第19話 王の間

 カテナメイド長の手を取り、私は彼女の姿を整えると、私の敵と思われるものがいる扉に手をかける。


「本当に行くのですか?」

「えぇ、でなければいけませんから。前にも後ろにも」

「そうですか」


 私はそう言いながら、カテナメイド長を背中に扉を開いた。

 扉を開いた瞬間、眩しい光が視界一面を包み、徐々に光が収まると、そこには昨日と同じく多くの人たちがいた。


「………………」


 私が入ってもがやがやと話す声を響き続ける。

 まるで私が扉を開いた言うことさえも、知らないかのように、


「お、待っていたぞ。何していたんだ?」

「いや、色々あって………」


 私は健太の質問に、そう答えると、健太は「おお、そうか!」と何も考えていないのだが、それとも察してこのような行為を取っているのか分からないけれど、私はそう言ってくれて安心と感じた。


「このざわつきは一体何だい?」

「あ? あぁ、皆、この国の王様とまだ来ていないクラスメイト達を待っているだよ。だから、暇だからこうやって話しているんだよ」

「そう、か」


 そうか、そうなのか。彼から見たらそうなのか、私から見てしまえば、政界の牽制としてしか見えない。

 だが、それは薄汚れた世界を視続けたからだろう。私は健太のような幸せな考えはできない。今もこうしていているだけでも既に考えの違いが出ている。

 ガチャ、


「待たせたな」

「?」


 大きな声と共に、誰かが私の後ろで扉を開ける。

 私を含めて、この場をいる人たちが空いた扉の方を見ると、そこにはクラスメイトの男子と王様が並んでやってきていた。

 この人たちが入ってきた瞬間、先程まで騒がしいかったはずのこの王の間は、急に静かになった。


「…………」


 王様の隣にいる男子生徒はまるで、謙虚そうで身振りだけでも人の信頼を引き入れる様なそのような物を感じた。だが、私の直感は言っている。

 油断するな、と。

 私の魂に刻み込まれている商人の直感か、それともこの体の原因か、まぁ、どちらにしても彼を信用にはできない。


「ん? どうかしたのかい?」

「あ、すみません」


 私はそう話しかけてくる男子生徒に私は塞いでいた道を開ける。

 

「ごめんね」

「あ、大丈夫です」


 謝りながら王様と同じく玉座の前に向かう彼に対して私はそんな彼の背中を見ることしかできなかった。


「大丈夫か?」

「あ、うん」


 そんな姿に健太は私に話しかけてくれる。

 だが、私は健太の言葉にどこか浮遊感に包まれていた。


「すごいよな。あいつ」

「ねぇ、健太。彼は一体?」

「あん? お前、あいつのことも忘れたのかよ」

「あ、……まぁ」

「はぁ、あいつは武田 勝臣だよ。自己紹介の時に成績トップ委員長って言われただろう」

「あー、そうだっけ?」

「そうだよ」


 何せ、私にはその記憶さえも無いし、そのような事を言われても分からない。

 それにしても、武田、か。記憶にない名前だ。あの容姿も記憶に無い。どういうことだろうか? アストライア様はなぜ似ていているかと言う問いに確か、『血筋』と答えていたが、私の記憶にはあのような知り合いはいやしない。

 では誰だ?


「では、今日の話をしましょうか」


 玉座に座った王様がそう言うと、貴族たちは急に頭を下げ始める。

 私たちもそれにつられるように頭を下げ始めると、王様が「良い」と言い、皆、頭を上げ始める。だが、私やクラスメイト達は数秒ぐらい遅れて頭を上げる。


「では、答えを聞こう」


 まさか、すぐに聞くとは、

 王様は大きな声を上げながら私たちの方を見てくる。


「俺はやるよ」


 誰かがそう言って瞬間、私も、僕も、と次々と王様たちの条件を飲んで戦うことを選ぶ。その中には、あの武田や青木もいた。

 次々と戦う事を選ぶ彼らに対して、私だけが何も言わずその場を佇んでいた。


「では、君たちは我らの為に戦っ「断ります」…………え?」


 王様が何か言い終わるという所で、私は遮るように言うと、王様からは呆気ない声が出てくる。


「ど、どういうことですかな」

「どういうことと、言われましても、言った通りです。私は、あなたのいう要求は聞けません」

「な、なぜですか……」

「なぜ、と言われても私はあなたたちの意向についていけないです」

「えっ?」


 不確定要素が多く、言っていることに信用性はない。

 それなのに、半ば命を懸けて戦いに向かわせるなんて至極千万。それに今回の件と言い、昨日の事と言い信用性が無いものについていくことはできない。


「そう言うことですので、失礼します」


 私がそうはっきりと言うと、玉座に座る王様を背中に私は出ていこうとする。


「おい、待て。矢代。そこまで言う必要あるのか!?」

「…………誰かが言わなければこの状況をおかしいと理解しませんから」


 私はそう言って、軽く会釈をすると、そのまま王の間を抜けた。


「それが一体、どんなことを表しているのか。分かるのか?」

「えぇ、知っていますとも、その瞳や声音には我が祖国の臭いがありますから」


 去り際に武田に言われたその言葉、私は絞まる扉の隙間からそう答えた。

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