを憎んだ。


「………………」


 だが私の心の中はそれを許せなかった。

 己の行動が、選択が、何より過去から何一つ変わろうとしなかった私の不甲斐なさに許せなかった。


「分かりました」

「えっ?」

「犠牲を出さない、は無理ですけどできる限り犠牲を出させない様に頑張ります」

「………………」


 これは覚悟じゃない。決意表明だ。もう過去に戻るつもりはないという決意表明だ。だからこそ、もう私は間違えない。


「行きましょう」

「…………………」


 私がそう言うと、カテナメイド長は私の手を取り、その場を走り出した。

 

「見つけましたよ」

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